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V  あとがき
 定期船市場では規則的な輸送サービスの提供が遵守されなければならない。迅速性という一つの条件をとりあげても、船舶の運航速度だけでなく、ターミナルでの積み替えや税関の手続きあるいは倉庫での保管作業、内陸輸送での連携など、機動力と信頼性を兼ね備えた一連の輸送活動の展開が必要となる。迅速性と正確性および低廉性はコスト節減を目指す場合、一般に、相互的に相いれない経済的矛盾が発生する。特に、迅速性と低廉性は海運企業にとっては極めて厄介な問題となる。しかし、国際海運市場で競争力を強化し、持続的な企業経営を目指すならば、トランジット・タイムの短縮を図り、コスト節減を達成できるような経営戦略を駆使することが必要である。
 
 そのような荷主からの厳しい要求は短期間にして終焉するはずはない。なぜならば、荷主のニーズは常に低廉で迅速でしかも正確な輸送サービスを追求しているからである。それに応えるには、個別企業が単独で輸送サービスを提供する方法ではなく、他社と協調して輸送サービスを提供する方法を選択するのが有効適切な経営戦略といえる。定期船市場では、ニッチ・サービスのように特定航路における単独運航形式がまだみられるものの、定期船貨物の輸送量からみると、メガ・キャリアを中心とする業務提携による共同運航形式が圧倒的に有利な展開をみせている。輸送における8つの基礎的条件をできるだけ広く充足し、荷主のニーズに対応するには、機能的な輸送システムの構築も必要となる。このような点で、やはり単独運航形式は輸送面や経営面で限界がある。
 
 このような経営戦略上の変化は定期船市場だけでなく、バルクシッピング市場においても同様である。バルクシッピング市場では、前述の基礎的条件のうち迅速性に関してはかかわりがない。この点で、海運企業は、迅速性と低廉性を同時に満たす必要はないことから、輸送活動における経済的矛盾は定期船企業ほど神経をとがらせて事業を展開する必要はない。これが市場への参入を可能にし、企業間の競争激化を招く可能性を高めているといっても過言ではない。海上荷動きの不規則な市場では、通常、一社当たりの輸送量は少なくなるので、規模の経済性を期待することは難しい。しかし、短期的には比較的安定した発生態様を示す石油や鉄鉱石あるいは石炭などの主要航路では、共同船配の経済性が最も発揮しやすい市場である。
 
 定期船市場では、基幹航路だけでなく、地域内航路あるいはフィーダー・サービスでも、業務提携による経済効果が現れている。バルクシッピング市場ではまだ定期船市場ほど大規模な波は現れていない。しかし、経済合理性を追求するならば、バルクシッピング市場でも定期船市場に類似した業務提携や共同配船が現れても不思議ではない。物流の効率化を追求し、荷主のニーズに見合う輸送サービスを提供することこそ、海運企業や物流業者の本来あるべき姿である。かくして、国際海運は今後更なる構造変化が予想される。








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