日本財団 図書館


体験記
パーキンソン病の妻とともに−その2−
大井上 滋
心のケア
 
 いろいろな段階がありますが,「落ち込まないようにすること」を心がけました。まだ意識檬朧としている頃は手をにぎったり,足をさすったりしました。会話が出来ない時は50音図に指をさしてもらったり,こちらから言葉をかけて反応をまちました。
 天井しか見られない時,隣とか外が見えるように工夫しました。情報を取り入れる方法を考えました。病室にはよくテレビがありますが,病院によって,コインを入れるところ,カードを入れるところなどがありますが,操作が出来ません。新聞,雑誌は手に持てませんし,照明具に届かないなどがあり,結局ポケットラジオが一番だと分かりました。ラジオの「私の本棚」で聴いたのが良かったといえば,その本を買いに行って朗読してあげました。新聞の記事から興味ありそうなところを切り抜いて持っていき,読んであげました。
 日ごろから,元気な頃から孤独と立ち向かう,現実を受け入れる準備をしておくことが大切だと思います。妻は前向きでよく努力します。ある時50音図を指差して会話をしていた時,わたしがギブアップしかかると,「分かろうとしないからよ」と抗議のメッセージを送ってきました。これなら大丈夫だと思いました。
 私は大江健三郎氏の「個人的体験」という本を思い出します。そこでは息子さんの光さんが障害児として誕生し,保育器にいる時の不安な心境から,一生重荷を背負っていく決意までのことが書かれています。子供時代に音楽を,とくにクラシックを聴かせたり,野鳥の鳴き声を聴かせたり,さまざまな工夫で外からの働きかけを体験させます。そして内なる魂を自覚めさせ,成長させることに成功されたのです。それは宗教的境地に達しておられます。
 大江氏は愛媛県の出身,お遍路さんを身近に育っています。お遍路さんは「同行二人」と書いた傘をもっています。弘法大師かお釈迦様が一緒に歩いて下さるのだそうです。キリスト教でも"インマヌエル"すなわち神と共にいますということで,キリストはわれわれとともにいて下さるといいます。そのような気持ちで介護にあたることが大切だと思います。自分で生きる意志と外からの働きかけ,励ましが介護には大切です。
 現状では妻は大変元気になり,会話は普通にできます。しかしベッドから車椅子,トイレ間の移動も介助がなければできません。手が震えて,箸がもてず,もちろん茶碗も持てません。立ち上がれません。衣服の着脱は関節がよく曲がらないので介助が必要です。ボタンをかけるのは時間がかかります。排泄介助も考えると3時間以上は離れないようにしています。それでも,退院の時のリハビリの先生が硬直した四肢を見て,あまり良くはならないと診断されたことから見ると,いまの姿をお見せしたいと思うほどよくなっています。これは訪問してくださるヘルパーさんの話しかけや励ましが,身体的介護以上に効果をあげているのだと思います。
日本人のメンタリティ
 
 日本語には主語のない文がたくさんあります。「もう寝るよ」といったら誰が寝るのかは文脈,状況が決めるのです。話している本人なのか,眠りかかっている幼児のことをいっているのか,どのようなことが影響しているのか,自分の言いたいことをはっきり言わないことが多いのです。介護する側が推測しなければならないことが多々あります。それと関連しますが,ヘルパーさんが来る時,よその人が来るからと,片付けをしたり,家の中を整えたり自分の身だしなみに気を遣って家の者に準備を要求するようなことがあります。
 内と外の使い分けをするわけです。何のためにへルパーさんを頼むのかわからなくなります。
 真面目すぎてユーモア不足(余裕がないこと)なども,日本人には多いのではないでしょうか。これらもろもろのことを考えて,心のケアをする必要があると思います。
ストレス解消の工夫
 
 人それぞれですが,自分の時間を作る,手を抜く,友人と会う,運動をする,自分の世界を広げる努力をすることなどを心がけています。施設のショートステイを利用して,私はこれまで3回温泉にいきました。しかし一昨年から近くのスポーツクラブで水泳を始め,そのあと入浴してくると,温泉に出かけるよりも気分爽快,リフレッシュすることを発見しました。自宅で風呂を立てないので,風呂場掃除もする必要がなくなりました。週2回プール通いを心がけています。心の適度な緊張感も必要だと気づきました。日常だらだらした気分でいると,かえって虚しく元気を喪失します。こうやって文章を書くということも緊張を促します。
介護保険スタート
 
 介護保険制度が始まってまず思ったことは,お役所はなんで好んで事務量が増えることを考えるのだろうということでした。認定作業があってそれが決まるまで,いろんな手続きをふみます。それを半年毎に行うのは無駄が多いと思います。
 次に境目がどちらかはっきりしない点。医療保険の範囲か介護保険か,リハビリ専門の理学療法士と医師との連携,訪問看護とヘルパーさんの身体看護の内容など。そのほか家事援助でも内容によって判断の分かれるようなところがあるでしょう。
 まず事業所とケアマネージャーを選ばなければなりません。これまで行政と直接関わっていたものが,ケアマネージャーを通じてということになりました。介護器具の購入,住宅改善などもそうなります。でも現段階ではケアマネージャーさんは保険の適用範囲内での点数計算やプログラム作成に手いっぱいの忙しさのようです。
 私のところでは以前よりもヘルパーさんを派遣してもらう回数を減らしました。その意味では介護保険スタートでサービスは減ったことになります。
●LPCのホームケアアソシエイト(一般対象)講座を受講しませんか
 1講義ごとの受講も可能ですので,ご希望の方はお電話にてお問い合わせ下さい。TEL(03)3265-1907会場 LPC健康教育サービスセンター(千代田区平河町砂防会館内)/各1回1500円
 
講習日 時間 科目 講師
7/19(木) 10:00〜12:00 リハビリテーション体験学習 森倉三男
7/24(火) 9:30〜12:00 住宅・福祉用具に関する知識 片山蘭子
13:30〜15:00 いきいきらいふ推進センター福祉機器展示見学
7/26(木) 13:30〜17:00 共感的理解と基本的態度の形成 諏訪茂樹
7/31(火) 13:30〜17:30 相談援助とケア計画の方法 東 奈美
8/2(木) 10:00〜16:00 ケア計画の作成と記録,報告の技術 白井幸久








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION