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この人と
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社団法人日本船長協会 会長 菊地 剛
 
 〈プロフィル〉
 昭和六年二月二十五日生まれ、横浜市出身、二十七年高等商船学校卒業、日本郵船入社、四十四年船長、五十年ロンドン在勤船長、五十八年(株)ユニエックス常務、平成六年(社)日本船長協会専務、七年五月から現職
 
――マ・シ海峡の現況をどうお考えですか。
菊地 年毎に航行船舶は輻湊の度を加えており、浅瀬あり、視界を狭めるスコールあり、おまけに海賊が出没するという世界でも有数の航海の難所であることに変わりありません。
 安全運航については、日本人船長は格別の関心を持っています。平成十年十二月から導入された新TSSについては日本船長協会も現役船長たちの意見を海上保安庁を通じて提案させていただき、ほとんどの内容が採決されている、という経緯があります。
 全通した新TSSと同時に運用された強制船位通報制度およびVTISによる血の通った情報提供が相乗的効果を挙げたためか、最近の船長たちの評価は高くなってきています。船舶の交通流が従来に比較してよく整流されてきている、提供される情報が詳細にわたっており、通航上大変参考になって航行しやすくなってきた、という喜ばしいものですが、一方ではシンガポールパイロットの乗船時間厳守の要望の声が依然高く、また、プッシャーバージや漁船等の小型船の行儀が昔より悪くなったという意見も多いようです。
――マ・シ海峡航行安全ガイドブック作成準備会議のご感想を。
菊地 大変結構な企画で、この会議を通じて船長たちの悩みが改善されれば嬉しいと思って、梅沢内海パイロットと共に参加しました。ビギナーの船長たちの参考になるものを沿岸三国の関係者と海峡利用者を代表して日本が加わり作成しようというもので、日本海難防止協会シンガポール連絡事務所の田坂所長の肝いりでアジア人だけによる和気あいあいの国際会議が開催されました。われわれの役割は海技的アドバイスということで、マ・シ海峡協議会が実施した各船船長によるアンケート回答内容をまとめたレポートおよびNYKが作成使用中のマ・シ海峡パッセージプランのコピーを土産として持参しました。ハンドブックの完成は二〇〇二年の春と予定されています。
――マ・シ海峡の安全対策を。
菊地 マ・シ海峡を網羅した電子海図が完成し、共同発刊が近いと聞き及びますが、早くたくさんの船に利用していただきたいと願っています。たくさんの船長たちが願っていることはルールの整備です。全域に海上衝突予防法が適用されているわけですが、脇道から来る船はメインルートを航行する船を避けるというローカルルールがあってもよいのではないか、と思います。たくさんの交差点がある海峡なので難しい問題も多いとは思いますが。二〇〇二年七月からISMコードが五百総トン以上の外航船全船に強制適用になるのに合わせて、AIS装備が強制になりますが、これは効果大だと考えます。相手船の行動が予知できるわけですから。いずれにせよ、輻湊している海域ですから、皆がシーマンシップを発揮して、ルールを守って航行することがなにより大事だと思います。
――わが国としての今後の対策は。
菊地 何よりも、この海峡は日本の生命線であるということを忘れないことだと思います。あらゆる場面で安全運航にかかわる問題には協力体制を敷くべきです。殊に、今海賊対策がクローズアップしております。日本が音頭をとって精力的に進められている点大変頼もしい限りです。沿岸三国の理解を得て日本の巡視船が海峡を遊弋しながらパトロールを実施してくれるようにでもなればさらに心強いことです。期待したいと思います。








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