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LPCボランティアの活動
その1 血圧ボランティア
聖路加看護大学で看護学生を対象に
 
 医師や看護婦以外の人が血圧を測ることは,今から20年以上前には考えられないことでした。その頃から,日野原先生は増え続ける高血圧患者の教育のために「血圧自己測定」の必要性を提唱されました。間もなくスタートした「血圧測定師範養成講座」で教育された私たちは,ライフ・プランニング・センターの健康教育の分野でボランティアとして参加することになりました。このことは,当時はたいへん革新的で,私たちボランティアには勇気のいることでした。以来20年にわたって,一般の方々に聴診器を用いた血圧測定の指導のお手伝いをしてきました。今では,自動血圧計の目覚ましい普及もあり,一般の人々の間での血圧自己測定は当たり前になっています。
 今回,10月5日に聖路加看護大学に出かけ,1年生90名に対して血圧測定の実技指導をさせていただきましたが,これは十数年前から(数年の中断もありましたが)毎年続けられていることです。看護大学のカリキュラムの中では,血圧測定を学習する時間が少ないようです。限られた時間の中で効率よく実技を習得するには,1対1で手をとって指導する必要がありますが,私たち血圧測定ボランティアの導入を決断された先生方の勇気には敬意を表したいと思います。
 さて,私たちの血圧測定指導の実際ですが,1年生の「形態機能学演習」の中の“血圧”の部分70分を担当させていただきます。90名の学生に対して水銀血圧計を用いて測定する方法で,1グループ4名を一人のボランティアが受け持ち個別指導します。
 まず,血圧計の取り扱い方,マンシェットの巻き方,聴診器の扱い方,コロトコフ音の聞き分け方,などマニュアルに添って行います。
 一般の人々に指導するのとは異なって,看護婦になる人たちですので緊張感も一段と高まります。日野原先生はいつも私たちに「自分が習得したことは他の人に教えることで成長する。教わる人の何十倍も知っていないと教えられない」とおっしゃいます。そのような意味から,私たちも日野原先生の指導のもと“血圧グランドシニア”と称する勉強会を定期的にもって,血圧に関する医療文献の抄読をしています。
 看護学生にとって私たちは母,祖母の年代です。しかも,医療のプロではありません。初めは,そのような私たちから習うということはどんな気持ちであろうかと思い巡らしましたが,実習に入ってしまうと楽しそうで,また,真剣に手元を見つめて私たちの説明を聞いてくれます。今年は男子学生も数人混じっており,時代の流れを感じさせられます。若い人は真っ白な紙に筆を下ろすかのように,なんでもすっと頭に入り,サッと要点を呑み込んでしまいます。その若々しさに新鮮な驚きと責任の重さを感じます。
 毎年,しばらくすると可愛らしいカードで担当した学生さんからお礼状が届きます。大切に納めて,翌年にはそれを読み返してエネルギーをいただいております。
 井上 京子
その2 模擬患者ボランティア
東京女子医科大学へ出向いて
 
 模擬患者(SP)ボランティアは,患者役になって医療スタッフのロールプレイを援助するボランティアです。LPCで毎年実施されている「ナースのための“患者・家族のための電話相談技法”」の講座では,姿を隠して声によるロールプレイを行なっています。
 今回のSP依頼は,東京女子医科大学病院・看護部教育委員会からのものでした。すでに現場で2〜3年働いている看護婦さんの研修が目的です。私は「腓骨の不完全骨折で入院中の女性」の役を受け持つことになりました。患者情報には,「左足をシーネ固定,3日たっても腫れがひかずベッドの上でイライラしている様子」とありました。
 
女子学生のアドバイスを受けて
 
 骨折の患者さんの依頼があったのは初めてです。外科的な病気はSPの講座や勉強会でも学習した記憶がなく,「シーネとギブスはどう違うの」と,はなはだ頼りないSPでした。激しい痛みがどんなものか知りたいと思い,本で調べたり手を骨折した人に話を聞いたりしましたが,足の痛みについては今ひとつ納得できません。近所の整形外科で聞いてみようか,と考えながら買い物をしていたとき,右足にギブスをした高校生らしき女の子を見つけました。思わず,「骨折ですか,ちょっと聞いてもいいですか」と骨折3日目の痛さを尋ねてしまいました。その子は一生懸命考えてくれ,「しびれていて,痛み止めを飲んでもズキズキとうずくような痛さだった。大きな声を出すと足に響く気がした」と答えてくれ,「そんなボランティアがあるんですね。がんばって」と励ましてもくれました。事故で骨折したという彼女のおかげで痛みをイメージすることができ,私なりのSPのストーリーをつくることができました。
 
生きた教材として
 
 いよいよ当日です。看護婦さんたちは1時間目に患者についての情報を知らされます。グループで検討して看護計画を立て,各グループで1名ずつ看護婦役になる人を選びます。2時間目がロールプレイの実習です。私は控え室でシーネをつけてもらって,教室のまん中に進みます。シーネをつけると本当に骨折したような気分になるから不思議です。1人10分ずつ,4人の若い看護婦さんとロールプレイを行ないました。「少し意地悪な質問も…」と思うのですが,一生懸命な,やさしい聞き方についつい気持ちが鈍ってしまいます。看護婦役の4人の方はどの人も整形外科の経験がない様子で,痛みの訴えに対応するのがむずかしいようでした。3時間目の授業では,お互いの感想を述べ合いました。その中に,「頭で考えていたようにはうまくいかなかった」という発言がありましたが,患者役としては「その気づきが次の看護につながるのではないか」とうれしく感じました。
 日野原先生は「経験した病気があればあるほどいい患者役になりますが,たとえ経験しなくても患者さんだった人に会って病歴を聞くことが大切です」と最初の講義で話されました。思いもしなかった骨折のSPを体験して,これからはもっと積極的に病歴をストックしていきたいと改めて考えました。
 玉田 圭永子
 
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聖路加看護大学での実習
 
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模擬患者によるロールプレイ








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