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6. 米国バージ産業における技術発展
 バージ部門の技術発展としては、タグとバージの連結システムの改善、シングルハル・バージのダブルハル化工法、アフラマックス級ハルのATBをメキシコ湾におけるシャトルタンカーとして利用する提案等が挙げられる。
6-1 Intercon連結システム
 
 インターコンATB連結器は、沿岸航路で運航中の、及び現在建造中の多数のタグ・バージ連結システムとして採用されている。現在、インターコン連結システムはMaritrans社の35,000dwt級タンクバージであるMaritrans 300とLiberty級タグとの連結システムや、Penn Maritime社の17,000dwt級タンクバージであるAtlanticとEliza級タグとの連結システム等、合計タグ10隻、バージ8隻で採用され、運航中である。サプライヤーによれば、この連結システムにより、広範な海況におけるプッシングが可能になり、またタグとバージ間の船体接触が完全になくなる。喫水またはトリムにかかわらず連結が可能であり、最大3度までの水平方向のずれと傾斜は連結器により吸収され、デッキ上に乗員がいなくても、連結、切り離しを行うことができる。サプライヤーは、現在使用されているシステムは波高7.2メートルの荒海でも安全であり、新世代のVoyager級航洋タグは、最大波高10メートルの海象でも押航することができると主張している。
 
Voyager Class ATB Highpower Ocean Tug
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水線長 153' 8 3/8"
最大型幅 44.00'
型深さ 23.91'
計画喫水 19,500'
満載喫水 20.000'
計画排水量 2200 LT
満載排水量 2307 LT
最大速力 (単体) 14.9 kt
主機 EMD 20-710 G7BL(R) Diesels, 5,000 BHP (900 RPM)2基
減速機 固定ピッチ、可変ピッチプロペラの双方に対応
耐航性(設計) Sea State 12(単体)
軸発電機 250 kW x 2基(可変ピッチの場合)
ディーゼル発電機 200 kW x 2基、105 kW x 1基(最大)
船級 Maltese Cross A1/Ocean Towing AMS/ACCU(ABS)
定員 最大11名
 Voyager級ATBタグはOcean Tug/Barge Engineering 社により、ATB運航に適した馬力の高い設計のタグを提供するために開発された。このようなタグのニーズは、ATB概念が成功し、より大型、より高速のバージに適用されはじめたことを示している。OTBE社の船舶型のバージ設計では、バージ高速化のためにより馬力の高いタグが求められてきた。OTBE社はATB設計の長い経験を活かしてVoyager級タグを設計した。このタグは造船所の「生産可能性」の観点からだけでなく、保守と操作しやすさを最大限に追求した設計となっている。タグボート運転者の観点からは、人間工学を取り入れた設計となっている。
 Voyagerは操作、保守が簡単で、なおかつ経済的に建造できる設計である。船主にあわせた特別仕様も可能であり、造船所標準タグよりも、せいぜい5%しかコストはかわらず、これを0%に近づけることも可能である。ハルの形は特に、OTBE社の航洋バージシリーズのラインにあわせた設計となっており、また外板は曲面の少ない簡単な設計になっている。ハルと船尾形状は、この種の運航につきものの耐航性要件を考慮した設計となっており、船尾シェアを有している。インターコン搭載船として走行する場合は、タグは決して曳航することはないが、それでも、このタグは海路においてトウイングタグとしても優秀に機能する。OTBE社のタグがすべてそうであるように、Voyagerはインターコンの他にもBludworth、Artubar、Articouple等の動作が確認された海上連結システムを使用することができる。また、小さい甲板室を設け、長距離航行用タグとしても建造可能である。設計パッケージは、単純な概念設計から現場図、スチールカッティングまで提供できる。
出典: Ocean Tug & Barge Engineering
 
 
Intercon タグ・バージ連結器
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 タグ側連結器は複数の歯車面を組み込んだ鋳鋼界面ヘッドを採用している。バージ側連結器は、連結時に自動的に心合わせができ、かつ、最小限のスペースで最大限の荷重支持能力を維持するように設計された鍛鋼球状支点上にマウントされている。タグの縦揺れによって引き起こされる水平方向の回転は、界面ヘッドの上下のガイドピンによってラムに伝達され、回転は円筒状の軸受け箱に設置された軸受けにより伝達され、その他の相対運動は全て調整される。
 タグの両舷のラムは、ねじ切りされた合金製シャフトを連結器の船内側終端部にある青銅製ボス(やはりねじ切りがされている)にかみ合わせて回転されることにより稼働し、展張及び収納することができる。シャフトは電動機により駆動されるが、減速機によって高速及び低速の二段階の設定がなされており、低速時の押し込み力は26万ポンド(約11.8t)となっている。なお、駆動動力源として油圧モーターを使用することも可能である。
 シャフトが受ける船体横方向の力は、ハウジング内のスラスト・ベアリングによって支えられる。スラスト・ベアリングは、水槽試験により横方向力が最大となる最悪条件を決定し、これに十分耐えられるよう設定される。また、横方向力を監視するためハウジング内にはロード・セルが組み込まれている。
6-2 Acomarin連結器
 
 K-Sea Transportationは、Acomarins設計の関節式連結システムを採用したタグ・バージの第一船の引渡しを受け、この連結システムを採用したダブルハル・バージさらに4隻を発注している。同システムは、ピンとソケットを組み合わせたものであり、タグのサイドからピンが突出し、これがバージのサイドに設けられたノッチ(溝)にある7つの円状ソケットのいずれかに勘合するようになっている。タグとバージ間に、他の接触部はなく、タグはノッチで押航中も自由に縦揺れすることができる。ピンをソケット内にはめ込むのには圧縮空気が利用される。同システムの長所は、連結器に場所を取らないことと、既存のタグにも容易に取り付けられることである。また、他の連結システムよりも35%軽量だとされている。Acomarinは、フィンランドのエンジニアリング会社であるが、同連結システムを米国で売り込むために、フロリダ州タンパに事務所を開設した。
 
Acomarin 連結システム
(拡大画面: 124 KB)
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EQUIPMENT
1.Coupling Fixing plate on barge 2 pcs, eg.800×4000mm
2.Cylinder block on pusher 2 pcs, eg.500×1400mm
3.Pneumatic panel 1 pc, ebt.500×800mm
4.Junction box 1 pc
5.Control panel 1 pc,200×300mm
 
EQIPMENT WEIGHTS
Force Pusher boat total Barge total
1500ton 15ton 23ton
700ton 9ton 12ton
400ton 7ton 9ton
200ton 5ton 7ton
 
6-3 シングルハル・バージのダブルハル化
 
 OPA90により、米国沿岸においては、大きさにかかわらず、シングルハル・バージの段階的廃止が義務づけられた。ほとんどの会社は、この要件に対して、ダブルハル・バージを新造することで対処しているが、Maritrans社は既存のシングルハル・バージのダブルハル化工法を開発した。同工法は、内側のハルを前もって組立て、既存のハルの中にはめ込むものである。タンパ・ベイ造船で4隻目の改造工事が進行中である。同工事は、25万バレル(約39,700キロリットル)のOcean 250バージを、1,640万ドルでダブルハル化するものである。これ以前に、25万バレル(約39,700キロリットル)のOcean Citiesの改造が行われたが、費用は1,550万ドルで、約6ヵ月の工期が必要であった。Maritans社は、ダブルハル化工事の資本投資額は、同様の寸法のバージを新造した場合の約半分ですむと述べている。
6-4 タグ・バージのメキシコ湾でのシャトルタンカーとしての利用
 
 メキシコ湾において将来、既存のパイプライン網から離れた超大水深油田で生産が行われるようになれば、石油の陸岸への輸送のためにシャトルタンカーの需要が生じる公算が高い。この事業分野に関心を抱いてる複数の企業が、シャトルタンカーとしてATB設計の採用を検討しており、アラバマ造船所とベンダー造船の少なくとも2社の造船所がこのプランを売り込んでいる。タグ・バージの主要な長所とされているのは、ハルと推進ユニットを別個に建造することができる点である。これにより、入札造船所が増え、価格競争により船主にとってコスト減となる機会が広がることが期待される。また、ATBでは標準タンカーよりも小人数の配乗が可能であることから、運航コストが低いことも長所のひとつとされている。しかし、シャトルタンカー規模のバージにATB設計を採用することに、深刻な技術的な問題も存在する。輸送需要を考えれば、バージは少なくとも55万バレル(約86,900キロリットル)の積載能力を持つ必要があり、これは現在操業中のどのATBよりも相当大きいものとなる。また、油田での着脱作業は危険で複雑であり、さらにシャトルATB上の着脱作業は、通常のATBの着脱作業より労働力を要することを考慮すれば、通常のATBで見られる程度まで乗員数を減らすことは困難であろう。このため、ATBの経済メリットは少なく、シャトル運航には、ATBではなく、標準タンカーが利用されると見るのが妥当であろう。








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