日本財団 図書館


2.海賊対処に関する現状技術
 海賊に対処するための技術としては、襲われたときの被害軽減に関する船舶における技術と、海賊の動静を監視し抑止に繋げるための技術とに分けて考えることができる。
 
 前者の船舶における被害軽減策としては、例えば日本財団がモニター募集などを通じて利用拡大に努めている海賊警報装置「とらのもん」がある。これは光ファイバーセンサ網を舷に張り巡らしておき、海賊が舷にフックを引っかけ乗船・侵入するとこのセンサ網を引っかけ、これによりアラームを出すものである。海賊は音と光に弱いといわれており、侵入を検知するとサイレンを鳴らす、アラーム場所に投光するなどして海賊を撃退する。警戒していることがわかった船であれば、海賊はリスクを犯してまで襲わないとのことである。もっとも凶暴化、ハイテク化しつつある現代の海賊にいつまで通用するかどうかは予断を許さない。
 
 後者の海賊監視システムとしてはこれまでも考えられ、また一部が設置されてきた。例えば 沿岸レーダシステムがマラッカ海峡の海上交通監視のためにマレーシア側に導入されているが、監視能力のみならず維持管理も含めてさまざまな問題点がある。この地域は島嶼や熱帯雨林繁茂といった独特の地理環境にあり、海賊は昼間はもとより夜間の襲撃直前までこれらのかげに潜んでいるため海賊船を沿岸レーダではうまく捉えることができない。また沿岸部など人の管理の手薄な場所にレーダ設備設置を余儀なくされるため、設備の一部が盗賊に持ち去られる(太陽電池などは高額で売り捌けるのでよく狙われる)など設備維持においても困難が付きまとう。
 
 監視カメラというと、夜間も昼間のように遠くまで見通すことができる赤外線カメラが挙げられる。赤外線カメラはもともと主として軍事目的で開発されたものであり、中緯度地方の良好な気象条件下では昼夜の別なく監視が可能であるが、この地域特有の高温多湿気象環境下では水蒸気により赤外線が大きく減衰し、このために鮮明な船舶画像が得にくいという難点がある。またレーダと同様、カメラや高価な部品(遠方を見るために大口径のレンズが使われ、これらは高価な高純度のゲルマニウムでできている)が盗まれる心配がある。 加えてこれらレーダや監視カメラは監視範囲が限られるために、広い海域をカバーしようとすると方々に多数の設備を設置する必要がある。このとき設置したレーダ、監視カメラから得られた情報を場合によっては国境を越えて収集し、一元的に処理しデータ管理する、といったことが必要となり、煩雑なシステムが必要となるため実現が一層困難な状況にある。一方で有人または無人航空機(UAV)による監視がこれらの難点を解決しそうに思われ、また指定海域に随時直行し監視できる、といったメリットがあるものの、実際24時間常時監視となると費用等の面でこれも限界がある。
 
 なお前者の被害軽減と後者の抑止を狙ったものとしてSHIPLOC(Ship location system)がある。これは1992年には前述のIMBが中心となってクアラルンプールに「海賊センター」を設置し、海賊情報の収集と、事件発生時には周辺船舶への注意呼びかけを実施しているものである。図1に示すようにGPS衛星で測位した自船位置を発信機(トランスポンダ) で自動発信する装置を船舶に搭載しておき、海賊受難や海難時にGPS測位した現在位置と警報メッセージを発するようになっている。平時はSHIPLOC データセンターから顧客である船主や保険会社に船舶位置が定時ごと、インマルサット衛星を経由して配信され、積荷到着日時等の確認に使用される。海賊襲撃を受けると、受難メッセージを同様にSHIPLOCデータセンターから顧客に通報するとともに、海賊センターを経由して当該海域を管轄するコーストガード、海上警察等現地取締まり機関に即時通報し、乗組員の保護・被害軽減、ハイジャック船舶の奪還と速やかなる犯人逮捕を計ろうとするものである。しかしながらハイテク化しつつある海賊も同システムの存在を知っており、海賊は襲撃直後にまず警報装置の電源を切る、あるいは設備を破壊などするため、こういった警報装置を搭載していながら実効に繋がらない現実がある。
z0001_01.jpg
図1 SHIPLOCとIMB海賊センターによる海賊被害軽減策
 なお2002年7月からはAIS(Automatic Identification System)と称する同様なシステムが全世界の公式システムとして運用に入ることになっており、国際航海に従事する300総トン以上の船舶は端末搭載が義務付けられる。AISは160MHz帯のVHF無線を使って沿岸に設置した地上局に自船位置等のメッセージを送るものである。運用においては海賊に容易に発見されないように積荷に紛れ込ませて装着させることも考えられる。このとき使用する周波数がVHF帯であることから、端末設置アンテナが甲板上の開放された場所にあれば沿岸局に電波は十分届くものと考えられるが、船倉の中ではほとんど電波が遮蔽されてしまうため動作不能となることが予想される。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION