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(2)滝集落の再編の概要、現在の状況
 小国町の10の集落再編整備事業のうち、最大規模である滝集落(上滝集落、下滝集落をあわせここでは滝集落とする。)の再編整備の概要、背景、現在の状況は下記の通りである。
[1]滝集落の概要
滝集落は、上滝・下滝の2集落から成り、町の中心部の南東28kmに位置。移転当時(昭和45年)の戸数が36戸、現在、最先端集落となっている河原角集落から約2km。夏場には車で通うことができたが、冬季間の4〜5ヶ月は積雪5メートル以上に達する豪雪により完全孤立状態に陥り、雪の日に町の中心部から滝に行くとなると、途中で一泊を余儀なくされるほどであった。
 したがって、滝集落は、町内にあるにもかかわらず、新幹線の開通していなかった当時にあっても、町の人々に「東京よりも遠い」滝集落と言われた。また、河原角集落から滝集落の間は雪崩の危険地帯であり、移転前の冬場には雪崩の事故が発生した。
 滝では昭和35年〜43年の8年間で世帯数、人口が50戸、256人から38戸、198人にそれぞれ22%、23%減少、農家1戸当たりの農地は約1haであった。
 所得水準は他の集落との比較では必ずしも低くなく、コメ、畜産からの収入に加え、ワラビ、ゼンマイ、なめこといった山菜収入もあり、平地の農家の所得水準に近いものがあった。
 また、先に述べた羽越水害では田畑に甚大な被害を受け集落住民からは「移転したい」との希望が役場に寄せられるようになった。
 
[2]行政と住民との間での移転に向けた取組み〜住民意識の把握のための詳細な調査
 滝集落の移転に当たっては、まず綿密な調査が行われた。
 一つは「世帯構造調査」である。
 「世帯構造調査」では、家族構造、農業構造、家計・資産、住宅及び居住環境、生活環境と利用状況、積雪の影響、集落構造といった項目について徹底的な調査を行った。
 同時に「住民意識調査」が行われ、調査項目は家業についての見通しと将来への期待、生活環境、子供への期待、過疎地域の集落再編への意見、現住地への永住希望、移住先と転職の希望、国・県・町への要望などであった。
 「住民意識調査」の結果、住民の希望は「転職型」、「夏山冬里型」、「就農型」に分かれ、態度不明の世帯もあった。
 町ではさらに、移転計画等の具体化を図るため「生活設計実態調査」を行った。この調査では、住民が移転後の生活設計を具体的に描くことが出来るよう、企業の求人条件、夏山冬里の営農設計案を示して実施された。
 「生活設計実態調査」の結果が出る頃には、態度不明の者は皆無となり、4戸を除いて移転を希望するという状況となり、4戸についても、住民間の徹底的な話し合いで4戸のみでは集落での生活の維持が困難であるとの結論に達し、全戸の移転が決定した。
 そして、町では移転先の住宅の確保、移転跡地の利用計画、移転後の住民の生活設計について集落住民の相談にのり、住民のニーズに応じた計画策定、事業化を行った。
 
[3]滝集落再編整備事業の概要
(移転戸数等)
 移転の際に、滝集落には36戸が居住していたが、36戸のうち、町内への移転が12戸(注)、町内以外の県内への移転が11戸、県外への移転が13戸となった。
(注)県外移転の13戸のうち、1戸についてお年寄りと若い世代の世帯分離があり、町内にお年寄りの方が残ったことから、実質的には町内への移転が1 3戸となっている。
 結果として、合計で36戸、37世帯の移転後の世帯構成となった。

 (夏山冬里)
 町内に移転した13世帯のうち、転職が8世帯、夏山冬里が5世帯、小国町内以外の県内に移転した11戸のうち、転職が6戸、夏山冬里が5戸、県外移転者については、すべて転職といった結果になった。
 したがって、冬場は移転先で生活するものの夏場は滝集落に帰って農業や林業、山菜取りを行ういわゆる「夏山冬里」の戸数が10戸(町内5戸、町以外の県内5戸)となり、現在にあっても7戸が春雪消えと同時に滝集落に入り、秋まで滝集落で生活する「夏山冬里」を行っている。しかしながら、水田耕作を行っているのはそのうちの2戸とのことである。
 
(集落再編整備事業の内容)
 滝集落の再編整備事業は、経済企画庁(当時)の「集落再編モデル事業」の補助金を受けて実施された。
 全体事業費は100,376千円、うち補助対象となる事業が74,060千円(国費28,250千円、県費14,125千円)であった。
 補助事業の内訳は、[1]住宅移転に伴う住民負担の軽減に要する経費として分譲住宅の購入借入金に対する利子補給に13,320千円、[2]新住宅団地の関連公共施設の整備に要する経費として22,948千円、[3]農林業生産条件の整備助成に要する経費として移転跡地の整備事業に29,792千円、[4]離農促進転職円滑化に要する経費として8,000千円となっている。
 [2]の事業は、道路整備、側溝整備、流雪溝整備、集会室(幸和会館)の整備、遊園地の整備である。
 [3]の事業は、移転跡地の水田の圃場整備、牧野造成であり、圃場整備については夏山冬里を行う住民のニーズを踏まえ標準区画20aの圃場を10ha、牧野造成については圃場整備を行った農地以外の農地で土地の条件が悪い35.5haについて行われた。また、夏山冬里で農業を営む者の拠点施設として、延べ床面積185平方メートル、冬の豪雪に耐える作業所を備え、かつ、10世帯の入居が可能な営農宿舎を12,236千円で建設したが、現在は存在しない。
 [4]の事業は、移転、離農奨励金として16戸に対して1戸当たり500千円、合計8,000千円を支給した。
 町内の移転先には、町の宅地造成事業により整備された町の中心市街地の西に接する200戸の住宅団地(住民の幸福を願って幸町団地と名付けられた)の一部があてられた。幸町団地は1区画70坪であったが、豪雪地帯では必ずしも十分な面積ではなかったという。
 
(移転跡地の管理)
 滝集落では10haの圃場整備が行われ、既述の通り、現在でも7戸が夏山冬里を行っているが、夏山冬里による農業以外に、滝集落の入り口にある現在の先端集落、河原角集落(8戸)の住民によって跡地管理が行われている。
 河原角集落は、滝集落が移転した昭和45年当時の集落診断では、移転の要件に該当し、いわゆる居住限界集落とされた集落であるが、住民は引き続き居住することを選択、昭和50年に当初滝集落の水田3〜4haで耕作を開始、集落のリーダーの指導のもと共同で農業を営み、現在では8haの耕作を行っているとのことである。
 
(町内移転住民の転職)
 小国町内には既述の通り、東証一部上場企業の工場が2つあり、移転住民については採用の年齢制限を緩和して就職先として斡旋された経緯もあり、転職については円滑に進んだ。








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