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4今後の展望
 新エネルギー、未利用エネルギーやバイオテクノロジー、宇宙科学などの分野、そしてマルチメディアやユニバーサルデザインなどのニューデザイン関連分野のいずれも知識創造集約・技術開発型の活動に属するものである。これらの分野の研究成果が社会的に発現するまでに長い年月を要するものであるが、本市のまちづくりや、将来の市民生活の向上に資するための先行的投資としても、財団法人札幌エレクトロニクスセンターや北海道科学技術総合振興センターなど中間組織を通じた支援、あるいは関連学会・コンベンションの誘致開催への積極的支援を図っていくことが必要である。
 また、これらは次の時代に展開していく本市企業の活動の視界を広げ、あるいは直接に域外収入を獲得し、創造活動の成果によって市民生活を豊かにする、情報関連産業に次ぐ、いわば“攻め”の分野として育成すべき萌芽と評価ができる。以下、各分野の今後の展望について概観する。

(1)エネルギーの有効利用に向けた技術開発
 経済社会の持続的な発展のためには、資源やエネルギーを大量に消費することを前提とした従来の経済活動から、環境負荷の少ない経済活動に転換していくことが求められる。
 積雪・寒冷の大都市である本市のエネルギー需要は全国レベルを上回っており、社会経済活動の行動様式の転換過程において様々な課題が生じることは必然である。しかし、発生する諸課題をネガティブに捉えることなく、逆に新たなビジネスチャンスとして捉えた取組みに対する支援を行い、省資源・省エネルギー、積雪寒冷地対応を可能とする技術や製品の開発を促進し、新エネルギーに関連する企業群を新産業領域として創出していくことが必要である。
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 エネルギー有効利用の先進地である北欧の諸都市においては、多種多様な未利用エネルギーの活用による地域暖房が行われており、さらには燃料電池の実用導入に向けた先駆的な実験を始めている。本市においても、公共施設の新設・改築あるいは市街地再開発等に併せた未利用エネルギーの活用や、新エネルギーシステムの導入を積極的に進め、成果検証を通じてより優れた手法を確立しながら、全市的に導入を広げていくなど、エネルギー大量消費都市からエネルギー有効利用都市への転換を進めていくことが必要であり、地域分散・域内循環型エネルギーシステムの構築などの新技術の先駆的な実験フィールドが拡がる都市の形成に向けて歩みを進めたところである。
 本市域内に大量に存在しながら十分な活用がなされていない未利用エネルギーには、例えば下水排熱や、年間降雪量5メートルにも及ぶ雪などがある。未利用エネルギーとして雪を捉えた場合、非降雪期における、商業・工業施設や公共施設などの冷房源として活用を図ることができる。北海道内においても、農産物貯蔵のための雪室や福祉施設冷房のエネルギー源として数例実用化に至っているが、都市における実用化に向けた取組みは本市が初となる。需要先の集積が見られること、上下水道管をはじめとするライフラインや情報通信ネットワーク基盤など基礎的都市インフラが整備されており、これら既存施設の活用を図ることができることが都市として導入する比較優位性として挙げることができる。
 これら本市の既存ストックの活用・組合せによる、冷熱エネルギーとしての雪の活用手法の研究を進めているが、具体的には、
 [1]融雪槽、流雪溝、雪堆積場などの雪対策施設や、下水処理場、清掃工場などの公共施設を用いた場合の冷熱エネルギーの潜在量及び利用に向けた課題の把握
 [2]冷熱回収・供給技術の検討
 [3]下水処理場や清掃工場を雪堆積場(雪補充のストックヤード)として活用する場合の問題点の検討
 [4]冷熱需要先の冷房熱源、使用量、使用期間、コストなどの実態調査
 [5]供給側コスト(システム構築にあたってのイニシャルコストとランニングコスト)及び需要側コスト(冷房設備改造にあたってのイニシャルコストとランニングコスト)の検討を行っている。
 地域分散・域内循環型エネルギーシステムを実現する技術としては、燃料電池やマイクロガスタービン等が考えられるが、まちづくりへの導入の具体的手法について調査研究を進めていくことと併せ、天然ガス等の水素資源としての活用の実用化を可能ならしめる研究開発に対して必要な支援を行っていくことも重要である。
「エネルギー有効利用都市札幌の実現」〜課題と今後の取組の方向
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燃料電池を家庭や自動車などに用いる場合、水素の輸送や貯蔵に係る技術が不可欠であるが、この探題に対しては北海道大学触媒化学研究センターの市川勝教授によって、ゼオライト触媒を用いることによる、メタンからの水素の分離・産出の研究が進められているところである。
 天然ガスは現在、賦存量の多い勇払地区から産出され本市域に供給されており、また、サハリンからの導入についてもその可能性を秘めているところであり、その技術を実用化するフィールド都市として本市は優位な地位にある。

(2)バイオテクノロジー
 北海道経済の新生を図るため、経済産業省北海道経済産業局は、今後発展が見込まれ、北海道内の広範な産業の競争力強化への寄与が期待される分野への支援を重点的かつ戦略的に推進することとしている。その分野として、情報技術(IT)、バイオテクノロジー.そして両者の融合分野(バイオインフォマティクス:生命情報学)を掲げ、情報産業クラスターとバイオ産業クラスターの形成を促進しつつ、世界に通用する企業群を北海道内に創出することとしている。
 2000年、北海道大学先端科学技術共同研究センターの橋本易周客員教授と、同大学研究者との共同研究によって遺伝子解析技術が開発され、これを基盤技術とした株式会社ジェネティックラボが創業された。国内第1号の国立大学教官役員兼業のバイオ・ベンチャーとして、ライセンス料収入を伴う製品技術供与、遺伝子発現解析等の受託などの事業を行っている。また、遺伝子発現データベースの開発にあたっては、暗号化技術をコア・コンピタンスとする市内企業とパートナーを組んでいる。橋本教授によれば、学閥・派閥等に影響されることなく、学内外にわたって良好なコミュニケーションがとれることも北海道・札幌の優位性であるという。
 また、北海道大学大学院理学研究科の西村紳一郎教授は、糖鎖自動合成法の開発と複合糖質構築への応用をテーマとした研究を進めており、その成果は、糖鎖医薬の開発、有害微生物等の特異的除去法の開発、生分解性高分子材料の開発など、裾野の広い分野にわたる産業の新たなシーズとなる可能性が極めて高く、研究に大きな期待がかけられているところである。
 このほか、2001年11月には、前宇宙開発委員である秋葉鐐二郎氏を会長とし、北海道内の理工系大学研究者により「北海道宇宙科学技術創成センター(仮称)」の設立を目指した準備会が発足した。
当面、ハイブリッドロケットの研究や、地下無重力実験センターの活用による微小重力実験などの活動が行われる予定であるが、宇宙医学、ライフサイエンスを含む幅広い分野への応用・活用をその視野に入れている。

(3)ニューデザイン関連ビジネス
 産業構造の変化とデザイン領域の拡大に伴い、デザインの活用対象は製造業のみならず流通業、サービス業などあらゆる産業で、また、情報、福祉、環境、積雪寒冷地対応関連など多方面の業種で適用が可能となっている。デザイン業の売上シェアについて1985年と1998年とを比較すると、地域分散化が進み、首都圏・近畿圏が80.3%から56.9%となった一方、北海道等のシェアは拡大し、その売上の伸び率は278%となっている。
 
地域 1985年売上
構成比(%)
1998年売上
構成比(%)
増減
(ポイント)
伸び率
(倍)
北海道 1.25 2.04 0.79 1.63
東北 3.15 3.79 0.64 1.20
首都圏 58.44 37.50 -20.94 0.64
中部 7.29 18.16 10.87 2.49
北陸 1.31 2.41 1.10 1.84
近畿 21.91 19.44 -2.47 0.89
中国 1.91 3.54 1.63 1.85
四国 1.64 3.09 1.45 1.88
九州 2.81 9.98 7.17 3.55
沖縄 0.24 0.04 -0.20 0.17
全体 100.00 100.00    
▲デザイン業地域別売上構成の変化(特定サービス産業実態調査)
 これらのことから、デザイン業には、消費地から遠距離であっても制作活動が可能であること、産業分野はもとより、市民の生活環境の向上に向けて果たす効果が大きいことなど、情報関連産業に近似した特徴がある。特に、数年のうちに進むテレビ放送地上波のデジタル化などから、マルチメディアデザイン等デジタルコンテンツに対するニーズはさらに増加するものと見られる。また、ユニバーサルデザインについては、1998年現在で1兆円を超えている国内市場が今後年約10%で拡大し、高齢化がピークを迎える2025年に約16兆円市場となると推計されており、全国展開の可能性が高い市場として捉えることができる。
 本市のデザイン市場規模は1996年段階で約315億円と推計される(平成12年度「デザインニーズの現状と方向性に関する基礎調査」社団法人北海道未来総合研究所)。企業側のデザイン人材ニーズは高く、顕在求人ニーズでは207職種中48位、潜在求人ニーズでは同36位となっている(平成11年度「総合的人材ニーズ調査」通商産業省産業政策局)。しかし、札幌商工会議所調査によると、本市の多くの企業は「デザインは重要であると認識しているが、投資をしきれない」という意識を示しており、企業自らがデザイン力を保持することが困難である状況にある。
 その一方において、市内のデザイン関連私立専修学校・各種学校は数多く、学生・教育者を含め、デザインに関わる人材の裾野が広いことが推定できる。情報ビジネス支援センターには、画像処理72件、CG制作43件、DTP37件、キャラクター制作26件、デジタルアニメーション20件の企業登録があり、情報関連企業のデジタルデザインヘの関わりが深いことを窺がわせている。また、全国的にも類まれな人的・産業資産と進取的な集団・パワー、そしてこれらの根底の技術に対する好奇心やシーズがあり、こうした人材が現在マルチメディアデザイン分野に進出しつつある。
 以上のことから、デザイン産業の振興は本市諸産業の活性化への寄与効果が高いものということができ、他地域に先駆けた人材確保策は、国内外における本市産業の競争力強化と直結するといえる。そのためには、
 [1]既存企業活動の高次化・高度化への支援
 [2]企業・人材の誘致・定着
 [3]個人事業者の活動創出支援
の3つのポイントを循環させ、重点をシフトさせていくことが政策的に有効と考えられる。前述した「デジタル創造プラザ」の開設は、財団法人札幌エレクトロニクスセンターによる、こうした企業・クリエイターへの「デジタル工房」の提供(1996年度)、「地域デジタルコンテンツ産業支援協議会」の設置(1998年度)という経過の延長線上にある。
 一方、本市は1991年4月に市立高等専門学校(インダストリアル・デザイン学科)を開校し、これまでに本科で6期413人、専攻科で4期79人の卒業生・修了生を輩出している。現在、高等看護学院と統合した2学部構成による大学の設置を検討しているが、高等専門学校の教育・研究機能に対して企業側からは「地域のオピニオンリーダーとしての学校と、情報産業の接点が欲しい。教員との接点が個別にはできつつあるが、一層地域と関わりのある市立高専となることを期待する」との指摘もあり、都市型産業振興施策面と大学等高等教育機関の機能面との整合のとれた連携の構築、教育・研究機能の高度化が必要である。

(4)市民起業、コミュニティ・ビジネス
 これまで、高い付加価値を生み出し、域外からの“外貨”をもたらし、かつ幅広い業種の裾野を構築できる、いわば“攻め”の産業分野の今後について展望してきたが、その一方において、市民が都市生活を送るための商品・サービス供給が可能な限り域内調達できるような、生活支援関連産業群の育成・振興策が必要である。このことによって、域外に対するオリジナリティの高い商品・サービス開発につなげるとともに、域内投資への意欲を高め、また市民の雇用・就業の受け皿としていくなど、本市の自律的・内発的経済の構築を目指していくものである。その一環として、市民起業、コミュニティ・ビジネスの振興策について、その可能性を中心に、以下概観する。
 規制緩和の進行に伴い、サービス業を中心に新たなビジネスが生まれる可能性が大きい。英国では1980年代以降、10%前後の失業率を、小規模事業の起業促進策と規制緩和で5%台に抑え、1995年には就業者数が年間5万人増加したといわれている。
 本市は、長期総合計画において「新しい分野や事業へ積極的に取組んでいく意欲的・創造的な個人や企業は、新たな経済活力を生み出す担い手として大きく期待される。特に、中小企業が中心の札幌にとって、その経営基盤の強化はもとより、中小企業が持つ機動性や柔軟性、地元への密着性を生かしながら、創造的で活力ある中小企業を育成していくことが必要」であり、「関係機関との連携を深めながら、研究、商品開発、事業化・販売の各段階に応じた資金、人材、情報などによる支援を充実するとともに、これらを有機的に結び付けるコーディネート機能を強化し、ベンチャー企業の創出など、様々な産業分野での創業を促進する」として個人・企業が活動しやすい環境づくりを掲げている。
 ライフスタイルの多様化は、財・サービスに対する市民ニーズの多様化傾向と無関係ではなく、これらの多くは、行政等公共部門に対する需要・要請圧力となる傾向が認められる。それは結果的に地方公共団体の財政悪化、社会的コストの上昇、通貨流通の回転性の低下などの要因となる。一方、まちづくり、福祉、環境保全などの分野で、地域社会や暮らしを自らの手によってより豊かにしていくという活動が、本市においても多様に展開され、公共部門では困難な商品・サービスを提供し、新たな価値を地域に創造している。
 市内の市民活動団体886団体を対象にアンケートを行い、うち回答のあった453団体について取りまとめた「札幌市における市民活動団体に関する調査」(2000年2月)結果によると、組織面で小規模な団体が多いものの、経営規模を見ると、10万円未満の団体が最も多く、次いで100万円以上500万円未満の団体が多くなっており、中堅的な団体が比較的多く活動していることを示している(100万円以上が134団体、うち500万円以上が55団体)。次にスタッフの構成を見ると、常勤スタッフのいる団体は176団体あり、うち有給者がいる団体は55団体、非常勤スタッフのいる市民活動団体は249団体あり、うち有給者がいる団体は41団体となっている。
 また、生活クラブ生協を母体として自らの活動を生み出した団体で構成されている北海道ワーカーズ・コレクティブ連絡協議会の加入団体は、 2001年9月現在で29団体あり、349人が就業している状況となっている。
 このように市民活動団体は、非営利活動を主としてはいながらも有給の就業を伴っている団体も数多くあり、地域経済活動を担う主体となっていることから、創業促進・活動支援にあたっては、企業活動のみならず、市民起業・市民公益活動の経済活動ならびに雇用機会としての評価が必要である。現在、市内のある地域の商店街をモデルとしてコミュニティ・ビジネス導入について地元と検討しているところだが、リスクマネジメントを含めた支援の機能はどうあるべきかを検討中である。








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