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2 事業展開
(1)第1期事業
 第1期事業としては、先述の慶應義塾大学との研究プロジェクトを推進しており、2haの敷地に研究棟4棟、会議室等の厚生棟1棟の建物が建設されている。各棟では、情報科学、生命科学、環境科学および知的財産にかかわる先端的研究分野において10の研究室が設けられており、各教授の指導の下、助手、大学院生を中心に100〜150名による研究が進められている(表4参照)。
表4 慶應義塾大学の研究者
K棟(情報科学系)
理工学部
小沢慎治教授
ITSのための道路画像解析
人の安全を守る次世代機械監視技術の標準化
理工学部
松下温教授
ネットワークコンバージェンスのための統合アーキテクチャに関する研究
理工学部
中島真人教授
救助対応画像センシングプロジェクト・交通画像処理プロジェクト
理工学部
大西公平教授
低周波帯の電磁環境制御
理工学部
安西祐一郎教授
人間支援のための分散リアルタイムネットワーク基盤技術の研究
 
E棟(情報科学系)
理工学部
小池康博教授
次世代フォトニクスポリマーの研究
 
I棟(生命科学系)
理工学部
清水信義教授
DNAサイエンスの研究開発
 
O棟(環境科学系・知的財産研究)
環境情報学部
村井純教授
WIDEプロジェクトIPv6研究開発
環境情報学部
清水浩教授
先端電気自動車技術の開発・実験・情報発信
法学部
君嶋祐子助教授
知的財産制度のあり方の研究

 また、川崎市としては、K2タウンキャンパスを産学公の連携の拠点として位置づけており、オープンキャンパスやふれあい事業などを通じて市民との良好な関係を保つとともに、川崎市産業振興財団を介して、大学研究者と産業界との交流事業も開催している。具体的には、体験型の普及事業の推進や、産学連携の一環としてのセミナーを開催することなどを通じた産学のマッチングを推進している。こうした活動を通じて、これまでに中小企業との共同研究が行われ、技術開発、特許取得に至った事例も出てきており、今後の成果が期待されている。 

(2)第2期事業
 これまでの成果を踏まえつつ、第2期事業の計画がすすめられており、起業支援施設やSOHO施設とともに、基盤技術支援センターを設置する方向で計画が進められている。こうした施設が整備され、入居がすすめば、研究室におけるシーズと企業が持つニーズがマッチングされやすい仕組みが構築され、新産業の創出に大きく貢献すると考えられている。 

3 推進体制
 この事業の推進に当たっては、本市の産業振興財団が中心となって、慶應大学と地元産業界との橋渡し役を担っている。同財団は地域プラットフォームとして、また都道府県等中小企業支援センターとしての機能も担っており、ワンストップサービスの提供が期待でき、連携推進に大きく貢献するといえる(図11参照)。
図11 推進体制
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4 問題点・課題など
 開設から2年が経過しようとしており、いくつかの成果も見えるようになってきたが、以下のような課題がある。
[1]地元中小企業などへの研究成果の還元
 今回のK2タウンキャンパスにおいては、慶應大学のスーパースターと言われる教授陣が連ねていることもあり、既に様々な企業と関係を持って研究を進めていることとあわせて、地元中小企業との間には大きな垣根が存在していることも否定できない。ただ、成果が出てきている部分も有るので、これをフィードバックしながら、コーディネーターによるマッチングをすすめていく必要がある。
[2]他事業との連携
 産業振興財団が中心となって今後事業展開を図っていくこととなっているが、KSPなど他事業との連携を図っていくことが課題であるといえよう。
図12 サイエンスシティ戦略会議のスキーム
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IV 今後の展望―サイエンスシティへ向けて
 これまで、川崎市における様々な新産業育成の方策について、見てきた。長細い地形の本市については、各事業の連携を図っていくことが非常に困難であるものの、最終的には本市の事業とともに、民間企業のすすめる事業(NKKの環境研究所など)が両輪の様に機能しながら、科学技術の成果が事業に反映されていく仕組みを構築していくことが重要である。こうした観点から、「ものづくり都市」として培われてきた本市の産業集積を有機的にネットワーク化し、科学技術の成果が次々に生み出され、事業化され、産業活動拠点に根付き、基幹産業へと発展する産業システムの構築や、人材育成に資する市民が科学技術を学べる環境作りに向けて、その戦略を検討し、具体的施策の方向性を明らかにするため、平成13年8月にサイエンスシティ戦略会議を設置した。
 この戦略会議は、産業技術総合研究所の吉川弘之理事長を議長に18名の委員、2名の顧問からなる戦略会議と8名からなる幹事会で構成されており、[1]地域の科学技術政策の指針策定、[2]サイエンスパークの形成や新しい産業クラスターの形成などを目指す川崎におけるサイエンスシティシステム構想の策定をすすめるとともに、具体的には、[1]新川崎・創造のもりの未来像、[2]臨海部環境シティ構想を構築していくこととなっている。
 さらに、臨海部の活性化については、川崎臨海部に位置する企業などをメンバーとするリエゾン研究会を中心として、仕組みの構築に向けた検討を進めているところであり、この成果については、本年度中にまとめられ、具体的な事業として推進されていくと考えられる。
 ただ、全市的な課題として仕組みづくりに取り組んでいくことともに、個々のシーズとニーズをマッチングさせ、ビジネスとして成立させていく仕組みを構築していくことが緊急の課題であることは言うまでもない。先述の通り、本市の産業振興財団が中核的支援機関として、地域プラットフォームの中心を担い、さらに都道府県等中小企業支援センター機能を担うことで、一元的にコーディネートを行っていくことが可能であると言える。このほか、同財団は本年度から、神奈川県内のベンチャー支援グループである「TSUNAMI」や川崎市内の「日本起業家協会」、首都圏の大学の協力を受けながら、「大学発ビジネスプラン・コンペかわさき2001」を開催し、大学におけるシーズの発掘や起業家の掘り起こしに務めており、今後本市の都市型産業育成の中核を担っていくと考えられる。幸い、本市にはKSPにおける起業支援の実績を有していることから、両者が相互に補完しあいながら、機能していけば、今後さらなる成果が期待されるといえよう。
さいごに
 これまで、本市における産業振興の個別事業について見てきた。最終的にKSPが成功した要因としては、地域性を明確に意識し、優れた事業スキームを持ち、優秀な経営陣(中核メンバーの任期の継続性)とリエゾンスタッフ、支援母体(自治体、地方経済界、大学研究機関など)の密接な協力関係を有していたことなど様々なものが考えられるが、その最大の要因は地域関係者(産・学・官)の効果的なネットワーク化があったと言える。ネットワークを円滑に機能させて行くには、そのコーディネートをいかに行っていくかが大きな課題であるといえ、イノベーションの成果を事業化につなげて行くに当たっての課題は、事業を起こす人の教育、効果のあがるインキュベータの運営、インキュベートマネジャーのレベルアップというノウハウに集約されるといえ、最終的には人の問題に突き当たる。このため、今後、産学官の三者はもとより、産業界においては異業種間、大学においては学融合を視野において、ネットワークを形成し、インキュベートマネジャーを育成していくかが、イノベーションとその事業化システムの形成に当たって大きな課題であるといえる。
 さらに、本市がKSPの成功の一歩先をいくためには、その有する比較優位性や特性、つまり製造業やものづくりの伝統、基盤を活用しながら「産業クラスター」を形成していくことが不可欠である。これにより、大学や高度の研究機関と、企業群が一定の地域の中で密接な連携をし、そこから新たな価値を生み出していくことこそが、サイエンスシティシステムの構築に貢献するといえる。ただ、「産業クラスター」を考える場合には、川崎市域といった限定的な視点にとどまらず、地域を柔軟に捉える必要がある。このため、今後は地域(リージョン)という視点に立って、川崎市という視点とともに、京浜臨海部、TAMA地域、首都圏など広域的な視野に立って、近隣に位置する市外の拠点施設とのネットワーク形成をすすめていくような施策展開も望まれるといえよう。
<参考>サイエンスシティ川崎戦略会議の構成
  氏名 所属
議長 吉川弘之 産業技術総合研究所理事長
委員 大西隆 東京大学教授
尾島俊雄 早稲田大学教授・理工学部長
加藤三郎 NPO法人環境文明21代表理事・株式会社環境文明研究所所長
斎藤信男 慶応義塾常任理事
中嶋邦雄 東京工業大学教授・同大学ベンチャービジネスラボラトリー長
平尾光司 株式会社社会基盤研究所取締役会長
古川勇二 東京都立大学教授・工学部長
松瀬貢規 明治大学教授・理工学部長
橋本静代 NPO法人発見工房クリエイト理事長・東海大学名誉教授
東実 株式会社東芝常務・東芝研究開発センター所長
伊藤満 川崎市工業団体連合会会長
坂口浩 味の素株式会社取締役・川崎工場長
佐藤朋祐 川崎商工会議所会頭
半明正之 日本鋼管株式会社代表取締役副社長
有本建男 内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)
名尾良泰 経済産業省関東経済産業局長
久保孝雄 財団法人川崎市産業振興財団理事長
東山芳孝 川崎市助役
顧問 安西祐一郎 慶応義塾長
阿部孝夫 川崎市長
サイエンスシティ川崎戦略会議幹事会
  氏名 所属
幹事 東昭 かわさき市民アカデミー運営委員・東京大学名誉教授
稲崎一郎 慶応義塾大学教授・理工学部長
鳥海光弘 東京大学教授
原田誠司 那須大学教授
武者利光 (株)脳機能研究所代表取締役社長・東京工業大学名誉教授
井上裕幸 川崎市総務局理事
瀧田浩 川崎市総合企画局長
君嶋武胤 川崎市経済局長








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