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老人の終末期医療
 12/10(月),Hebrew Rehabilitation Center for Aged(HRCA)にDr.Lewis Lipsitzを訪れた。Dr.LipsitzはHarvard Medical Schoolの内科学教授であるとともに,Harvard Division of Gerontologyの統括責任者でもある。この施設のDivision on AgingはResearch and Training Instituteでもあり,Harvard Medical SchoolのみでなくHSPH,VAMC,BWH,SRH,M GH,Mt.Auburn H,BIDMC,HRCAなど多数の周辺医療機関との連携においてGelontologyの中心的役割を果たしている。HRCAでは老人の終末期医療について見学した。
 この施設はいわゆるナーシングホームであるが,医学生を含めた医療者の教育と訓練,そして,研究なども行われている点では大きく異なっている。725床を有し,入居者はすべてJewish Peopleである。このうち20床は術後や急性疾患のために用いられているので,急性期のリハビリテーションは行われているが,ほとんどがリハビリテーションの概念とは異なって社会復帰が目標ではなく,この施設で人生の終末を迎えることになる。89%にMedicareが適用されており,費用は平均$200/日である。男女比は1:3で,種々の理由で家庭ではケアができなくなった老人が入居しており,個室と2人部屋に分かれている。
 Dr.Muriel GillickはPhysician-In-Chiefで,自身でも40床を受け持っており,たいへん多忙に見えた。入居者の実例について説明を受けたが,実にさまざまな病態を抱えた老人の集団で,例えば虚血性心疾患,高血圧,糖尿病で悪性リンパ腫を合併しているアルツハイマー病といったような,まさに老人の終末期医療が行われている。Dr.Ann Fabinyは老年病の専門医で,Harvard Geriatric Followship Programのディレクターでもあるが,彼女の説明によればこのような終末医療ではケアの目標がproductiveでなく,したがって,若い医師にとっては魅力に欠ける分野であるとのことであった。そして,early exposureで医学生がこの施設に配属されたとき,初めはたいへん興味を示しても,その後に色々な臨床実習が始まるとすぐに興味をなくしてしまうことを嘆いていた。このような終末期でも身体訓練は有効であり,現状の維持か,進行を遅らせる目的で訓練室ではトレーニングが行われていた。この施設での平均余命は4年とのことであった。
 HRCAでは老年医学に関する多くの研究が精力的に行われており,Dr.Kielは脳循環と転倒,脳循環と自律神経機能,転倒の機序と防止など,また,Suzanne LeveilleはFrail Older Adultsの廃疾予防と慢性疾患の管理の疫学的研究などに数多くの業績をあげている。
 最老年の終末期医療は医学的には実りの少ない分野であるかもしれないが,それでも人生の終末におけるより適切なケアを心理・社会的な面も含めて合理的に実施することは医療に課せられた役割であり,その意味でも患者の評価をminimum data set(MDS)など一定の基準に従って行うことの重要性を実感させられた。また,家族との関わりはきわめて大切であり,経管栄養や心肺蘇生などを含めたケアにおいて,どのような選択をするかを教育的に支援していく役割にも大きな意義があると思われた。








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