日本財団 図書館


II. 海湾における環境モニタリング調査の手法
 海の健康状態を的確に把握するためには、海の健康状態を日常的に監視する、健康診断的なモニタリング調査が必要であることから、本研究調査ではこのようなモニタリング手法の検討を行った。
 検討を行ったモニタリング手法は「海の健康診断」と名付け、海の健康状態を簡便な手法で継続的に監視することが可能なモニタリング調査とした。したがって、健康状態の維持・管理、不安定要素の排除・改善、環境改善及び環境修復といった方策、いわゆる治療法までは含んでいない。
 
 
1. 「海の健康診断」の概要
1.1 構成
 「海の健康診断」の構成を図II-1に示す。「海の健康診断」を行うに当たっては、まず、対象とする海湾の基本情報を整理し、海湾の概要を把握しておくことが重要大切である。検査は比較的簡易な一次検査、専門的な知識と技術を必要とする二次検査で構成し、検査結果と海湾の基本情報とから対象海湾の健康状態を総合的に評価するものである。
 基本情報は対象海湾の地理的条件、気象的条件、社会的条件、歴史的条件及び管理的条件といった基本的な情報を整理し、海湾の概要を把握するものである。また、整理した内容は一次検査及び二次検査の調査計画立案及び総合評価に利用する。
 一次検査は、簡便な手法により海湾が健康か不健康かを評価する検査であり、誰にでも簡単にできる検査とした。検査手法は、簡単に入手できる資料を使った経年変化の整理や現場に出て生物の観察や底質の採集を行うものである。
 検査結果は評価基準に照らし合わせて、調査主体が、健康状態を評価することとなる。評価基準は、実際は不健康であるのに健康であると評価する、いわゆる誤診を防止するため、明らかに健康である場合を除いてすべて不健康と判断する厳しいものとした。一次検査の診断で“不健康”と評価された場合は、二次検査で詳細な検査を行うこととなる。一次検査の診断で“健康”と評価された場合は、持続的な健康維持及び管理を続けていくことが必要となるが、その内容は本調査研究では対象外である。
 二次検査は、再検査と精密検査とで構成する。再検査とは、一次検査で“不健康”と評価された項目について、詳細な検査を行い本当に不健康かどうか確認を行う検査のことである。再検査の結果、“健康”と評価される場合もある。再検査でも“不健康”と評価された場合には、原因究明を目的とした精密検査を行う。いずれの検査も詳細に行う検査であり、二次検査は専門的な知識と技術を必要とする内容となっている。
 検査結果から、一次検査で“不健康”と評価された項目の原因を診断することとなる。原因究明のための診断は、ガイドラインに沿って調査主体が行うこととした。二次検査の診断の結果から、不安要素の排除及び改善の努力をしていく場合と、環境修復及び改善といった外科的な治療を行う場合とに分かれるが、その内容は本研究調査では対象外である。
 総合評価は、二次検査の精密検査まで行われた後に、基本情報を踏まえて、海湾の健康状態を最終的に評価するものである。一次検査で不健康と診断され二次検査の精密検査まで行った場合でも、基本情報を考慮することにより健康と評価されて可能性もある。総合評価は、非常に高度な判断を必要とすることから、学識者で構成された検討委員会等によって評価を行うことが望ましい。
 海湾の健康状態を総合的に把握した後は、健康の維持・管理、不安定要素の排除・改善、環境改善及び環境修復といった方策を検討する必要がある。しかし、「海の健康診断」は対象海湾の健康状態を評価することを目的としており、いわゆる治療方法まで示すものではない。
 検査結果及び得られた環境情報は、すべて公開することが原則である。公開する情報は、誰もが簡単に入手することができ、入手した情報から海湾の健康状態を判断できるような、わかりやすい形にして提供することが大切である。情報公開に当たっては、インターネットを利用する等、利用しやすさを考慮した体制を構築することが大切である。
 データの質及び精度を統合して管理する仕組み(データベース等)を構築する際は、取得した時の様々な情報が消失しないように留意することが重要である。そのためにも、関係省庁及び自治体等により第三者機関を設置し、データの統一を促進する必要がある。
(拡大画面: 78 KB)
z1040_01s.jpg
図II-1 「海の健康診断」の構成
 
 
1.2 検査体制
 「海の健康診断」は人と同様に定期的に継続して行うことが大切である。この考え方に基づき、二次検査以外の基本情報の収集及び一次検査は簡便な方法で構成している。しかし、基本情報には土地や海域利用の変遷、汚水処理場の整備状況及び人口分布等、一次検査には、公共用水域の調査結果及び過去数十年分の統計資料等の様々な既存資料の収集及び整理が必要である。また、対象とする海湾によっては複数の自治体の協力が必要となる場合もある。
 検査結果及び得られた情報は、誰もが海湾の健康状態を判断できるよう、公開することを原則とし、利用面を考慮した情報公開の構築が必要となる。また、データの質及び精度を統一的に管理する仕組みを整備することも必要となる。
 以上のことから、「海の健康診断」はある程度組織力を持った自治体を中心とした検査体制を組んで行い、健康状態の評価等の専門的な知識を必要とするものについては学識者に依頼することが望ましいと考えられる。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION