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LPクリニクだより
生活習慣改善奮闘記
その8 長い間しまっておいた前立腺
佐藤 和久(73歳)
 
 定年(65歳)が近くなって来たなと,ふとそんなことを思うようになったころ,ひとりの同僚としばしばトイレで会うことをお互いに意識するようになりました。そして,隣に立って用をたしながら,交わすことばが,「寒くなったね」とか,「きょうは冷えるね」という短いことばでした。やがて,「佐藤さんもずいぶん近くなりましたね」,「お互い年だから」などなど,ふと気がつくとそんな会話を交わす仲間が,ひとり増えふたり増え,これまた隣同士で「もうちょっと違う挨拶はないものかね」などというようになり,仲間が増えたとはいってもお互いどこか寂しさがつのるのでした。相手がそんなチン友ですから,ある日思い切って話しました。「俺の知人でトイレが近くなって困っていた人がいてね,ある日朝起きてから夕方まで,一滴もオシッコが出なくなってね,苦しんで苦しんで,我慢できなくなったっていうんだよ」。「それでどうしたの」,「もちろん奥さんに救急車を呼んでもらって病院さ」,「入院したのかい」,「入院どころか手術だよ」。「何の」,「何のって分からないのか,前立腺肥大だよ」,「ふ一ん」。「それで手術は大変なのか」,「手術は大したことなく済んだってさ」,「それより何よりも,それから後トイレもご無沙汰で本当に助かったってサ」。「それにしてもあのときの苦しさは半端でなかったって言ってたよ」。「考えなきゃだめかね」,「そうね一」。
 私は人に話すことで,自分に言い聞かせ,手術への踏ん切りをつけようとしていました。それでも触診はどんなものなんだろうと考えれば考えるほど決断ができませんでした。定年も過ぎ,第二の働き場を与えられても1時間や2時間しか持たないのではその仕事が出来ません。ついに決断の日がきました。もしもそうなったら聖路加国際病院へ行こうと前々からの考えもあって,ためらわずに生まれて初めての入院になりました。
 担当の福井先生はまったく不安を与えず,安心して手術を受けさせてくださいました。最初に検査を受けた触診のときからそうでした。「ちょっと不快感があるかもしれませんが,すぐ済みますから」とおっしゃったと思ったら,「はい終わりました」とおっしゃるのです。その手際のよさに感服,脱帽でした。そんなことがあっての手術ですから,手術中の60分はテレビに目を集中して,内視鏡の巧みな動きに感激して見入ってしまいました。
 10日間で退院,今は,2年を経過して,以前は一晩4回は起きていたのが,1回も起きないですむ日もさほど珍しくはないことに何にもまして感謝しています。今にして思うのはどうしてもっと早く聖路加の門を叩かなかったのか,聖書に「門をたたきなさい。そうすれば,開かれる」と書いてあるのに,ただそれだけです。福井先生と三田クリニクの貫井先生にもお会いでき,皆様のおかげで,いまの健康があり,仕事が続けられていますことにただただ感謝しています。例のチン友はといえば今も時々会うのですが,「早く手術してもらえよ」,これが挨拶代わりになっています。
コメント
 定年間近な方々が,お互いの排尿状態を確認し,情報交換を行う場所が社内のトイレであるという,佐藤さんのお話は私たちにとっても大変参考になります。排尿の異常は前立腺だけではなく,膀胱などの機能も影響しますので,手術をしたほうがよいかどうかは十分な検討も必要ですが,前立腺の検査は超音波や腫瘍マーカーの血液検査にて比較的容易です。おかしいなと思われたら,ぜひ一度検査をお受け下さい。
ライフプランニングクリニク泌尿器外来 貫井 文彦
三田クリニクにご寄付くださいました 中嶋 久喜子








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