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地域医療と福祉のトピックス― その45
アメリカのホスピスで学んだこと
ピースハウスチャプレン 藤井 浩
 
 アメリカではホスピスは入院、在宅と区別せず、一概に在宅ホスピスといっています。確かに大都市はもちろんのこと、地方の村々までホスピス・センターができていて、数名の看護婦さんとボランティアがその地域の終末期の患者さん、ガンだけではなく、脳梗塞、心臓病、糖尿病、アルツハイマーその他を含む末期の患者さんすべてのために、症状緩和のホスピスケアをしています。お医者さんは各自のホームドクターが担当しています。
 このようなホスピスケアがアメリカ全土に徹底したのは、高齢化した患者さんや、その家族達のやむにやまれぬニードから、下から盛り上がるようにできあがったシステムといえるのでしょう。自ずと高度な看護婦教育と地域のボランティア運動の徹底がこれを支えているのです。そして多くのキリスト教会が信仰的なエネルギーを充分与えていることも見逃せませんでした。いまではしっかりとしたMEDICARE HOSPICE BENEFITS(Revised August 1999)を作り、最小限の費用で最大のケアを提供し、終末期の患者の希望する場所で最後を迎えさせてあげられるよう努力しているのが、現在のアメリカの在宅ホスピスです。
会社経営のホスピスVITAS
 
 アメリカらしいホスピスは会社経営のホスピスVITASです。1978年に開設されてから既に15万人以上の患者をケアした実績のあるホスピスです。フロリダのマイアミに本社を置き、アメリカ全土に300以上のセンターがあり、現在アメリカで最大のホスピス・プロバイダーといわれています。そのサン・ジエゴのチャプレン訓練センターを見学しました。スピリチュアルケアが終末期の患者さんたちにとって欠かすことのできないケアであることを徹底的に学ばされていました。そこに参加している研修生のほとんどがカトリックやプロテスタント教会の神父や牧師、それに男女の神学生で、1ヵ月の研修を終えてからVITASのホスピスに配置されます。
 さらにVITASで学んだことは、
 a)Manuals(手引き書)の完備
 簡潔、単純な書類作成 報告の徹底(Paper Work)
 b)Recruiter(営業社員)
 患者を集めなければ経営が成り立たちません。そのほかスタッフ、ボランティアのよい人材を集めてくることがVITASの必須要件となっています。
 これらのことは私たちのホスピスでも学ぶところがあるように思いました。
訪問先のホスピスから学んだこと
 
カンファレンスで学んだこと
1. ホスピス・コーディネーターがそのカンファレンスを司会して、参加スタッフ全員からの声をよく集めています。ホスピス・コーディネーターはスタッフ一人一人についても、患者の病状についてもよく理解しているので参加者は発言が自由にできます。
2. 患者さんの病状だけでなく生活の些細なことについてもスタッフ全員が報告して、一同の共通理解を深めるようにしています。
3. しかし、それぞれの思いの底には患者さんの最後、死を意識して発言がなされています。自ずと患者さんのスピリチュアルケアに関心があり、死に向かう患者さんをどう支えるかが真剣に話されています。
4. ボランティアが患者さんとどう関わっているかがよく報告されています。チームの一員としての自覚が徹底しているので、ボランティアがかなりの責任を持ち、その範囲ではっきり発言しています。
5. これらの会話のすべてはカンファレンスルームの片隅でコンピューターの担当者(スタッフの場合もあったが、ボランティアが担当しているところもあった)によって記録され、それがチャート(カルテ)になっているようです。
 
悲嘆のケア
 どのホスピスにもこの担当者がいて、報告がよくなされていました。
 患者のDeath Conferenceはそれまでのケアの反省もさることながら、悲嘆のケアに焦点を置いています。
 
Fairview Hospiceにおけるカンファレンスから
 最初にコーディネーターが、亡くなられた患者さんの名前とDeath Reportと最後の様子を読み、そのときに亡くなられた患者さんの数だけローソクに火がつけられました。全員のローソクがつけられたときに、祈りを捧げ、患者さんたちの思い出をスタッフが自由に話し合いました。
 またスタッフは患者さんたちの資料(チャート)のコピーを打ち出して見ながら、その症状緩和ケアについて意見を話しあっていました。
 最後に、司会者がカードにサインして次々と回して、寄せ書きに一言書いていました。
 
Rainbow Hospiceでは
 毎週水曜日愛するものを失った子どもたち(4〜6歳グループと中学生高校生)がホスピスに夕方集まって来ます。
 
4〜6歳のグループ(8名)
 担当ボランティアがいて、子どもたちに何か記念のものを持って来て、それについて一人一人に思い出を話させます。机の真ん中に置いてあるカードを子どもたちは引いて、そこに書かれた質問に答えるようにします。思い出とか、旅行したこと、買ってもらったもの、楽しかったこと等々。粘土で何か形を作らせ、それについて説明させます。
 最後はその日にはどんな感じがしたか率直に話しあいます。
 
中学生、高校生(5名)
 ソーシャルワーカーが担当します。
 人形劇をしながら自分の家族の死について話す。
 葬儀の思い出、家族の最近の様子、墓参りについて、近所の人、友人、学校の先生がどういう態度をしているか等を自由に話をさせます。
 それらすべてについて簡単な報告書を作成してコンピューターに入力し、ホスピススタッフは、いつでも、誰でもそれぞれのコンピューターから見ることができます。
 
ボランティア精神
 まずアメリカのボランティア人口の多いのにおどろきました。何かに書かれていましたが、1億2千万人というと、ほとんど日本の人口に匹敵するほどのボランティアがいることになります。市民の助け合い精神が成熟して、ある程度ゆとりのある人、持てる人が地域社会に貢献するのが当然と思うのでしょうが、やはり、宗教的遺産を見逃すことはできません。
 
 そのような精神的影響が全くなくとも、社会全体の生活の質の向上のためにボランティアに参加することによって、いつでも、どこででも、どんなときにも生きる目的と喜びが与えられるならば、生きるもの同士のパートナーシップができるのが人間社会です。
 このように精神的に成長した市民が社会を構成することが、現在本当に求められているのです。これからの日本社会は、大勢の市民が参加するボランティアや社会貢献の場が今までにもまして求められるのではないでしょうか。
 アメリカのホスピスボランティアは大きく患者ケアボランティアと、専門ボランティアに分けられるかもしれません。患者ケアボランティアは私達のピースハウスホスピスのボランティアとほとんど同じですが、専門ボランティアの活動はすばらしいものがあります。それぞれができる専門の分野での働きをホスピスで発揮しています。
 前述の愛するものを失って悲嘆にくれている家族、子供、寡婦のサポートをする(Bereavement Volunteer)、そのほか募金活動(Fund Raising Committee)もその一つですが、地域でホスピスについての啓蒙活動(Speakers Bureau Volunteer)、前述のコンピューター打ち込み作業、入院受付、電話受付、カウンセリング、社会的諸問題の解決、相談、その他、ボランティアにどんな仕事をしてもらうかというより、どんな仕事がどれだけできるかがボランティアには問われています。そしてボランティア・コーディネーターはそれをどうコーディネートするかが問われています。
 とにかくアメリカのホスピスは地域社会ごと動いている感じがします。そして皆がチームになって高齢化社会の中で、今までの医療体制とは全く違う新しい福祉(Welfare)を求めて活路を開こうとしている姿を見ることができました。
 彼らはいろいろな信仰や信念で少なくとも神様の存在を肯定しているので、その目線がある程度はっきりしています。私達日本ではどの目線で考え、ホスピスの目標をどこに置こうとしているのでしょうか。
ソーシャル・ケア・フォーラム
生と死をささえる「スピリチュアル ケア」
2002年2月26日(火) 13:15〜16:00
内幸町ホール(新橋駅徒歩5分)
参加費:2,500円(LPC会員)・3,500円(非会員)
 
●13:15〜14:45生と死をささえるスピリチュアル ケア−宗教家の立場から−
 
 人類は19世紀から20世紀にかけて、医学を含むあらゆる学問分野において科学的な知を大きく発展させたが、その反面「科学の知」は、人間の実存的な問いへの答えを見出し得ないまま今日に至っている。今日ターミナルケアをめぐって死にいく人々が介護者に残す問いは、この「科学の知」が取り残した未解決の問題への挑戦と言うべきものがある。死にいく人々にとってそれらの問いとは何か、なぜ重要なのか。このテーマを改めてスピリチュアリティーの課題として考えてみたい。
講師:賀来 周一先生
講師略歴:1931年福岡県に生まる。日本ルーテル神学校ならびに立教大学大学院卒、トリニティー・ルーテル神学校留学。京都、東京、札幌、武蔵野教会の牧師を歴任。ルーテル学院大学教授を経て現在キリスト教カウンセリング・センター相談所長。
 訳書として、ハイック著「キリスト教思想史」(聖文舎)、ニュービギン著「世俗化と真実の信仰」(聖文舎)。著書として「実用聖書名言鑑」(講談社)、「サンタクロースの謎」(講談社)。共著に「安らかな死」(日本基督教出版会)、「現代社会の悲しみといやし」(キリスト教視聴覚センター)、「癒しの心を求めて」(人間と歴史社)などがある。日本臨床死生学会評議委員。
 
●14:45〜15:00 休憩
 
●15:00〜16:00 生と死をささえるスピリチュアル ケア−医師の立場から−
 
 患者自身が、最期のときまで冷静に考えることができること、ノーマルに感じる感性を持ち続けられるということが人間としての尊厳ではないかと思う。つまり、人間の尊厳というのは、人間が考え、感じられる存在であることを最期の瞬間まで許されるということであり、これこそは人間に与えられた贈り物ではないかと思う。科学としての医学は、もはやこの段階では存在意義を失い、医学は、哲学や宗教を含む人文科学などと同じ枠の中で“人間”を扱うものになっていかなければならない。そのような場面で医療者にできることは何か、求められるものは何かを考えてみたい。
 講師:日野原 重明先生
 講師略歴:1911年山口県に生まれる。京都大学医学部卒。現在聖路加国際病院理事長、(財)ライフ・プランニング・センター理事長。1998年東京都名誉都民、1999年文化功労者。著書として「死をどう生きたか」(中公新書)、「平静の心」「医の道求めて」(医学書院)、「看とりの愛」「ケアの新しい考えと展開」「道をてらす光」(春秋社)他。
●申込み方法
 往復葉書に住所、氏名、電話番号、職業、勤務先名、年齢、LPC会員の有無、返信用に連絡先の住所、氏名を記入して下記までにお送りください。
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5砂防会館5階
 (財)ライフプランニングセンター「ソーシャル・ケア・フォーラム」係
 電話:(03)3265-1907 FAX:(03)3265-1909
「新老人と家族の会」コンサート
春をうたう
会場 東京芸術劇場 小ホール1 
2002年3月25日(月)
参加費「新老人の会」会員1000円・会員以外の方1500円
当日受け付けでお支払いください・今回は参加証の送付はございません。
 
 「新老人と家族の会」では、来春からうたう会の活動を開始します。「新老人の会」1周年の講演会の際に有志のコーラスグループとしてご参加下さった方々を核に、隔月に音楽や歌うことが好きな方々が集まって、歌い語らいながら半日を過ごす会としてのスタートです。
 内容はうたう会のコーラスを中心に、外部の演奏グループや演奏家をお招きしながらすすめていこうと思います。音楽のお好きな皆様の参加をお待ちいたしております。
 
プログラム
・13:30〜14:15 ゲスト出演 町田フィル・バロック合奏団
 モーツァルト:ディベルティメント K.138・早川 正昭:「日本の四季より」から「春」
 パッヘルベル:カノン
 〔町田フィル・バロック合奏団〕
 町田フィルハーモニー交響楽団を母体に結成された弦楽合奏団。1990年の結成以後、地域に根ざした音楽活動を続けてきた。2000年春には、パリ・ケルン・ワイマールで初の海外公演を行い、好評を博す。
・14:15〜14:30 休憩
・14:30〜14:50 お話し「音楽と私」日野原 重明「新老人の会」会長
 聖路加国際病院理事長、(財)ライフ・プランニング・センター理事長、日本音楽療法学会理事長。
 音楽療法関係著書:「音楽の癒しのちから」(春秋社)・「音楽療法入門上・下」等
・14:40〜15:40 謳う会「春をうたう」
 コールバンダナ(新老人の会合唱団)演奏、ご一緒にうたいましょう(会場にお越しの皆様と歌います)
 指導:松崎 陽治 ピアノ:黒田 要
●参加申し込み方法
 ・ハガキかファックスで「郵便番号・住所、氏名、電話番号、年齢、新老人会員の方は会員番号」をご記入になり下記までお送りください。
 ・送り先〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5階TEL:(03)3265-1907 FAX(03)3265-1909
会場案内
東京芸術劇場 小ホール
交通 JR・地下鉄有楽町線・丸の内線
 東武東上線池袋より徒歩3分
 西武池袋線池袋より徒歩5分
終了後に交流会があります。詳細はお問い合わせください。
次回の予定:5月9日(木)「美しき人生と音楽と癒し」
 ゲスト:芦野 宏 会場:内幸町ホール
主催(財)ライフ・プランニング・センター「新老人の会」
■劇場案内図
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