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対談 マ・シ海峡の航行安全
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シンガポール海峡を通航するVLCC
 一九九八年十二月にマラッカ・シンガポール海峡に新通航分離方式が導入され、二年余が経過した。強制船舶通報制度は定着したのか。海難は減ったのか。船舶の通航実態はどう変化しているのか。今後に向けた対策や課題はどうなのか、などについて、同海峡の沿岸国であるマレーシアのラジャ・マリク海事局長と当協会の田坂シンガポール連絡事務所長が対談した。
TSSの効果と船舶の対応
田坂 本日はご多忙なところインタビューを引き受けてくださりありがとうございます。早速ですが、一九九八年十二月に新通航分離方式(以下「TSS」という)が導入された後の主な印象はどういったものですか。
ラジャ・マリク 私の考えでは、ワンファザムバンクからホースバーグ灯台までTSSが延長されたことは、多くの船員の福音となったと思います。一九七七年に初めて導入された旧TSSは、ワンファザムバンク付近およびシンガポール海峡付近がその範囲であったことを思い出していただきたい。最初の十年間は効果を発揮したのですが、その後重大海難が発生するようになりました。これらの海難というのはマラッカ・シンガポール海峡内でかつ旧TSSの外で発生したものです。
 ところが、一九九四年までに、交通様式、船の種類、速度等の変化を受け、旧TSS内でも多くの重大海難が発生するようになりました。旧TSSを延長するという案は、実によいタイミングで提出されました。当時、正面またはほぼ正面衝突海難が発生し、その結果重大な損失が出ていたことから、ワンファザムバンクとホースバーグの間の北航および南航レーンを分離することが求められていたのです。
田坂 導入した当初と比べて、船舶強制通報システムに参加している船の割合は現在どうなっているでしょうか。
ラジャ・マリク われわれは一九九八年十二月に船舶強制通報システムを導入した際、私どもはまず利用者に通報システムに慣れてもらうため、三カ月の習熟期間を設けました。導入当初は約六五%の船が制度に従って通報していました。
田坂 大変少ないと思われますが、六五%のみですか。
ラジャ・マリク ええ、導入当初の話ですよ。しかし一方では、通報システムの導入を待ちわびていた人達もたくさんいたんです。百%の通報を得るためには、すべての船舶が通報制度の重要性を認識しなければなりません。嬉しいことに、昨年は九五%以上の船舶が通報しています。しかしまだ、約四%の船舶からは通報が得られていません。現在、この原因について調査を行っているところです。もしかしたら、これらの船は言葉の問題やほかの問題を抱えているのかもしれません。調査を進めて、「無通報ゼロ」を目指したいと思っています。
田坂 通信装置にも問題があるかもしれませんね。ところで、航行管制が難しい海域はどこですか。TSSに入るまたはTSSから外れる地点でしょうか。
ラジャ・マリク 海上交通という観点では、マラッカ海峡のタンジュンピアイ下の南西エリア、特にシンガポール海峡西入口のあたりですね。ここにはマレーシアとシンガポールのいずれの港湾海域にも入っていない海域があり、多数の船舶が停泊して待機しています。われわれが懸念しているのは、このような停泊中の船舶の集団が夜、重要な航路標識を視界から遮ってしまったり、海峡を通航する船の航海灯を見にくくさせてしまったりすることです。
 このほかに懸念される海域は、ポートディクソンとマラッカの間です。北航・南航の交通は比較的整っているのですが、この地域には横断船や高速客船が多いということを認識しております。また、漁船が多く操業していることも航行の危険度を一層高くしています。
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