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2 京都経済の現状
 (1)さて、「京都」(私見では、この用語は、ある意味で人工的な区域界により画された地方公共団体としての「京都市」とは若干異なり、歴史と伝統の中で形成されてきたまとまりのある実体としての都市といったニュアンスで使われているように思う。)は、様々な顔を持った都市である。修学旅行の定番コース(最近は、大阪のUSJも強いようである。)であることに見られるように、年間4,000万人もの観光客が訪れるわが国を代表する国際文化観光都市という金看板を掲げていることはもとよりであるが、37もの大学・短期大学を擁する「大学のまち」でもある。また、伝統産業から先端産業まで多様な生産活動が行われている「ものづくり都市」という側面も、見逃すことはできない。
 京都のものづくりとしては、西陣織や清水焼のような伝統産業があまりにも有名であるが、一方では、オムロン、京セラ、堀場製作所、ロームなどに代表されるハイテク先進企業が数多く生まれており、「ベンチャーの都」と呼ばれるほど、新たな産業分野でも多くの成果を生み出してきた。これは、単なる偶然ではなく、伝統産業において培われた高い技術に立脚して、京都の町が外部の優れた人材をも吸引し、そして革新性の高い起業の取組を支える産業風土を持っていたことが大きく寄与しているものと考えられる。
 (2)京都市の経済の状況を数字で見てみると、まず、京都市の市内総生産額は、 5兆7,796億円で(平成10年度「京都市の市民経済計算」)、全国に占める割合は、1.16%であり、政令指定都市中第7位となっている。
 しかし、事業所数、従業者数は、共に減少を続けている。平成11年事業所・企業統計調査結果(概数)によると、前回調査時の約3年前と比較して、事業所数は4.9%減少、従業員数は6.3%の減少で、いずれも前回に引き続いての減少である。
 とりわけ、開業率は、約20年来低下の一途をたどっている。平成3年から平成8年までの期間をとると、開業率が年2.3%であるのに対し、廃業率が年3.4%と開業率を上回っている。とりわけ製造業は、開業率年0. 8%に対し、廃業率年3.3%となっており、開業率が著しく低い。
 消費についても、全国的なデフレ基調と機を同じくして、京都でも、マイナス基調が続いている。また、消費者の着物離れなどから、室町周辺を中心とした和装関連企業の倒産が相次ぎ、また、平成13年には地元有力信用金庫が経営破たんするなど、中小事業者の経営環境は、厳しい。
 このような閉塞的状況を打破し、京都経済の再生を図るためには、大胆な発想の転換と「選択と集中」による重点的な施策の展開が必要である。京都市は、2001年から2010年までの10年間に取り組む主要な政策を定めるために平成13年1月に京都市基本計画を策定したが、この計画においては、産業の分野に関し、「産業連関都市として独自の産業システムをもつ」ということを掲げており、その基本的方向として次のように定めている。
 伝統産業から先端技術産業まで、農林業から観光産業、サービス産業まで、高品質・長寿命で付加価値の高いものづくりのわざや高度な情報技術、さらには洗練されたデザインや斬新な企画力をもつ京都独自の産業システムを構築し、さまざまな産業が互いの技術にも企業文化にも厚い信頼を置き、相互にきめ細かく支え合う「産業連関都市」をめざす。
 また、都市づくりの目標と整合した商業集積の形成を実現し、地域に密着した商業の振興を図るとともに、市民の健康と豊かな食生活を維持するため、流通体制の整備を進める。
 そして、具体的には、例えば、高度情報通信社会、環境調和型社会、長寿社会に対応する「21世紀産業振興ビジョン」の策定・推進や、次のようなベンチャー企業等への支援を掲げている。
[1]新事業創出を図るための地域プラットフォーム事業の推進
[2]ベンチャー企業等に対する発展段階に応じた支援
 ベンチャー企業の技術、アイデア等を評価する「ベンチャー企業目利き委員会」、低家賃で入居できる「創業支援工場(VIF)」、先端技術の研究スペースである「ベンチャー企業育成施設(VIL)」の運営など、ベンチャー企業への発展段階に応じた支援を行うほか、情報通信技術(I T)の活用による企業連携の支援や創業支援オフィスの創設を検討するなど、ベンチャー企業等の発掘や育成を推進する。
[3]ベンチャー企業等に対する多様な資金調達システムの構築
 ベンチャー企業等の育成を図るため、発展性のあるベンチャービジネスに投資するベンチャーキャピタルとの連携等により、多様な資金調達システムの構築を支援する。
 そして、京都市基本計画においては、同計画の目標年次である2010年における開業率として10%という極めて高い数値目標を掲げている。廃業率を押さえるという弱者救済的あるいは消極的発想ではなく、開業率の劇的な上昇という攻めの発想で数値目標を設定したところに大きな意義があるのではないかと考えている。








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