クロアチアの5つの国有造船所は全て1994年に設立されたCroatian Shipbuilding Companyの会員となっている。同社は1997年に1950年代半ばに設立されたAssociation Jadranbrodと合併し「クロアチア造船会社」(Hrvatska Brodogradnja)^注8 となった。同社の過半数の持分はクロアチア政府が保有している。同社は、資金の調達、資材の購入、造船所の近代化計画、労働者の訓練、営業などの役割を担っている。同社の傘下にある5大造船所は次のとおりである。

　

　

　クロアチア造船会社の会員には、艦艇造船所、修繕造船所、小型内航船造船所、海洋構造物造船所、ディーゼルエンジンメーカー等の舶用機器製造事業者なども含まれている。

　

　ユーゴスラビア時代には、クロアチアの新造造船所は、自己経営の原則の下でそれぞれが独立した経営を行っていた。5大造船所はなお国有であるものの、この方針は今も引き継がれている。各造船所は個々に独立し、時には競合もするが、協調して行動している。こうした関係は、海外の船主から大量受注を可能とするクロアチア造船会社の活動を通じてもたらされている。1990年代、同社は大量の受注を各造船所に割り振ることで、個々の造船所の限られた建造能力を有効に活用してきた。^注9　1992年の独立以降、クロアチアの主要造船所で年間4、5隻以上の建造を行っている造船所はないことから、同社のこうした役割は非常に重要であった。^注10　クロアチア造船業の現在の建造能力は、年間約20隻となっているが、現在進行中の近代化計画によりいくつかの造船所では建造能力の増加を計画している。

　

　建造船種で見ると、近年のクロアチアの竣工量の多くは、原油タンカー、プロダクトタンカー、ケミカルタンカー、バルクキャリア、コンテナ船に集中している。これらの船種は洗練さでは他の国の造船所に劣るとされるものの、堅牢な作りと信頼性で好評を得ている。クロアチア造船業は一般に、その熟練労働者及び技術的専門性及び個々の顧客の要望に沿った特注船作りにかける熱意で有名である。個々の造船所では、特にこの点での柔軟性を強調している。クロアチアの造船事業者で大量生産路線をとっている事業者はおらず、むしろ顧客の特殊な要請への対応に力を入れる傾向にある。

　

　このテーラーメイド戦略が特定の船主からの繰り返しの発注獲得を可能とし、西欧の造船所との競争で低くなりがちな船価を救っている。また、冷凍船、ro-ro船、フェリーなどの高度な船舶の建造もてがけられている。ここ2年では韓国も参加する商談でクロアチアに発注をする船主も出てきている。

　

　独立後の主要造船所の主要建造船種は以下のとおりである。

　

　

　上記のとおり、クロアチア造船業のほとんどは5万DWT以下のバラ積み船の建造に大きく依存している。過去20年間で建造船種は多様化してきたものの、クロアチア造船業は高付加価値船分野で確固たる地位を獲得できていない。また、在来船種への依存でクロアチア造船業は東欧やアジアの価格競争力のある造船所との競争を余儀なくされている。例えば、1992年以降クロアチアの竣工の多くを占めるハンディサイズ・ハンディマックスのバルクキャリアやプロダクトタンカーは、この10年極めて低い船価にとどまっている。クロアチア造船事業者の新造・修繕設備の一覧を添付資料Cに示す。