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1.はじめに
 海賊・海上武装強盗事件はこの10年間で急増しており、この傾向は特に東南アジア海域において顕著である。 IMBの「船舶に対する海賊・海上武装強盗統計」によると、1991〜2000年の10年間における海賊被害は地域別ではインドネシア567件、マラッカ・シンガポール海峡130件、南シナ海85件、また海賊行為のタイプ別では同期間において、乱入未遂374件、乱入1,435件、ハイジャック74件、被害別では、捕虜1,848人、船員負傷236人、殺害もしくは行方不明286人となっている。この10年間は件数増加だけでなく、かっての金品を奪えばすぐに退散するコソ泥型から、小型・高速艇で島陰から様子を窺い、夜陰に乗じて急襲、容易に乗組員を襲いあるいは殺害する強盗型、といった凶暴化のみならず、獲物となる貨物船が高価な積荷を積んでいつ、どの港をどの航路で出港するかを、役割分担により事前に把握し、待伏せて乗っ取るハイジャック型のようなハイテク化が目立ってきている。海賊に対処するための監視システムはこれまでいろいろ考案され、一部は設置・運用されているが、これといった決定打がないのが現状である。本項は従来の技術の難点を克服する一助として、衛星による宇宙からの船舶監視を提案するものである。この技術は我が国では未だリモートセンシングの一分野として捉えられているに過ぎないが、宇宙の実利用が進む欧米では、衛星が持つ広域性・繰返し監視の特長を活かし、安全保障分野だけでなく違法漁業取締まりなど自国民の経済的利益の保護や北極圏における航路開拓などで古くから研究が進められており、また部分的にではあれ、実利用されているものである。以下では従来からの現状技術を概観するとともに、衛星による海洋監視について、リモートセンシングの仕組み、海洋監視の具体的利用分野である船舶探知、海上油汚染監視の現状技術を紹介するとともに、近年我が国でも注目されている北極圏航路開拓では必要不可欠である海氷識別(海氷中の開放水面あるいは比較的薄い一年氷域を探知・識別し、最適航路を選択する)についても実例を示す。またこのような仕組みを構築するにあたって必要となる衛星システム、地上システムについての検討と、今後の課題について述べる。








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