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海難の発生状況
田坂 一九九八年十二月以降(TSS・船舶強制通報制度導入以降)、海難は何件発生しましたか。海難が減っている場合、新しい航路対策が効果を発揮したということでしょうか。
ラジャ・マリク 海難の発生数は、まず海難をどのように解釈するかということによって変わってきます。地元の小型船関連のものを除き、通航船が関与した海難のみについて言えば、海難件数は大幅に減少しました。最近、通航船に影響を及ぼす海難は二件発生しています。一件目はカーフェリーと沿岸貨物船の海難、これはポートディクソンとマラッカの間の南航レーン内で発生しました。両船は同航でした。小型貨物船は事故後沈没しました。もう一件はバツバルハンティ付近で発生したNatuna Sea号の事故です。この事故では重大な汚染が起こり、沿岸三国に影響を与えました。
 小型船関連事故についていえば、救難救助を発動するなどしてわれわれが関知したこれらの船のほとんどは地元帆船や小型沿岸航行船などです。小型船の安全問題は、航路通航船と切り離して考えるべきです。小型船が通航船に与える航行上の影響も懸念されますが、小型船は航海灯も貧弱でかつ衝突予防規則にも従っていない場合が多く、それに見合った適切な対策がとられなければなりません。
田坂 当事務所が調べたところでは、新TSSでは衝突が発生していません。このことからも新TSSが効果的であることがうかがえますね。
ラジャ・マリク 効果的だと言えると思いますが、実はカーフェリーと沿岸貨物船の事故が一件発生しています。カーフェリーは約一四ノットで、沿岸貨物船は約六ノットで航行しており、追い越し状態でした。このような状況では早めの回避行動が必要なのは明らかです。さもないと、小型船が背後に高い乾舷を持つ大型船を視認した場合、小型船を追い越そうとする背後の船の回避行動によりとるべき行為が混乱してしまう可能性があるのです。高い乾舷を持つ船が小型船に接近した時に、小型船の行動の選択肢を妨げてしまうことがあると私には思われます。このため、早めの回避行動が勧められます。
田坂 TSSは効果的ではあるけれど、十分ではないということでしょうか。
ラジャ・マリク そうですね。通航を分離するという点から見れば、TSSはとても有効だと思います。TSS導入以降、正面衝突は発生していませんし。旧TSSの時代にはVickraman号とタンカーMount I号が衝突するという事故も起こりました。
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対談中のラジャ・マリク海事局長(左)と田坂良一シンガポール連絡事務所長(右)
船舶通航量の変化
田坂 昨年、船舶の通航量は増加しましたか。二〇〇〇年一月から六月までのタンカー、ばら積み船、コンテナ船の月々の通航量を教えていただけますか。
ラジャ・マリク 二○○○年の統計と船の種類については、ここに資料を持ってきています。これらの統計は、ワンファザムバンクとブキセジェンティンにある当方の通報局から収集されたものです。八時間ごとの当直時間帯で、通報船のタイプや船舶が集中している海域などを分析することができます。一九九九年には四三、九六五件の通報があり、昨年は五五、九五七件の通報がありました。一年で一万二千件、約二七%も通報が増えました。
田坂 大変な増加ですね。信じ難いほどです。
ラジャ・マリク 海峡の通航船が増えたから、それだけが理由で通報数が増えたと簡単に結論付けたくないですね。それよりも通報システムが改善されたことで、増加がみられたのだと思います。今年の末までには、マラッカ海峡の利用者の増加傾向がもっとはっきりするでしょう。
 指摘しておきたい点は、マラッカ海峡の危険度を評価するということが大変重要であるということです。この点から、コンテナ船の急激な増加に留意するのが重要です。昨年だけでもマラッカ海峡の通航量の三三%を占めました。タンカーは約二四%ですね。これらの船がより速い速度で航行していることを考慮すると、現存する航路標識の再点検および再評価が必要だと言えるでしょう。
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海峡を横切る高速客船
田坂 海峡のケミカルの動きに大変関心があります。しかし、統計にはケミカルタンカーのみの数をいうのはないのですね。「タンカー」というカテゴリーの中に含まれてしまっている。タンカーのカテゴリー分けを細分化することは可能でしょうか。
ラジャ・マリク ええ、それは可能です。しかし、IMOの船舶強制通報制度のガイドラインには船の種類や貨物の種類を申告することは強制ではないと記されています。現在、私達は任意での情報の提供を求めており、船長からの協力も得られて嬉しく思っています。将来的には、データに新たなカテゴリーとして「ケミカルタンカー」を追加することは可能でしょう。今のところ、「タンカー」というカテゴリーには油、ケミカルの両方が含まれています。LNGおよびLPGはこれより区別されていますが。
 このほかに強調しておきたい点として、海峡の航行管理に関してなんですが、海峡を利用する旅客船の数が四・三%から五・九%に増加しているのです。大型クルーズ船が頻繁に海峡を行き来しており、結果としてより多くの人命が海峡にかかわっています。
田坂 そうですね。日本人の乗客も増えていますね。
ラジャ・マリク ですから、この問題については特別考慮したいと思っています。客船が関与した事故では被害が大きくなる可能性があり、多数の人命にかかわる場合がありますから。
田坂 強制船位通報制度セクター六・七間の情報の引継ぎはうまく行われていますか。
ラジャ・マリク はい、とてもうまくいっています。これはマレーシアとシンガポールの技術者グループのお陰です。インターネットを通じて情報を伝達するソフトを開発したのです。これにより、インターネットを通じてセクターからセクターへ定時に迅速に情報を伝えられるようになりました。この方法は効果的なだけではなく、経費の削減にも一役買っています。
違反行為と対策
田坂 VTSからの監視で最も多い違反行為は何ですか。
ラジャ・マリク 最も多いのは、明らかに船舶強制通報制度に従わないというものですね。通航船全体の約四%を占めています。SOLAS条約にある通り、これは違反行為です。二つ目は、少数の船が分離帯の誤ったレーンに入る、分離帯内で停泊するといったものです。三つ目はタンジュンピアイ沖で沿岸通航帯を利用している船舶がみられます。TSSを横断する船舶のために警戒海域を設けているので、船舶はできる限りTSS内をこれに沿って航行し、横断する必要がある場合には、この海域を利用して横断してもらいたい。四つ目は、これは違反行為ではないのですが、警戒海域外のTSS通行帯を横断している船舶がみられる。この行為は違法ではありませんが、勧められないですね。TSSを横断する時には、警戒海域を利用するよう指導措置を始めたいと思っています。
マレーシアのVTS局の位置(なおOFB局は未開局)
(この図ではシンガポールのVTIS局は省略)
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田坂 TSS違反報告を旗国に出したことはありますか。また、もっとも違反行為が多いのはどの旗国の船舶ですか。
ラジャ・マリク マレーシア船については、「高密立入り検査」を行っています。マレーシア船が寄港した時に船長を面接します。TSSを知らないという船は少数ですね。ほかの理由としては、当時通信装置が故障していたためVTSと連絡ができなかったというものもあります。
 マレーシアの港での「高密立入り検査」は、船舶強制通報制度の通報をせずに入港してきた船舶をターゲットにしています。九九年から二〇〇〇年にかけて通報件数が大幅に増加していることからも、この立入り検査は効果的であることが示されています。正式な通達を船長に渡し、ポート・ステート・コントロール検査を用いて、外国船籍の船にも対処しています。








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