日本財団 図書館


2.2 海外の現状
 
2.2.1 海外における環境モニタリング調査の文献整理
 海外における海域の環境モニタリング事例を調査するために、文献検索を行った。検索条件等については、以下に示すとおりである。
・検索データベース:JICST(科学技術事業団)
・検索キーワード:(海洋or沿岸域)and(モニタリング)and(環境)
・検索対象年および記述言語:1981年以降、英語
 上記の条件で検索を行った結果、129件の文献が示された。129件の内容は以下のように大別することができる。
 
●モニタリング事例(71件)
生物、一次生産、生物資源のモニタリング(6件)
排水・廃水、ごみのモニタリング(19件)
環境中の化学、金属、放射能物質、石油系炭化水素のモニタリング(24件)
浚渫行為の影響モニタリング(1件)
海岸変形のモニタリング(3件)
海洋構造物の腐食モニタリング(6件)
雨水、地下水のモニタリング(3件)
大気エーロゾル、紫外線、CO2、気候変動のモニタリング(9件)
●モニタリング手法の開発、検証事例(34件)
衛星、リモートセンシングデータ利用の有効性
生物指標の選定、検証
●モニタリング計画の提唱(11件)
●その他(13件)
 
 上記のように、科学論文として公表されているものの多くは“モニタリング事例”について書かれたものであり、その大半がモニタリングの対象を一つの構造や機能に絞った調査かもしくはあるインパクトに対する環境の応答をみるためのモニタリング調査となっている。
その一方で、モニタリング調査のツールや手法の開発に関する論文も多く、特に衛星やリモートセンシングを用いた広範囲な地域を同時に調査するための研究が盛んに行われていることが窺える。また、“モニタリング計画の提唱”として区分したものには、実際に包括的なモニタリング調査を行った結果の報告と必要と思われるモニタリング計画の提唱に関して書かれた論文が含まれている。
 本調査において、参考になると思われる“モニタリング計画の提唱”から9件を選んで、以下に簡単な紹介を行う。
 
 文献中の記号の意味は次のとおりである;TI 日本語タイトル、ET 英語タイトル、AU 著者、JN 資料番号、VN 巻・号・ページ・発行年、AB 概要、KW キーワード。
 
 ―― 文献1 ――
 TI メキシコ湾東北部沿岸および海洋の生態系計画 生態系モニタリング、ミシシッピー/アラバマ大陸棚 第二年次中間報告書 (報告書1997年10月1日〜1998年9月30日)
 ET Northeastern Gulf of Mexico Coastal and Marine Ecosystem Program : Ecosystem Monitoring, Mississippi/Alabama Shelf, Second Annual Interim Report. (Rept. For 1 Oct 97-30 Sep 98.)
 AU (Continental Shelf Associates, Inc., F L)
 JN PO999A PB Rep RP PB−99−134090 VN PAGE.226p1998
 AB この年次中間報告書は、ミシシッピー/アラバマ外洋大陸棚の堅い底土層の特性を把握し、モニターを行う四年計画の二年目(フェーズ2)の結果を要約した。フェーズ2には、以前に設定した9サイトを再訪する2回のモニタリング航海があった。航海M2は、1997年10月に実施された。航海M3は、1998年4月に開始されたが、悪天候のため延期され、1998年8月に終了した。2回の係留調査も、1998年1月と7月に実施された。モニタリング計画の項目は、地質の特性評価、堆積物動特性、地球化学、海洋物理学および水路学、堅い底土層中の群落、魚類群落、および2件の関連調査(微小生息場所調査および寄生有機体集ぞく調査)等である。各項目に関して、調査原理、現地および研究室内調査手法、今日までの結果とこれに関する議論を示した。
 KW メキシコ湾;生態系;海洋物理学;沿岸帯;底生生物;環境モニタリング;大陸棚;生息場所;海洋生物;汚染監視;油汚染;浅海堆積物;現地調査;海洋汚濁
 
 ―― 文献2 ――
 TI 北海におけるモニタリング計画
 ET Monitoring Programmes in the North Sea.
 AU LAW R J (Fisheries Lab., Ministry of A griculture, Fisheries and Food, Essex)
 JN A0624B (ANPRD) (0144-557X) Anal Proc VN VOL. 29, NO. 10 PAGE. 442-443 1992
 AB 英国の農漁食糧省の漁業研究所が関係しているモニタリングを紹介した。対象試料は食用魚類・貝類、海洋ほ乳類の組織、魚類の病気、貝中の藻類毒素、海洋の下水汚泥投葉サイト、石油・天然ガス開発サイト、堆積物ベースライン、放射能である。北海特別調査団によるモニタリングマスタープランについても述べた。
 KW 北海;イギリス;環境モニタリング;汚染監視;二枚貝類;魚類;鯨類;貝類毒;海洋汚濁;汚染源;下水スラッジ;油田開発;天然ガス基地;海底堆積物;放射能
 
 ―― 文献3 ――
 TI 米国における廃水の流入する沿岸海水のモニタリング 米国国立研究協議会(国立科学アカデミー及び国立工学アカデミー) の1990年の二つの刊行物のレビュー
 ET Monitoring of coastal ocean waters receiving wastewaters in the USA: review of two 1990 publications of the USA National Research Council-National Academy of Sciences and National Academy of Engineering.
 AU GARBER W F (Loyola Marymount Univ., CA, USA)
 JN A0070A (WSTED) (0273−1223) Water Sci Technol VN VOL. 25, NO. 9 PAGE. 49-57 1992
 AB 沿岸海水のモニタリングに1955年以来、米国は莫大な資金を消費しているので、国立研究協議会の海洋部門は国家的モニタリング成果を評価する委員会を設置した。35年間のデータの情報価値は低く、また、排水口付近のデータに欠けていた。委員会は、資金の配分を含めて計画の見直しを提言した。本レポートは米国以外の国にとっても有用性が高い。
 KW 海洋汚濁; 海洋投棄; 廃水; 廃水処理水; 縁海; 環境モニタリング; 水質試験; 環境アセスメント; 調査計画; 基金; 業績評価; アメリカ
 
 ―― 文献4 ――
 TI 環境汚染防止に関する測定の保証
 ET Measurement assurance for environmental control.
 AU TARBEYEV YU V (VNIIM, Leningrad, USSR)
 JN K19890413 (0-941743-60-8) proc 2nd Symp MetroI Ass ur Environ Control 1988 VN PAGE. 5-25 1988 CO Symposium on Metrological Assurance for Environmental Control (2nd) Helsinki
 AB「環境汚染防止の計量学的保証」に関する国際測定連合・計量技術委員会の第2回シンポジウム(1988年8月22−24日、フィンランド、ヘルシンキ) の基調報文。標題に関する一般的問題を、過去の会議での著者の主張を再現しつつ述べ、各論として大気汚染物測定、河川、湖沼、海洋など水圏のモニタリングおよび環境放射能測定における国家的保証や国際的比較のための測定値の均質性の必要性を論じた。
 KW 公害計測;計量管理;環境汚染;放射能汚染;保証;均質化;汚染監視
 
 ―― 文献5 ――
 TI MONOC計画 地球規模での海洋生態系の科学的な総合モニタリングシステムの実現
 ET MONOC programme : Scientific substantiation of the integrated global ocean ecological monitoring system.
 AU TSYBAN A V (Natural Environment and Climate Monitoring Lab., SUN); IZRAEL Y A (USSR State Comittee for Hydrometeorology and Control of Natural Environment, SUN)
JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL. 11, NO. 3 PAGE. 279-292 1988-1989
 AB 海洋資源の利用と汚染物質による反生産的要素の増加に対して必要となっている地球規模での総合的海洋モニタリングシステムについて、USSRの主唱の下に1983年に開始された標記の計画の基本概念、汚染物質の生化学的循環、海洋環境の同化能力、生態学的モニタリングの基本要素および方法の選択などを科学的な視点から論述。
 KW 海洋汚濁;海洋生物;生態系;汚染監視;海洋環境;環境容量;調査計画;汚染物質; CIS【ソ連】
 
 ―― 文献6 ――
 TI IOC(政府間海洋学委員会)の海洋汚染モニタリングシステム(MARPOLMON)の発展の目標、構成要素および経験
 ET Objectives, components and experiences in the development of the IOC marine pollution monitoring system (MARPOLMON).
 AU ANDERSEN N R (National Science Foundat ion, USA); DAWSON R (Univ. Maryland, MD, USA); DUINKER J C (Kiel Univ., DEU); FAR RINGTON J W (Woods Hole Oceanographic Institution, MA, USA); KNAP A H (Bermuda Biological Station for Research, GBR); KULLENBERG G (Intergovernmental Oceanographic Commission)
 JN D0789B (EMASD) (0167−6369) Environ Monit Assess VN VOL. 11, NO. 3 PAGE. 299-314 1988-1989
 AB 地球規模での環境モニタリングシステム(GEMS)の中で海洋の化学成分の調査と測定に携わるMARPOLMONの活動に関して、その方針、モニタリング内容、データの処理について述べるとともに活動経験からの問題点などについて提言。
 KW海洋汚濁;水質汚濁質;汚染監視;国際協力;水質試験;水質管理;国際機関;観測網;データ処理
 
 ―― 文献7 ――
 TI海洋の健康とそのモニタリングの必要性
 ET The health of the oceans and the need for its monitoring.
 AU KULLENBERG G (Univ. Copenhagen)
 JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL. 7, NO. 1PAGE. 47-57 1986
 AB海洋モニタリングは、人間の健康を守るための生物の汚染質濃度の監視、環境管理を目的とする監視、水、堆積物、生物中の汚染物の分布と拡がりの情報を得るための監視、不自然な変化を検出するための監視の4目的があるが、総合監視計画の策定には、海と大気を含め、環境の重要な成分を同時に観測する必要がある。海洋の作用と人間活動との相互作用を決定する界面フラックスモデルを、生物地球化学的循環を取り入れて開発した。監視の対象として下水、有機塩素化合物、石油、金属及び放射性核種を選び、これらにつき論述。
 KW海洋汚濁;汚染監視;方法論;環境アセスメント;海洋環境;下水;有機塩素化合物;石油;金属;放射性同位体;水質汚濁質;海洋観測;循環
 
 ―― 文献8 ――
 TI世界の海洋の生態学ならびに統合された地球規模モニタリングの諸問題
 ET Ecology and the problems of world ocean integrated global monitoring.
 AU IZRAEL Y A (U. S. S. R. State Committee for Hydrometeorology and the Control of the Natural Environment); TSYBAN A V (U. S. S. R. Academy of Sciences)
 JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL. 7, NO. 1PAGE. 5-23 1986
 AB現在世界の海洋が、主として人為的排出物すなわち、石油、塩素化有機物ならびに重金属等により汚染され海洋生物ならびに生物群より成る生態系が悪影響を受けている状態を分析し、標記モニタリングの必要性を強調。同モニタリングは各地域ごとのモニタリング結果の集積ではなく世界規模の統合されたものであるべしとし、その地球物理学的ならびに生態学的な両面につき論述した。一方海洋の生態系には流体力学的な輸送、生物学的な沈降ならびに濃縮等による自浄作用があり、これによる生態系保存作用が働き上記汚染を軽減する面もありとした。しかし全体として2000年までに現在の基準を超える汚染が予測されるので適切な対応が必要と警告。
 KW海洋汚濁;海洋環境;生態系;汚染監視;海洋生物;生態学;生物濃縮;自浄作用;海洋物理学;大気海洋間相互作用;重金属汚染;有害物質;油汚染;有機塩素化合物;環境インパクト
 
 ―― 文献9 ――
 TI沿岸の計画と管理 III 国際協力 欧州共同体の環境政策
 ET Coastal planning and management. III. International cooperation. The European Community's environmental policy.
 AU SCHNEIDER G (Directorate-Central "Envi ronment, Consumer Protection and Nucl ear Safety")
 JN A0651B (0013-2942) Ekistics VN VOL. 49, NO. 293 PAGE. 165-167 1982
 AB1977-1981年環境計画に従い、沿岸域の総合管理を共同体間で行うための方策として、 1) データの入手、 2) データの配布、 3) 総合的集中的計画過程、 4) 効果のある規制、 5) 分野間、行改機関間の協力、 6) 選択的経済投資、 7) 連続モニタリングの7策が提示された。1982年の欧州計画閣僚会議、1983年の環境閣僚会議の議題にあげられている
 KW沿岸地区;ヨーロッパ共同体;環境管理;経済性
 FT[船体構造要素]
 
 
 次に、現在、収集した資料および書籍等について紹介を行う。
 
 資料
 ● 生態系の健全国際協会(International Society for Ecosystem Health(ISEH))に関する資料
 ● GOOS(Global Ocean Observing System)に関する資料
 ● The Danish Marine Environment : Has Action Improved its State?1998、Danish Environmental Protection Agency
 ● Quality Status Report2000 2000、OSPAR COMMISSION
 
 書籍
 ● ECOSYSTEM HEALTH
 Edited by : David Rapport、Robert Costanza、Paul R. Epstein、Connie Gaudet、Richard Levins
1998、Blackwell Science, Inc. (ISBN 0-632-04368-7)
 ● Integrated Assessment of Ecosystem Health
 Edited by : Kate M. Scow、Graham E. Fogg、David E. Hinton、Michael L. Johnson
1999、LEWIS PUBLISHERS (ISBN 1-56670-453-7)
 ● Ecosystem Health. New Goals for Environmental Management
 Edited by : Robert Costanza、Bryan G. Norton、Benjamin D. Haskell
1992、ISLAND PRESS (ISBN : 1-55963-140-6)
 ●Evaluating and Monitoring the Health of Large-Scale Ecosystem
 Edited by : David J. Rapport、Connie L. Gaudet、Peter Calow
1993、Springer-Verlag (ISBN : 3-540-58805-1)
 
 
2.2.2 海外における環境モニタリング調査の実態把握
 海外事例調査は、フランス、オランダ、ドイツ及びデンマークの研究機関や公的機関を対象とし、各国沿岸域における海洋環境モニタリング調査の実態及び海洋環境の考え方等について情報収集した。海外事例調査の詳細は付属資料(4)に示した。
 
<海の健康>
「海の健康」については、明確な考えを得るにはいたらなかった。「海洋環境の何を優先させるのか」、「経済(産業活動)との関わりをどのように考えるのか」というように基本的な考え方が十分に議論されていないのが現実のようである。しかし、欧州諸国の海洋環境モニタリング調査が古くから生物や生態系に着目して継続してきていることもあり、生物・生態系の調査の重要性を改めて認識した。
 相反するコメントではあるが、「全体的な生物相を調査し、食物連鎖やエネルギーフローを見ることが重要である」、「特定の種について出現状況を継続的に観察することが重要である」は、海洋環境の状態は生物を通じて知ることができることの裏づけでもある。
 
<海洋環境モニタリング調査>
身近な課題、簡便な手法、分かり易い評価、情報公開、教育・啓蒙活動がポイントであり、生物・生態系に着目した海洋環境モニタリング調査の長期的な継続性を確保している。
 
 身近な課題を的確に選定し、簡単な方法で、継続的に実施していることが特徴であり、結果も分かり易く整理されている。生物相を対象としている調査が多く、専門家による分類、同定が必要ではあるが、映像の利用、マッピング、アメーバ法などによる評価が適切に取り入れられ、一般にも分かり易い整理がされている。
 海洋環境モニタリング調査の結果が、わかり易くまとめられているのは、目的が簡潔、明瞭であるからであり、調査を継続させる重要な要因でもある。また、情報の共有化と公開性が特筆される。インターネットを活用して情報が公開され、公開された情報の利用に制限は加えられていない。ヨーロッパは複数の国が隣接し、海洋環境を当該国だけで管理していても限界があることから、情報の共有化が進んだものと考えられるが、我が国でも自治体レベルで考えると同じことが指摘でき、EU諸国における環境情報を共有化するネットワークは参考になる。
 海洋環境モニタリング調査の主要な特徴は以下のとおりである。
・目的;明瞭、簡潔な目的を設定している。
 「外来種の進入」、「潮間帯の生物相変化」、「水塊の鉛直構造変化と基礎生産」、「負荷と底層系環境」などモニタリング調査の視点が明瞭であり、簡潔である。
・手法;比較的簡単な手法で、継続可能な方法を採用している。
潜水観察(ビデオ撮影)、海岸線踏査(観察)、自動測器による鉛直観測など比較的簡単な手法が採用されている。
・頻度;時空間的な連続性のうち優先すべきものを考慮した測定、観測頻度を採用している。
1年間の観測頻度は必ずしも多くはないが、モニタリング調査が10年以上の長期に及び、変化の過程が把握しやすい。また、鉛直構造が必要な場合は、徹底した鉛直断面の観測が繰り返されるなど、目的に応じた測定計画が採用されている。
・対象;鉛直構造、底層環境、底生生物相などが調査の対象となっている。
物理、化学的な観測にとどまらず、生物相の変化や生物生産活動によってもたらされる底層環境を対象に調査が継続している。
・情報;共有化、公開性が進んでいる。
取得した環境情報の公開がモニタリング調査のもうひとつの目的でもあり、関係機関、研究機関相互の情報の共有化にとどまらず、ホームページを活用して情報を公開している。また、情報の公開は迅速に行われている。
・その他;環境教育、啓蒙活動が平行して進められている。
 
<モニタリング調査項目>
負荷、栄養塩類、基礎生産、底層の溶存酸素、底生生物、底質汚濁、有害物質が共通して出てくる調査項目であり、生物・生態系に着目した調査が実施されている。
 
 調査については限定したポイントで時間的に連続したものや面的には一定の範囲をカバーしているものの頻度は年1回であるようにまちまちであるが、モニタリングという観点からは環境が変化する原因やその過程を調査するというよりも結果を把握することに重点がおかれているようである。唯一、負荷は原因となる項目であり、河川や下水などからの流入負荷に限らず、大気中からの負荷も対象としている。底質や生物を中心とした調査の構成は、変化を確実に捉えるための有効で合理的なものであり、変化や汚染の原因を把握し、解決していくプログラムとモニタリングとは別の位置付けとなっているようである。
 海洋環境モニタリングでは、変化を明確に把握することを第一の目的とし、変化が生じる前兆をいかに早く察知するかが重要と思われる。そのためにも、継続した調査が必要である。変化の前兆が現れた段階で、原因を究明し、改善に向けての検討が必要になる。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION