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3. 海湾における環境モニタリング調査のあり方 ―「海の健康診断」ヘ―
 沿岸域、特に閉鎖性の強い海湾では人間活動の影響を強く受けることから、過剰な負荷の流入及び埋立て等により赤潮の発生や貧酸素水塊の発生等の不具合を生じている。
 現在行われている海のモニタリング調査は、高度成長期に公害問題が表面化してから急速に整備されたもので、人間に例えると、体調が悪い場合の診察や治療に該当するものである。さらに、現在のモニタリング調査は、人にとって海が安全かどうかを監視するための調査であり、調査項目及び調査地点等に偏りのある調査となっている。
 海の健康状態を把握するためには、日常的な健康管理が大切であり、人間に例えると「健康診断」がそれに該当する。「健康診断」は悪くなりそうな場所や自覚症状のない患部を早期に発見し、予防措置を講じたり軽症のうちに治療したりするもので、健康状態を維持するために重要な調査である。
 日常の健康管理を怠り、プランクトンの異常発生、過剰な栄養塩の海底への蓄積、底層の貧酸素化及び底生生物の死滅等の環境悪化が表面化してから、環境改善を図ろうとすると、負荷の削減、堆積した汚泥の除去、生物生息場の造成等、多くの時間と費用(労力)が必要となる。
 このような治療も大切であるが、常日頃から海の健康状態を監視することにより、巨額の費用を必要とする環境修復事業を最小限にとどめることが可能となる。
 以上のことから、海の状態を把握するためのモニタリング調査は、海の状態を日常的に監視できる調査である必要がある。即ち、海の健康診断的な調査が必要であるといえる(図I-5)
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図I-5 「海の健康診断」の必要性
 
 
4. 環境モニタリング調査体制
 海湾における環境モニタリング調査は、人と同様に定期的に継続して行うことが大切である。継続的に調査を行うためには、海外の環境モニタリング調査でみられるように、比較的身近な課題について、簡便な手法で調査を行うことが重要となる。
 一方、海湾の環境モニタリング調査は、海湾の健康状態を把握することが最終的な目的であり、そのためには詳細な調査及び専門的な知識が必要となる。海湾の情報を取得するためには、現地調査と資料調査が必要であるが、詳細な調査を行う場合には、現地調査では、研究機関が有する調査機材等が必要となる。また、資料調査では海湾の環境情報、土地及び海面の利用状況等についての詳細な情報が必要となる。
 したがって、海湾の健康状態を把握することを目的としたモニタリング調査は、ある程度組織力を持った自治体等を中心とした体制を組んで行い、健康状態の評価等の専門的な知識を必要とするものについては学識者等の意見を踏まえて行うことが望ましい。
 現行のモニタリング調査を整理した結果、現行では調査結果が公表されていないものもあり、情報収集に時間が掛かるといった問題点があった。この問題点を解決するためにも、調査結果及び得られた環境情報については、すべての情報を一般に公開することを原則とし、誰もが簡単に入手することができ、入手した情報から海湾の健康状態を判断できるような、わかりやすい形にして提供することが大切である。情報公開に当たっては、インターネットを利用する等、利用しやすさも考慮する必要がある。
 また、情報の管理に当たっては、取得した環境情報の結果だけが残り、取得した時の様々な情報が消失しないようデータの質及び精度を統合して管理する仕組みを整備する必要がある。そのためにも、関係省庁及び自治体等により第三者機関を設置し、データの統一を促進する必要がある。








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