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5. 米国におけるバージ建造
 本章では、過去10年間のバージ、タグ及び曳船の建造傾向と、現在のバージ建造活動について論じる。また、バージ、タグ建造を手掛ける主要な造船所を概説する。
5-1 バージ、タグ及び曳船建造の推移
 
 陸軍工兵隊によれば、1990年から1999年(2000年データはまだ発表されていない)の間に、年間平均約820隻のドライバージと78隻のタンクバージが建造された。同時期に、タグまたは曳船の建造数は年間平均28隻であり、毎年平均してバージ3隻、タグ4隻が改造(rebuilt)された。1990年代の後半に、建造及び改造レベルは上昇している。
 
図I-2 バージ、タグ及び曳船の建造数の推移 1990〜1999
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出典: 陸軍工兵隊
5-2 現在発注されている航洋バージ及びタグ
 
 現在29隻の沿岸バージ(ほとんどがタンクバージ)と14隻のタグの発注が確定、またはオプションとなっている。この数字には、Maritrans社のタンクバージの大掛かりなダブルハル化工事も含まれている。これらの契約総額は約4億6,500万ドルである。詳細は次表を参照のこと。
 
表I-11 沿岸バージ及びタグの発注状況
船主 規模 造船所 契約額(百万$) 引渡し予定
バージ
Allied Towing 129,000 bbl 1 Alabama Shipyard $17 2002
Bouchard Trans. 110,000 bbl 1 Halter Marine 10 2002/03
Bouchard Trans. 110,000 bbl 1 Halter Marine (option) 10  
K-Sea Transportation 80,000 bbl 2 Bollinger Shipyards 26 2002
K-Sea Transportation 100,000 bbl 2 Bollinger Shipyards 32 2002
Maritrans 250,000 bbl 1 Tampa Bay Shpbldg.(改造) 16 2002
Penn Maritime 129,000 bbl 1 Alabama Shipyard 17 2002
Reinauer Maritime 143,000 bbl 1 Alabama Shipyard(options) 18 2002
Barges Unlimited 80,000 bbl 1 SENESCO 7 2002
Seacoast Towing 80,000 bbl 1 Halter Marine 8 2002
Seacoast Towing 80,000 bbl 1 Halter Marine (option) 8  
Undisclosed 80,000 bbl 1 Halter Marine 7 2002
Vessel Mgmt. Services 155,000 bbl 2 Halter Marine 36 2002
Vessel Mgmt. Services 155,000 bbl 4 Halter Marine (options) 72  
Vessel Mgmt. Services 155,000 bbl 2 Bay Shipbuilding 36 2002
Vessel Mgmt. Services 155,000 bbl 2 Bay Shipbuilding (options) 36 2002
Sause Bros. 80,000 bbl 1 Gunderson Marine 7 2002
Alaska Marine Lines 360' deck 1 Gunderson Marine 5 2002
Alaska Railroad 420' rail 3 Gunderson Marine 不明 2002
タグ/曳船
Allied Towing 8,000 BHP 1 Atlantic Marine 7 2002
Vessel Mgmt. Services 9,280 BHP 2 Halter Marine 16 2002
Vessel Mgmt. Services 9,280 BHP 4 Halter Marine (options) 32  
Foss Maritime 6,250 BHP 3 Halter Marine 16 2002
Marinette Marine 9,280 BHP 2 Marco 16 2002/03
Marinette Marine 9,280 bhp 2 Marco (options) 16  
 
 現在建造中の河川バージの数についてはデータが入手できなかった。その一因は、河川バージの主要建造造船所であるJeffboatは、ACBLの子会社であり、現在のバージ受注残高についての情報を公表していないからである。ACBLはJeffboatに対する船舶の発注数についての情報は、企業秘密にあたると考えている。しかし、最近の建造数データに基づいて推定すれば、Jeffboatをはじめとする内陸バージ建造施設では現在700〜900隻の河川バージの受注残高があると考えられる。
5-3 バージの主要建造造船所
 
 沿岸航路向けバージの主要建造造船所としては、ハルター・マリン、ボリンジャー、ベイ造船、アラバマ造船所、タンパ・ベイ造船、ガンダーソン・マリン、ジェフボートがあげられる。各造船について以下に概説する。
 
ハルター・マリン
 同社は海洋及びオフショア機器建造を専門とする株式公開会社Friede Goldman Halter(FGH)の完全子会社である。ハルターは現在、ミシシッピのガルフポート工場、モス・モスポイント工場、ルイジアナのポート・ビエンビル工場で、沿岸バージ11隻、タグ10隻の建造契約(確定、オプションを含む)を受注している。最近では、全長332フィート(約101.2m)、型幅75フィート(約22.9m)、喫水25フィート(約7.6m)のダブルハル白油タンクバージの建造を受注している。船主名は公表されていない。当該バージはシリーズの2隻目であり、契約署名から約12ヵ月後に完工の予定である。当該契約価格は約700万ドルである。2001年の年央には、Bouchard向けに110,000バレル(約17,500キロリットル)のダブルハル、424フィート(約129.2m)のATBの建造契約を受注した。建造には約15ヵ月を要し、計画価格は約1,000万ドルである。親会社であるFGHは、深刻な財政問題に瀕しており、チャプター11破産保護の下で運営されている。
 
ボリンジャー
 同社は一族所有の企業であり、メキシコ湾岸に14の小規模な造船所を所有し、USCG艦艇、オフショア・サプライ船、タグ・バージの建造・修理を専門にしている。同社は現在、K-Sea Transportation向けに4隻の沿岸タンクバージを受注している。これらのバージのうち2隻は積載能力80,000バレル(約12,700キロリットル)、2隻は100,000バレル(約15,900キロリットル)となっている。これらは東海岸北部での輸送用に建造されている。バージのモジュールはボリンジャーのアメリア工場(ルイジアナ)で建造され、同社のグレトナ工場(ルイジアナ)に送られ、そこで最終組立てと配管等のシステム据付け工事が行われる。当該バージはフィンランドのAcomarin社が設計した関節式連結システムを搭載し、既存のK-Seaタグとの連結運航能力を有する。各バージは、ダブルハル構造であり、完全分離バラストを備え、貨物監視及び揮発成分回収システムを搭載することとなっている。
 
ベイ・造船
 五大湖のウィスコンシン州スタージョン・ベイにあるこの造船所は、五大湖運航船舶の保全、修理を専門にしている。同造船所は長い間、五大湖セルフ・アンローダーの建造で活躍していたが、1980年代にSeaLand Service向けに3隻のコンテナ船を建造して、財政状態が悪化した。SeaLand契約で失敗した後、ベイ造船は長期にわたって事業を船舶の保全と修理に限定することにした。最近になって、ベイ造船は造船事業に復帰し、バージ契約に焦点を当てている。現在、ベイ造船はVessel Management Services向けに、Intercom連結システムを採用した155,000バレル(約24,600キロリットル)のATBを最高で4隻建造する契約を受注している。契約価格は7,200万ドルである。ベイ造船は大型の造船施設と、全長1,000フィート(約304.8m)の船舶が入渠可能なドライ・ドックを保有している。同社は最近、近郊のマリネット(ウィスコンシン州)の小型施設であるマリネット・マリンを買収した。マリネット・マリンは広範なエンジニアリング能力と、USCG向けブイテンダー1隻に加えフェリー3隻の手持ち工事を有している。
 
アラバマ造船所
 同造船所はフロリダに本社を置く持株会社、アトランティック・マリンの子会社である。アラバマ造船所は大規模な鉄構組立能力を有しており、最大全長950フィート(約289.6m)、型幅160フィート(48.8m)のバージの建造が可能である。同造船所は、現在、Allied Towing社とPenn Maritime社向けに、合計2隻の129,000バレル(約20,500キロリットル)級沿岸ATBを建造中である。また、Reinauer Transportation向けにIntercon連結システム採用の143,000バレル(約22,700キロリットル)級沿岸ATBの建造契約も受注している。同船はReinauer向けにアラバマ造船所が建造する3隻目のATBとなる。アラバマ造船所は最近、外国向けタンカーを建造した唯一の米国造船所として注目を集めた。1998年に同造船所は、デンマーク船主向けに2隻のケミカルタンカーを引き渡した。
 
タンパ・ベイ造船
 同社造船施設は62エーカーにわたって広がり、最大全長746フィート(約227.4m)の船舶を収容することができる3基のドライ・ドックを保有している。同造船所は最近、船舶の保全、修理とバージの大規模改造契約に事業の焦点を当てている。Maritrans社はタンパ・ベイに、シングルハル・バージのダブルハル化工事を発注した。現在、同造船所では4隻目のダブルハル化工事が進行中である。バージのダブルハル化に際して、タンパ・ベイは重量約1,300トンの内側ハルを前もって組立て、デッキを取り除き、バージ内に内側ハルを据付け、デッキをもとに戻す工法をとっている。この改造コストは、1,500〜1,600万ドルである。タンパ・ベイも財政難とは無縁ではない。同社は、もとはオハイオ州ローレインのアメリカン・シップビルディング社の子会社だったが、親会社が倒産した。経営難に加えて、タンパ・ベイは技術的な問題から米国海軍向けに建造していた3隻の艦船を完成することができず、最終的に施設は閉鎖された。その後、1990年代末に同社は再開したところである。
 
ガンダーソン・マリン
 オレゴン州ポートランドの同造船所は、大型バージ建造者としては西海岸で最も活躍しており、過去50年間にガンダーソンは西海岸、東海岸の船主向けに多種多様なバージの建造実績がある。同造船所は最大700フィート(約213.4m)の横向け進水能力を有する。1970年代末の契約には、ガス・タービン電気推進を採用したシェブロン向けダブルハル・プロダクトタンカー5隻のシリーズ建造があった。また、カリブ海向けの全長580フィート(約176.8m)、型幅105フィート(約32m)のトレーラー・バージ4隻のシリーズ建造も手掛けている。現在、ガンダーソンは全長360フィート(約109.7m)、型幅100フィート(約30.5m)、喫水22フィート(約6.7m)のAlaska Marine Lines向けデッキカーゴバージ、80,000バレル(約12,700キロリットル)のSauce Bros.向けタンクバージ、Alaska Marine Lines向け鉄道貨車バージ3隻を受注している。鉄道貨車バージはアラスカ鉄道向けであり、全長480フィート(約146.3m)、型幅100フィート(約30.5m)の大きさで、シアトルとWhitter(アラスカ)間で鉄道貨車輸送に使用される。同社は株式公開されているGreenbrier Inc.の子会社であり、最近の会計年度では、売上げ5億9,400万ドルに対して110万ドルの純収益を上げている。
 
ジェフボート
 インディアナ州ジェファーソンビルのオハイオ川に面したジェフボートは、内陸造船修理施設としては米国最大の施設である。同造船所はタンクバージ、乾貨物バージ、河川用曳船を親会社であるACBL向けに建造すると同時に、外部の顧客向けにも建造を行っている。過去60年間に、同造船所は9,000隻以上のバージと120隻を超える河川用曳船を引き渡した。同施設は、フル操業の場合、年間最高500隻のバージを建造し引き渡す能力があると見積もられている。








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