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(3)福祉関連産業
 少子・高齢化の進行に伴い、自宅で安心して生活を送るための多様なサービスのニーズが急速に増加していくことは当然に見込まれ、大都市札幌もまたその例外ではない。本市は、自立を支え、介護を容易にすることを目的とした、様々な福祉機器・生活用具の製造あるいは福祉サービスの提供にかかわる産業領域を、“誰もが暮らしやすい札幌”を支える産業として位置付けて振興し、官民の役割分担によるサービス提供と市場・雇用の確保を図ることとしている。
 2000年、本市は本格的な福祉産業の振興に向けて「札幌の福祉産業の振興策を探る会議」を設置した。この会議は、市内の福祉用具関連企業、研究者、団体をメンバーに、本市における福祉産業の現状や課題、今後の方向性を議論し、現場的な意見・要望等に基づいた具体的な方策を導き出していくものであり、具体的な振興策については、実験的な取組みを続けていく過程で得られた結果を反映させ、実効性の高い施策展開を進める方針でいる。同年から開催している「らくらくフェア」はその一環であり、福祉用具関連ビジネスの現実的な成立性と、市内の福祉用具市場(市民の購買意識)とを把握するため、実験的に福祉用具の展示・販売・指導を一貫して行う場を、関連企業と本市行政との協働によって設定しているものである。
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▲らくらくフェア
▼保護帽
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 一方、市民が現在利用している福祉用具の多くは北海道外メーカー製造によるものであるために、積雪寒冷地対応となっておらず、使い勝手が悪く、結果的に生活に不自由を感じてしまうという指摘が多くある。このため、本市の気候特性に適した福祉用具の独自の開発・商品化に向けて「福祉用具のデザイン開発・研究プロジェクト」を発足させた。これは、市立高等専門学校の研究者がデザイン力を発揮し、市内福祉用具関連企業が素材調達や市場調査などのノウハウを提供、市がそのコーディネーター役となって札幌発信の福祉用具のデザイン開発を共同で進めたものである。その結果、高齢者が転倒した際にも頭部を守ることのできる「保護帽」を、高齢者のみならず誰もがかぶりたくなるような、デザインにすぐれた製品として生み出した。
同プロジェクトでは、今後に向けて、歩行補助としても使用できるショッピングカートの製作を目指している。

(4)環境関連産業
 2000年、関係企業と市行政によって「環境関連産業の振興策検討会議」を設置し、環境保全に配慮した企業活動に対する具体的な支援策の検討を始めた。
 その中で、環境保全(エコ)と企業利益(プロフィット)の調和を実現する環境教育活動として、市・商工会議所等の協力によって参加企業にコスト削減とコンサルタント事業を行う「エコプロフィット」制度の導入を進めている。これは、持続可能な循環型社会の構築、市内企業のコスト削減、環境保全に関連するニュービジネスの市場形成を視野に入れているものであり、ミュンヘン市で一定の成果をあげている制度である。本市においては、市民参加による「環境保全協議会」がまとめた市長あて提言「市民がまもり市民がつくる札幌の環境」に事業案として盛り込まれている。 

(5)積雪・寒冷地対応技術関連産業
 積雪・寒冷地にある札幌にとって、冬季間の市民生活の維持・向上は、まちづくりの大きな課題である。
 営々と展開してきた雪・寒さに対応したまちづくりは、多くの技術・情報を蓄積してきている。これらは札幌の持つ特有の資源として定着しており、高気密・高断熱の北方型住宅、融雪機器等の独自技術やこれらを活用した製品が数多く生み出されてきた。また、市民向けの「家庭用融雪施設設置資金無利子融資」等は、市民ニーズヘの対応と受注機会拡大等による域内市場拡大・技術革新とを並立させる手法としても一定の効果を挙げている。
 この産業分野は単体で成立しているものではなく、福祉、環境、デザインなど多領域にわたるものであるため、これを逆論すると、積雪・寒冷地対応は、異業種連携のキーワードともなる。
積雪寒冷地における諸都市の人口と累計年降雪深さ
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