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解剖学実習を終えて
 外間 洋平
 医者になるために誰もが経験する人体解剖、それは私にとって目から鱗が落ちる経験でした。一年生の間に机上での勉強を一通り終え二年生での実習に臨むのだが、話で聞き想像していたものとは全く違っていました。一番初めの実習で初めて実習室に入った時、正直なところ恐怖心に襲われました。私はその日の夜、家に帰りあの恐怖心はなんだったのだろうと考えました。今まで目にした事のない光景を目の当たりにして圧倒された事も理由のひとつではありましたが、自分と姿、形の同じ人間に自分がメスを使い解剖していくという罪悪感が大きな理由でした。医学部に入ったからといって所詮二年生の自分にご遺体を解剖する権利はあるのかと考えもしました。それから一週間ほどは罪悪感を引きずったまま実習に臨んでいましたが、ある時、献体してくださった本人やその家族のことを考えました。どうして献体してくださったのだろうか。その答えは次第にひとつにまとまり、それは医学を志す我々にしっかりと人体解剖というものを学んで欲しいという願いがあったからだと思いました。そう考えるとしっかりと勉強をしないことが、ご遺体に一番失礼なことだと思い、実習にも積極的に参加できるようになりました。そして、ご遺体に対する感謝の気持ちは絶対に忘れませんでした。実習の始めと終わりにする黙祷は、そういう意味でとても大切な時間でした。実習が何ヶ月か続き終わりの方に近付くにつれ、自分の知識も増え一年生の頃とは明らかに違っていました。百聞は一見にしかずという言葉どおり、黒板を使って勉強するよりも実際の体を見た方が何倍も早く身に着き忘れにくくなっていました。最後の納棺の日は私にとって特別な思いがありました。解剖をさせていただいたご遺体を棺の中に寝かせ、献花を添えて閉じるとき、感謝の気持ちでいっぱいでした。解剖実習を通して医学の知識はもちろんだが、それ以外にもたくさんのことを学びました。献体してくださった方やそのご家族の方への感謝の気持ちを持ち、そして自分は社会の人たちに支えられて医学を学んでいるのだと認識できました。ご遺体に感謝の気持ちを直接伝えることは出来ませんが、その気持ちを忘れずに勉学に励み、将来医師として社会に恩返しをできるようになりたいと思います。








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