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2. バージ輸送利用のメリット
 バージは米国内航水上輸送のトン数キャパシティの85%を占め、米国内での貨物輸送量の約15%を運んでいる。バージ輸送がこのような大きな割合を占めている理由には、バージ輸送の成長を可能にする米国の地理的特色、バージ輸送に特有の経済性、水路に対する連邦助成、船舶に比べてタグ・バージの乗員数要件が緩いこと、建造及び保守のためのロケーションに柔軟性があることがあげられる。
2-1 地理的特色
 
 ミシシッピ河川系及び、それよりも規模は小さいが太平洋北西部のコロンビア/スネーク河川系はバージによる乾貨物及び液体貨物の国内輸送の大動脈となっている。メキシコ湾岸及び東海岸沿いは、イントラコースタル・ウォーターウェイのおかげで、バージ輸送に適した内水路(protected channel)となっている。また、インサイドパッセージ(Inside Passage)により、太平洋北西部−アラスカ南東部間も内水路となっている。25,000マイル(約40,233km)を超えるこれらの内水路の存在により、比較的単純なバージを輸送手段として利用することが可能となる。
2-2 バージの経済性
 
 多くの点で、バージ輸送はコストが最も低く、エネルギー効率のよい輸送方法と考えられている。業界データによれば、河川バージは燃料1ガロン(約3.8リットル)で1トンの貨物を514マイル(約827km)輸送することが可能である。鉄道輸送は、トン当たり1ガロンの燃料を202マイル(約325km)ごとに消費し、トラックは59マイル(約95km)ごとに消費する。燃費データによれば、トンマイル当たりの消費BTU1の平均値は、バージ輸送では433、鉄道輸送では696となる。積載能力の点では、河川バージ1隻は鉄道貨車15台分、15フィート(約4.6m)トレーラー60台分にあたる。バージ15隻の標準曳航による輸送貨物量と同等の貨物を輸送するためには、全長2.75マイル(約4.5km)の貨物列車と、数珠繋ぎに並べて11.5マイル(18.5km)のトラックが必要である。ミシシッピ川下流で、10,000bhpの曳船は40隻のバージを曳くことができる。これは貨車600台、トラックでは2,200台分の積載量にあたる。
1)British Thermal Unit(英熟単位): 1,055ジュールまたは約0.923ワット時、0.2520kcalに相当する。
図I-1
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2-3 連邦政府による内水路改良
 
 長年にわたり、連邦政府は米国の内水路の航行性を確保するために浚渫プロジェクトや水門建設のための資金を提供してきた。過去175年間に、これらの改良工事プロジェクトには巨額が費やされてきたが、1980年になってはじめて、河川系で運航するオペレーターは改良費用の一部の負担を求められたのである。現在でも、バージ・オペレーターは1ガロンあたり0.20ドルの燃料税を支払っているが、それでも内水路システムの維持費の半分しか負担していない。このような連邦政府の補助により、他の輸送形態、特に鉄道やパイプラインと比べて内水路の経済性が高まる結果となり、人為的にバージ輸送の成長が奨励されてきた。
 
内水路燃料税の歴史
 
 内水路燃料税は1978年に初めて導入され、26の特定の浅喫水内水路(ミシシッピ川上流及び下流を含む)で貨物を輸送する曳船及びタグの運航者に、推進用燃料1ガロンあたり10セントの税金の支払いを義務づけた。当該税は1980年10月に発効し、その後5年間かけて段階的導入が行われた。同税は、ミシシッピ川で隘路となり時代遅れとなっていたイリノイ州アルトンの第26水門堰の代替工事の支出権限を認めた法案の一部として、議会により導入された。1980年から1985年の間に徴収された燃料税は、内陸水路信託基金(Inland Waterways Trust Fund)に積み立てられたが、主に議会が支出方法を特定しなかったために、手つかずのままであった。
 1986年に、より包括的な法律が成立し、燃料税を1ガロンあたり10セントから20セントに2倍に引き上げるかわりに、他の内陸水門堰6ヵ所の代替工事が認められた。同じ法律で、議会は燃料税収入は内陸水路信託基金に積み立て、同基金は新たな浅喫水建設工事(主として水門と堰)費用の少なくとも半額、そしてこのような施設の大型復旧工事費の半額にあてることを義務づけた。水門を含む浅喫水水路のオペレーションと保守は、継続して連邦政府の責任となった。増税は1990年から1995年にかけて、段階的に導入された。1986年以来、議会は2年毎(2、3の例外があるが)に、航路及びその他の水路資源新プロジェクトを認める法律を成立させている。
 1993年、クリントン政権発足時に、ホワイトハウスは12,000マイルの浅喫水水路システムのオペレーションと保守資金を賄うために、1ガロンあたり1ドルの内陸水路燃料税増税を提案した。上下両院で審議が行われ、最終的に同提案は却下された。しかしながら、クリントン政権のもうひとつのイニシアティブは承認された。それは、航空路、高速道路、鉄道、水路による輸送に使用される燃料1ガロンあたり4.3セントの赤字削減税であった。その後、高速道路と航空路に対する税は廃止または信託基金へ転換された。バージと鉄道輸送にかけられた1ガロン4.3セントの燃料税は依然として有効であるが、今年にはこれも廃止されるというのが大方の見方である。
出典: 米国水路会議
2-4 内水路改良の実態
 
 次の表は、1999年度の米陸軍工兵隊(U.S. Army Corps of Engineers: USACE)の予算要求額と実際の支出額であるが、内陸水運に対する予算要求が非常に多い。内陸水運以外のプロジェクトはチャールストン港、フロリダ州エバーグレーズ国立公園の復元、ニューヨーク・ニュージャージー水路、ヒューストン・ガルベストン水路、ロサンゼルス港及びパスカグーラ港の6プロジェクトのみで、その他16プロジェクトは全て内陸水運プロジェクトである。面白いのは内陸水運以外の6プロジェクトに対しては、予算要求額よりも実際の支出額が圧倒的に多いのに対し、内陸水運16プロジェクトでは、実際の支出額は予算要求額を若干増加するに留まっていることである。
 即ち6プロジェクトの予算要求額合計は1億1,532万ドルで、実際の支出額が2億100万ドルであるのに対し、16プロジェクトの予算要求総額は2億5,000万ドル、支出額合計は2億9,280万ドルである。
 
表I-9 1999年度内陸水路予算内訳
プロジェクト名 1998会計年度支出金(ドル) 1998会計年度予算要求額(ドル) 1999会計年度支出金(ドル)
チャールストン港 2,000,000 0 22,000,000
コロンビア川 Fish Mitigation 95,000,000 117,000,000 60,000,000
エバーグレード復旧工事 404,000,000 88,100,000 36,000,000
Kentucky Local Addition(テネシー川) 4,000,000 0 8,500,000
ヒューストン−ガルベストン航路 20,000,000 5,220,000 49,000,000
Kill Van Kull航路(NY-NJ) 929,000 10,000,000 30,000,000
Levis & Tug Forks洪水防止 58,267,000 3,000,000 38,500,000
ロサンゼルス港 261,000,000 12,000,000 5,200,000
マーメット水門堰(Kanawha川) 1,830,000 1,500,000 6,500,000
McAlpine水門堰(オハイオ川) 6,720,000 1,000,000 5,300,000
Monongahela第2、3、4水門堰 127,000,000 4,500,000 26,500,000
Montgomery Point水門堰(アーカンソー水路) 20,000,000 19,000,000 44,000,000
Olmstead水門堰(オハイオ川) 98,440,000 54,500,000 54,000,000
パスカグーラ港(ミシシッピ) 8,000,000 0 12,000,000
ミシシッピ川上流&イリノイ航行研究 70,000,000 5,700,000 5,700,000
ミシシッピ川上流環境管理 160,000,000 18,355,000 18,900,000
ホワイト・リバーのフィージビリティ研究、アーカンソー 400,000 400,000 900,000
ミシシッピ川復旧事業
 第3水門堰 800,000 6,200,000 6,200,000
 第14水門堰 6,600,000 4,400,000 4,400,000
 第24水門堰(第1期) 5,370,000 7,100,000 7,400,000
 第24水門堰(第2期) 0 2,400,000 0
 第25水門堰 2,230,000 4,900,000 6,000,000
 
2-5 乗員要件、労働規則、安全基準
 
 沿岸タグ・バージの利用が盛んな理由は、米国の海事労組が米国籍船舶に義務づけた乗員要件及び基準によるところが大きい。MarAdによれば、米国籍船舶の平均乗員数は25〜30人であるが、ITB(一体型タグバージ)では14〜16人であり、さらに乗員数が少ないこともある。たとえば、46,000dwtのGreat Lakes Trader/Joyce L Van Enkewortは、最近五大湖向けに新造されたセルフ・アンローダー一体型タグバージ(ITB)であるが、乗員はわずか13人である。このような小人数の乗員レベルを達成することが、五大湖航路向けに標準的なセルフ・アンローダー船のかわりにITBを建造する主要な動機となっている。また、ITBに乗船する乗組員の労働規則は船舶よりも柔軟であり、同じタイプで同じ規模の船舶よりも乗員居住区域の質も一般に低い。また、ITBの検査要件は船舶と異なっており、その格差は狭まってきているとはいえ、船級協会による要件も船舶より幾分緩い。これらのすべての要素のおかげで、ITBは船舶よりも運航コストが低く、ITBに有利に働いている。
 乗員要件、安全基準の詳細については第II部を参照されたい。
2-6 建造場所の選択の幅
 
 米国で大型航洋船を建造することのできる造船所はわずかであり、これらの造船所のなかには、米国海軍工事に焦点を当て、商船建造に関心のないものもある。大型商船建造契約を獲得する意思のある造船所は、アボンデール、Nassco、アラバマ造船、クバナ・フィラデルフィアのみである。これらの造船所のうち、1社または複数が、すでに工事予定が詰まっており、新たに契約を獲得することに関心がないこともありえる。たとえば、現在、Nasscoとアボンデールは手一杯であり、さらに工事を獲得するキャパシティ(または、少なくとも関心)を持っていない。そのため、商船建造契約には、1社か2社の真剣な入札しかない場合も有りえるため、競争の欠如を反映した高価格で入札される結果となる。
 一方、ITBは少なくとも2ヵ所で建造可能であり、実際のところ複数のロケーションで建造されるのが普通である。たとえば、セルフ・アンローディングITBのGreat Lakes Trader/Joyce L Van Enkewortは、3ヵ所で建造された。740フィート(225.6m)のバージは半分ずつ、ハルターのパーリントン工場で建造された。この2セクションはその後、ハルターのニューオリンズ工場に運ばれ、接合された。タグは五大湖のベイ造船で建造された。工事をこのように分割することにより、船主は建造契約に競合を持ち込むことができたのである。
2-7 メインテナンス場所の選択肢と柔軟性
 
 同様に、船舶よりもタグ・バージのドライドッキングとメインテナンスを実施する場所の方が選択肢が広い。バージとタグを別々の場所でドライドック入りさせることも可能である。また、バージがメインテナンス、修理、または改造のために使用できない期間に、タグを別の用途に転用することも可能である。
2-8 タグ・バージに対する建造助成
 
 一般に船舶に対する助成制度としては、運航及び建造助成、資金助成プログラム、輸出クレジット、税・減価償却優遇制度、立法・マーケット助成、優先貨物、関税免除、沿岸貿易の制限、社会的・経済的プログラム、一般養成学校の設立、研究助成等があり、このうち最も内航バージ業界が恩恵を受けているのは、タイトルXI融資保証制度であろう。
 近年はタイトルXI融資プログラムに対する連邦予算も少なくなっているが、表I-10に示す1998年9月30日の時点では、総計731隻の船に29億ドルの債務があり、そのうち内陸水運分は479隻、1億2,000万ドルとなっている。また、1998年度に認められたタイトルXI融資船70隻のなかにはCanal Barge社のオープン・ホッパーバージ30隻、260フィート(約79.2m)デッキバージ2隻、120フィート(約36.6m)デッキバージ10隻が入っており、同社に対する融資額の合計は11,654,000ドルとなっている。
 
表I-10 タイトルXI融資保証(1998年9月30日)
船種 隻数 金額(100万ドル)
航洋タグ・バージ 144 264,655,387.07
バルク 51 856,607,107.25
旅客船 10 109,512,412.00
オフショア掘削産業 17 595,537,000.00
内陸 479 116,341,000.00
定期船 5 184,765,000.00
その他 5 60,558,000.00
発電船 11 543,105.000.00
造船所近代化 106,858,000.00
浚渫機器 9 28,354,119.10
合計 731 2,857,293,126.44
 
 古くから実施され、現在も多くの米国海運会社が利用している海事助成に、税制優遇がある。米国が実施している税制優遇には2種類あり、1つは資本建造基金(Capital Construction Fund: CCF)、他は建造予備基金(Construction Reserve Fund: CRF)と呼ばれるもので、共に1936年の商船法が法的根拠となっている。
 CCFは米国の会社が国際貿易船、五大湖船、遠隔地国内貿易船及び漁船を米国の造船所で建造してオペレートしようとする場合、その会社が法に従って積み立てた一定額の基金に対して税が免除される税制優遇である。船舶のオペレーターが基金に積み立てられる資金は、CCF契約(CCF Agreement)に登録された船舶の運航による収入、CCF契約船の売却あるいは処分による手取金、CCF契約船の損失に基づく賠償金あるいは保険金、CCF船の減価償却控除として許される額、基金への預金の投資及び再投資からの収入等である。CCFは1971年に創設され、1998年の預金総額は65億ドルであり、そのうち54億ドルが上記船舶の増強と近代化のために引き出されている。
 CRFもCCFと似た種類の税制優遇であるが、CRFはCCFの特典を得られない内陸水運や沿岸小型船主を対象としている。1998年9月30日現在CCFに基金を積み立てている会社は142社であり、同じく1998年3月30日現在CRFに基金を積み立てている会社は15社である。ただし、CCFやCRFは、あくまで将来の自社建造船のための基金である。ある一定の法則の下にこれら基金に積み立て、引き出して船やコンテナの買収、新造、改造を行なう場合、その引き出し額は所得とはみなされない。つまり、その額には課税されず自社船を増強することが可能である。IRSはこの特典を受けられる基金からの引き出しを「有資格引き出し(Qualified Withdrawal)」と呼んでいる。この基金は、自分で積み立てた基金であるので、IRSの定めた有資格基準以外でも引き出しは可能であるが「無資格引き出し(Non−Qualified Withdrawal)」は収入とみなされ課税される。
2-9 船員教育と研究助成
 船員養成学校、研究助成プログラムといった助成はバージ・曳船産業にも多く存在する。
 米国労働省は、2000年末メキシコ湾岸のオペレーターにSTCWを満たすための助成として400万ドルを支出することに決定した。この基金で3つの常設学校と10の移動訓練学校が開設されている。これらの学校は、テキサス州からフロリダ州に至るオペレーターの資格を有する船員全員に無料で開放され、2002年の2月1日迄のSTCW訓練期限に間に合うようにアレンジされている。
 内陸水運で今後研究されなければならないのは、運航の安全システムの研究である。現在、ミシシッピー川下流のように、ニューオリンズVTSでカバーされている地域は別として、増大する運航量に対する航行の安全性は低下している。特に都会地域では、船対船及び船対陸の音声交信が混信して、聞き取れない程になっている地域もある。
 水路の航行の安全は、航行管制が確実に行われ、ブイ等の航行補助システムがしっかりしていることが必要であるが、さらに重要なことは乗組員が水路に関する詳細な情報を把握することである。つまり水路中の事象、航行中の他船舶とそれらの貨物や乗組員といった細かい情報である。
 USCGは今後本件に関し2つのプロジェクト、即ちPAWSA(Ports and Waterways Safety Assessment)及びWMP(Waterways Management Program)を発足させ、水路の安全のための具体策を展開する予定である。








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