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3 札幌市における都市型新産業振興の具体的取組み
 2000年1月に策定された本市まちづくりの基本計画である「第4次札幌市長期総合計画」において、「産業の発展は、多様で活発な経済活動を通じて都市の活力を生み出すとともに、雇用の機会を創出し、様々な需要に対応した商品やサービスを提供するという市民の豊かな暮らしを支える重要な役割を担っている」(第2部第4章第4節 経済〜活力を高める)として、都市型産業振興策の多義性を示している。
 また、長期総合計画に先立って策定された「札幌市工業振興計画」(1995年度)において、
 [1]産業連関性が高く、産業構造の高度化への寄与度が高い技術・産業分野
 [2]本市が持つ独自性を生かした技術・産業分野
 [3]将来的な需要の高まりが想定され、都市政策上から振興の必要性が見込まれる技術・産業分野
 を21世紀の本市産業の発展を支える新しいリーディング産業と位置付け、“新札幌型産業”として創出・育成を図ることとしている。
 この考え方に基づいて、第4次長期総合計画では「質の高い生活環境や北の風土特性など、札幌が持つ資源や特性を積極的に活用しながら、集客交流産業をはじめ、情報関連産業、積雪・寒冷地対応技術関連産業、福祉関連産業、環境関連産業を重点的に振興していく」こととしている。これは、これらの分野を切り口とした域内市場及び雇用拡大によって市民の豊かな暮らしを支え、また、積雪寒冷の大都市札幌の独自性の高い商品・サービス・情報・技術を開発することによって高次都市機能の形成につなげていくという趣旨である。
 以下、本市が現在リーディング産業として位置付けている集客交流産業と、新札幌型産業各分野の振興策の現況について概観する。

(1)集客交流産業
 札幌は、鮮明な四季の変化や身近な豊かな自然をはじめ、さっぽろ雪まつりやYOSAKOIソーラン祭り、歴史的資産である時計台のほか、大倉山ジャンプ競技場や札幌芸術の森など、多くの観光資源に恵まれている。また、1972年の冬季オリンピック大会以降、様々な国際的スポーツイベントや国際会議など、コンベンションの誘致・開催に積極的に取組むとともに、インターネットを活用した「サッポロ新市民10万人事業」、札幌シティPR推進委員会による様々なシティPR事業を展開し、都市のイメージアップに努めてきている。
 このような中、多くの観光客が札幌を訪れ、特に、東アジア地域を中心に海外からの観光客が増加傾向にある。また、札幌ドームの完成(2001年)、コンベンションセンターの開設(2003年予定)など集客交流施設の整備と並行し、2002年にはワールドカップサッカー大会、第11回国際冬期道路会議(3,000人規模)、障害者インターナショナル世界会議(2,000人規模)、2003年には国際測地学・地理物理連合総会(6,000人規模)を開催することとなっている。
 長期総合計画策定時の試算によれば、本市の観光・コンベンション関連産業の市内生産額は総生産額の21.6%を占めている。また、市内の観光消費総額の約7割が札幌市民以外による消費となっている。このように、観光・コンベンションが本市経済にもたらす効果は極めて大きいが、幅広い産業分野が活性化することによって、さらに魅力が高められていくという好循環を形成していくためには、別次元からのアクションが必要である。
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▲コンベンションセンター(完成予想図)
 集客交流の促進に対して、本市は、都市が新たな価値を創出する装置・システムであることの意義を重要視している。
それは、集客交流が異なる文化・価値観を持つ人々との交流を通じて新たな産業・文化の創造が促進されるものであるという理念に基づいており、「市民にとって住み良い街であることが、訪れる人々にとっても魅力ある街である」という本市「観光基本計画」の基本理念の表現に凝縮している。すなわち、集客交流促進策に、札幌という都市・市民が蓄積・発信するオリジナリティやアイデンティティの開発・定着といった長期的視点に立った政策であると同時に、短期的には観光・コンベンション関連産業の活性化に向けた好循環形成のアクションとしての意義を併せ持たせている。
 こうした政策理念を基底とし、市民・企業・関係団体との連携による観光とコンベンションとの一体的な推進、経済活性化、都市文化向上など、まちづくりにつながるコンベンションの誘致・開催策を盛り込んだ「集客交流促進計画」を平成13年度内に策定する予定であり、この中で観光客数を現在の1300万人から2005年には1500万人へと拡大していくことを想定している。 

(2)情報関連産業
 本市の情報関連産業振興への積極的な取組みの起源は1980年代に遡る。1976年に生まれた「北海道マイクロコンピュータ研究会」(北海道大学工学部・青木由直教授主宰)のメンバーによるソフトウェア開発等の起業が引続き、この動きに呼応するような形で「札幌テクノパーク」の造成・分譲(厚別区)と、「財団法人札幌エレクトロニクスセンター」が設置された(1986年)。北海道大学「知識メディア研究所」の田中譲教授を中心とした「インテリジェント・パッド」の共同開発とコンソーシアムの発足(1993年)や、マルチメディア・データベース「ハイパー風土記札幌 INTERCITY OROPPAS(オロパス)」の市民参加による構築(1995年)、これら事業などを通じて形成されていった「ネットワーク・コミュニティ・フォーラム(NCF)」による関連業種や異業種を活動フィールドとしている人々を含む人的ネットワークが、“サッポロバレー”と呼ばれる現在の企業活動の集積につながっている。
 インターネットがここ数年急速に普及したことなどを背景に、情報通信技術を活用した新たなビジネスも生まれ始め、2000年現在、情報関連産業は1984年と比較すると、企業数が約2倍の300社、従業員数が約2.8倍の11,000人、売上高が約5倍の1800億円となっており、本市基幹産業の一つといえるほどに成長している。
 企業集積は札幌テクノパークから始まり、地価・オフィス賃料が比較的安価でありかつ北海道大学や都心・都市間交通の利便性の高いJR札幌駅北口周辺(北区)に進み、さらに、現在、その隣接駅であるJR桑園駅前(中央区)においてコールセンターと情報関連企業を対象とするITフロントゾーンが形成されている。
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▲札幌市エレクトロニクスセンター(厚別区)
 道内の情報関連企業の売上高の約4割が道外であることから、移輸出型産業として評価できる。製造業等物流を伴う業種では、原材料の調達地や消費地から遠距離にあることが立地・誘致上極めて不利な条件であるが、生産されるモノあるいは付加価値が知的生産財のように無形・無量の形態である場合は、物理的な隔たりはそれほどのハンディキャップとはならないことを示している。むしろ創造的活動にあっては、巨大資本による制約や歴史的しがらみのない自由な雰囲気と、人的ネットワークを基盤とした連携・協力関係、そして対個人・対事業所の各種都市型サービスが供給されていることが大きな条件となることを示している。
 本市施策面を振り返ると、電子商取引の普及促進を図るため、1998年度に「電子流通促進事業」を始め、産学官連携により「電子流通促進協議会」を組織し、会員企業が特産品の販売などのプロジェクトを行っている。また、同協議会の事業として、札幌の物産等を国内の札幌ファンに売込む「サッポロ・フューチャー・スクエア(SFS)」というインターネットホームページを運営している。
 これら事業の展開・実績を背景に、本市は2000年に「情報ビジネス支援センター(IBC)」を中央区都心部に開設した。これは、新技術創出促進法に基づく本市の「新事業創出基本構想」(1999年策定)の重点分野である「情報技術の活用を重視した新しいビジネスの開発・創出」のため、そのプラットホームとして位置付けられた財団法人札幌エレクトロニクスセンターに対して事業費を補助し、情報通信技術を活用したビジネスの開発や情報関連産業をはじめ、様々な分野の企業が行う共同事業の仲介・調整などを行うものである。
情報関連企業データベースを活用し、情報関連企業と他企業との連携や情報化を進めるほか、相談窓口やビジネス交流の場の提供を行っている。
 また、情報技術を活用したビジネスの一つにコールセンタービジネスがある。この立地についても、消費地等との物理的懸隔に影響されないものである。訛りが少ない、高学歴の女性が多いなど、札幌の都市としての強みである人材に着目し、企業誘致・育成事業を実施している。北海道の施策とも連携をとり、初期投資費用の補助・融資制度を設け、1999年度以降15社16箇所が誘致・開設され、約2,500人の雇用が図られている(2001年10月現在)。
 さらに、2001年には、札幌市教育研究所移転後の跡施設を改修し、「デジタル創造プラザ(インタークロス・クリエイティブ・センター。ICC)」を開設した(豊平区)。ここには20室のレンタルオフィスや会議室、インターネット専用回線等を備え、デジタル技術を活用した映像や音楽などの情報コンテンツ関連ビジネスで起業を目指すクリエイター等の活動を支援している。具体的には、専門技術や経営に関するセミナーの開催、制作者同士が作品を発表しあい技術の向上や人脈づくりができるイベントの開催、プロモーションの企画などを実施している。
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▲デジタル創造プラザ(豊平区)
 本市としては、以上のような施策を展開してきたところであるが、企業集積・活動は行政施策等を通じたフォーマルな関わりのみによって促進されたものではない。多業種かつ市全域にわたって醸成されてきた、いわば半フォーマルの人的ネットワークが底流にあり、そこには多数の市職員も参画し、財団法人札幌エレクトロニクスセンターが技術開発等の素材を提起するなど、コーディネーター・中間組織として枢要な役割を果たすことによって、お互いの技術力と求心力が高まっていったという事実経過がある。このことは、今後の都市型産業振興策の検討にあたって大きな示唆に富むものといえる。








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