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資料II
アメリカにおけるアーツ・イン・ヘルスケア
アートをもちいたケアする人のケア
 財団法人たんぽぽの家では、1996年から交流のあるアメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会1)、芸術とヘルスケア協会と「ケアする人のケア」共同プロジェクト(2002年度事業)を行っている。2002年4月にフロリダ大学で開かれた年次大会の一環として行われた「ケアする人のケア(Caring for the Caregiver)」会議に参加し、「ケアする人のケア・サポートシステム研究」について発表した。
 アメリカにおけるアーツ・イン・ヘルスケアの取り組みは、治療としてのアートセラピーも含め、広い意味で人間のこころとからだに与えるアートの力、癒しのプロセスを高めていくアートの可能性について提案している。そして、ケアを受ける人だけでなく、ケアを担う家族や、ケアを提供する専門職など、ケアに関わるすべての人にとってアートによるヘルスケアが必要であるという考えのもと、さまざまな実践が各地で展開されている。
 ここでは、「ケアする人のケア」会議への参加に併せてアメリカで視察した病院やNPOについて、多彩なプログラムのなかでも、特にケアする人を対象としているものを紹介する。
 
[註]
1) アメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会
(Society for the Arts in Healthcare)〈http://societyartshealthcare.org
1991年に設立された学会で、ヘルスケアの現場にアートを取り入れていくことを目的に、医療従事者、アーティスト、デザイナー、アートセラピスト、建築家、地方や中央の政府機関の人などさまざまな人たちで構成されている。
デューク大学メディカルセンター
 
ノースカロライナ州 cultural.services@mc.duke.edu
 
 デューク大学メディカルセンターの「文化サービス(Cultural Services)」は、入院患者やその家族、外来患者、医療スタッフおよび大学の教員・学生に対して、芸術や文化を取り入れたプログラムを提供している。アートをとおして癒しの環境を整えていくことは、ケアの現場でもっとも必要とされている心の安らぎと元気をもたらすという考えで、専属のスタッフが中心になり、多岐にわたる分野で活動を展開している。
 美を持ちこむ (“bring beauty”) ことは、一人ひとりの魂を癒していく (“touch the spirit”) ことにつながり、また病院を中心としたコミュニティ全体を癒していく (“celebrate community”) ことにもつながる。
 
■visual Arts (ビジュアルアーツ)
 院内の数ヵ所に展示ケースがあり、50点ほどの作品を1年を通じて展示している。作品の多くは、地元のアーティストのものであるが、病院のスタッフも自分たちの作品を展示することができる。医療スタッフが自分の作品を展示することは、患者やスタッフたちが、それぞれの役割を超えて互いの人間性に触れる機会となる。
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メモリアルキルト
 半年以内に亡くなった患者をケアしていた家族などを招待して、メモリアルキルトの制作プログラムを実施。参加者は、患者との思い出の布の切れ端をもちより、アーティストの協力によってキルトを制作した。
 
■Performing Arts (パフォーミングアーツ)
 ダンサーやオペラ歌手、ゴスペルの合唱団などが、患者やその家族のためにパフォーマンスを披露する。ロビーなどの公共スペースで行われるほか、病室に出向いてコンサートをすることもある。また、玄関ロビーでは、ボランティアがピアノを演奏するなど、忙しい医療スタッフが通りすがりに音楽に触れることができる。
 夏には、屋外で開かれるアートフェスティバルで、医療スタッフが出演してさまざまなパフォーマンスを行う。パフォーマンスの練習を通じてスタッフの粋が強くなり、また祝ったりお祭りをすることは、つながりの強いコミュニティをつくるのに役立つ。
 
■Literary Arts (文学)
 ロビーや廊下には、文化サービスが選んだ詩が展示されている。患者や家族、医療スタッフにとって、読んで楽しむこと、幅広い教養に触れること、そしてその詩をきっかけとしてコミュニケーションが生まれるといった効果がある。
 また、医療スタッフが詩や小説について話し合う「文学の円卓」が毎週開かれる。このグループは、患者や家族に対して言葉のワークショップをコーディネートしたり、詩のコンテストを開き、患者の家族やスタッフから寄せられた作品を、病院内の展示ケースに展、示したり、冊子にして配付したりする。
 
■Environmental Arts (環境芸術)
 玄関ロビーは、木の緑や自然光、美術作品を取り入れることによって、訪れる人たちや医療スタッフを和ませる空間になっている。また、屋外に展示された芸術作品を観賞できるヒーリングガーデン(癒しの庭)、ハーブなどを楽しめるフレグランスガーデン(香りの庭)などがあり、ガーデンウオーク(庭の散歩)が楽しめる。
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木の緑や水を取り入れた吹き抜けのロビー
 
ウェイクフォレスト大学バプティストメディカルセンター
 
ノースカロライナ州 http://www.wfubmc.edu
 
 ウェイクフォレスト大学バプティストメディカルセンターのビジュアル&パフォーミングアーツ委員会 (Visual&Performing Arts Committee) は、医師や看護師らによって構成されている。スタッフや患者、患者の家族をはじめとするあらゆる人びとが、オリジナルのビジュアルアートや、ライブパフォーマンスなどに触れたり参加する機会を提供している。
 
■ギャラリー
 病棟の廊下や食堂の一隅を利用したギャラリーが病院全体で5ヵ所運営されており、3ヵ月ごとに展示が入れ換えられる。作品は販売されており、また、ギャラリーのうちのひとつは、障害のある人たちの作品を展示している。
 
■Arts Alive (アーツアライブ)
 パフォーマンスは、体だけでなく心やスピリットに癒しのプロセスをもたらす。アーツアライブは、病院が主催してプロのパフォーマーを招き、年に4〜5回開催するイベント。医療スタッフや患者、患者の家族や友達など、あらゆる人びとが無料で観ることができる。
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アートマシーン
煙草の自動販売機を改良して作ったアートの自動販売機。5ドルで煙草の箱の大きさのクラフト作品が買える。マシーンに入れて販売されるアート作品は、病院のスタッフらが作ったもので、売上は小児科の子どもたちが使うアートの材料費や、新しく建設される小児科病棟の環境づくりに使われる。








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