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付録−3
「現状打開:カナダ造船産業」から抜粋
Part III 問題と提言
助成と不公正な貿易慣行
世界の造船産業は助成と不公正な貿易慣行により蝕まれている。米国運輸省MarAdが実施した調査によれば、多くの国が自国の造船所に何らかの形で助成を行っているという。カナダは施し事業に手を出さないことを選んだのである。
 
造船産業における主要国は韓国である。2000年5月3日付けのEC委員会報告によれば、韓国は1999年の新造契約全体の33.3%を受注した(CGTベース)。日本は26%で2位、EUは17.2%、残りが23.5%であった。2000年1月に韓国は世界の受注量のなんと72%を受注、日本は10%、EUは7%であった。韓国は40%前後の助成を行っている疑いで、EUの綿密な調査の対象となっている。EUは1994年から1996年の間の韓国造船所拡張が、現在世界で20−25%と推定される造船能力過剰の主因だと結論づけた。この期間に、韓国の造船能力は3倍に拡大したと推算されている。
 
2000年12月31日現在、EUは域内の造船業に対して、直接、間接を問わず助成を行わないと宣言した。EUの造船助成は一般に20%前後と見られていた。しかし、2001年2月初旬のプレスリリースで、韓国造船所へ契約が流れるのを止めるために、直接助成をただちに20%まで引き上げることを計画していることが示唆された。これは、ヨーロッパの一部の国では、直接及び間接助成を合わせて30%に引き上げられる可能性があることを意味している。
 
韓国が助成を行っているとの認識があるかぎり、ヨーロッパと日本をはじめとする世界各国は、マーケットシェアを守るために自国造船所を助成するであろう。このように多数の国家が造船助成を行った前例はない。
 
助成問題に加え、カナダ造船所はジョーンズ・アクトのおかげで米国市場から事実上締め出されている。同法は米国港湾間の貨物輸送は米国建造、米国登録、米国所有、米国人配乗、専ら米国法人によりサービスを受け、修理される米国籍船により行われることを義務づける複数の海事法を集合的に指すものである。同法はNAFTAの適用を免除されており、カナダ造船事業者が船舶を米国に輸出することを妨げている。この要素自体が大きなハンディキャップである。カナダ自動車産業や航空機産業が、カナダの総輸出の80%以上を占める市場に対する輸出を禁じられたらどうなるか、想像してみればよくわかるだろう。店じまいを余儀なくされるのだ。
 
一方、米国建造船はカナダに非課税で輸入されている。ジョーンズ・アクトが米国のロビーグループから相当な支援を受けていることは明らかである。そのため、カナダの利益となるような本質的な改革を期待することは困難である。小規模な調整でさえも、カナダ造船業の展望を大幅に改善しうることを留意し、この問題を通商協議で米国と再協議すべき最重要案件とすることが重要である。
 
カナダの既存造船政策は、これらの外国慣行に対抗するには不足している。カナダ産業省の説明による政策の主要素は以下の通りである。それぞれの項目について、後にさらに詳細に取り扱う。
 
■ 連邦船腹の国内調達要件:これは重要な要素であるが、不幸にもこの政策について、カナダ造船所を犠牲にした例外が認められてきている。
■ NAFTA圏外からカナダに輸入される船舶に対する25%の関税:この要件は20%の外国助成については効果的であるが、助成が40%の場合は不足している(67%の関税が必要である)。この政策に関して、大型助成の状況に対処するために再検討を行い、厳しく施行し、例外を排除する必要がある。
■ 資本コスト引当減価償却期間の加速――4年間完全償却:この非常に魅力的なオプションを利用できるカナダ人投資家は非常に限られている。現行政策では本オプションは船主兼運航者にのみ有効であり、船主または運航者には有効ではない。
■ 輸出融資――12年の償却期間、最大80%:外国助成と米国のタイトルXI融資に対抗するにはこれでは不足である。競争相手はすべて、これと同レベルの条件を日常的に提供することができる。
■ マリン・ダイナミクス研究所へのアクセス:同研究所は優れた施設であるが、研究者のかなりな割合(場合によって全卒業生)が米国の雇用に流出している。
 
カナダ造船所がなぜもっと契約を受注できないか、その答は簡単である。カナダ造船所は助成受給者の世界において、助成なしで闘っているからである。カナダ造船所が契約を勝ち取るためには、20−40%の範囲の助成を乗り越えなければならない。ヨーロッパ造船所は、助成プログラムを実施しているにもかかわらず、アジアに相当な市場シェアを奪われている。契約が、最良の製品かつ・または、最低価格を提供する国ではなく、政府が最も大型の助成を行っている国の手に落ちているのは悲劇である。
 
この方程式で最も恩恵を被っているのは船主である。船主は大幅な割引価格で船舶を購入している。最も貧乏籤を引いているのはカナダ造船事業者、労働者、納税者である。非助成の人件費及び資材コストを下回る価格で販売されている外国船はすべて不公正貿易である。これは長年、過剰かつ不公正な助成及び貿易慣行の恩恵を受けることなく国際市場で地歩を固める努力を払ってきたカナダ産業に対する侮辱である。
 
造船業が生き残るためには、カナダはこの状況と積極的に闘っていく必要がある。ヨーロッパ諸国が率先して韓国に闘いを挑んできた、しかし、今のところ何の成果も上がっていない。多くの国が自国の造船産業を国家の優先事項、国家安全保障上の問題と見なしている。WTOの最も強力な加盟国である米国が、成立以来77年になるジョーンズ・アクトを強く防護しているという事実が、カナダ以外のほとんど全ての国で造船業が特別な地位を与えられることを証明している。
 
助成は、政府の産業に対する施しという形をとるとは限らない。カナダでは許されない低賃金と劣悪な環境で働く事によって、労働者自身が産業を助成している国もある。意図的に労働上、社会上の権利を抑圧することにより、一部の外国造船業者は自社の従業員を犠牲にして、効果的に受注を獲得している。こういった現実に照らし合わせて、全カナダ・パートナーシップ・プロジェクト委員会は、カナダ政府は造船業における労働基準を管理する国際社会約款を起草、奨励するべきだと考える。
 
助成と不公平貿易慣行の世界で真の競争の定義が見失われている。カナダ産業は、人件費、生産性、工事の質の点で十分に競争力を有する。カナダ産業省の報告によれば、1988年から1998年の間に、船舶建造修理産業における労働生産性は、年間2.81%の高率で成長し、10年間で31.9%の伸びを示した。労働生産性は、雇用労働者一人当たりの国内総生産(GDP)を指標にするものである。同時期の製造産業部門全体の年間成長率は0.81%であった。これに対して、航空機・航空機部品産業は1.61%であり、自動車産業は1.54%の年間成長率を示している。株式資本あたりのGDPを指標とする資本生産性では、造船業は年間4.47%という「驚異的な」伸びを示した。この「感動的かつ興味深い」生産性向上の理由の一つとして、技術の進歩があげられている。
 
賃金については、以下のデータが、他の先進国と比較したカナダの競争力を実証している。
造船業時給賃金
   人件費     年 
ドイツ $34.04  
ノルウェー 26.19  
フィンランド    25.49  
日本 25.09  
デンマーク 20.66 93
フランス 19.99  
オランダ 19.74 94
米国 18.39  
スウェーデン 17.50 93
カナダ 15.00  
英国 13.73 93
ギリシャ 13.11  
台湾 11.81  
韓国 8.03 92
出典: 米国労働統計局(1999)、特に明記のない場合、最新統計(1996年)に基づく。
 
カナダ産業省当局は、一般にカナダの品質は最高の部類に匹敵すると認められていると認識している。
 
本委員会に与えられた課題は、カナダ造船産業に、助成を利用することなく、現実的で維持可能な市場に参入を許すための提言を行うことである。状況は明らかである。我々には、時間も、画策する余裕もさほど残されていないのである。
 
外国助成が輸出市場のほとんどを損なっている。助成なしでは、カナダが輸出市場で効果的に競争するのは困難であろう。プリンス・エドワード島ジョージタウンのEast Isle造船所のパナマ向け建造のような、ニッチ市場は存在する。しかし、この場合でさえ、契約が成立するためには、州の特別な奨励措置が必要であった。
 
明日、助成が廃止されたとしても、この慣行の影響はしばらく続くであろう。助成を行っている国は、現在契約を獲得しており、シリーズ建造により、当該国の造船業の学習効率は加速的に向上し、長期的な競争力が増すであろう。このような状況下で、カナダは解決策を見出すために、まず自国の市場に目をむけなければならない。
 
3方を海に囲まれ、五大湖とセントローレンス水路に恵まれたカナダにとって、国家の優先事項とされるべき革新的で競争力のある産業のために立ち上がり、闘うべき時期が来ている。手後れになる前に。
 
カナダ連邦政府に対する提言
 
■ 世界の造船産業に助成廃止を求める。
■ アメリカにジョーンズ・アクトを改正し、カナダ造船所の参入を許すよう求める。
■ カナダ造船産業が、諸外国の助成及び加害的船価設定慣行の長期的影響を克服することができるまで、カナダ造船政策の変更を求める外国の要求に抵抗する。
■ 造船業における労働水準に関する国際社会約款の策定、促進。








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