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2 札幌市における「都市型新産業振興」施策推進の必要性 
 このような環境のもとでの都市活力向上に向けては、内発的自律性を備えた足腰の強い経済の構築は必要条件であり、そのために既往産業振興諸施策はもちろんのこと、多方面の政策分野にわたったあらゆる手段を用いなければならない状況にある。そして、その対応の組み立ては自ずと多次元的とならざるを得ないというところに、従来行ってきた特定産業分野に対する振興策群あるいは経営健全化・安定化への施策等と違う意味での難しさが発生する。
 例えば、これを取組みのスパンで考えると、長期的視野に立っては域際収支改善に向けた方策を選択し、本市経済の自立の実現を目指していくが、その一方、短期的には地元企業への経営力・競争力強化、商品開発・市場拡大支援、情報関連など移輸出型産業や集客交流関連産業の振興、コールセンターなど域外資本を導入した雇用創出を積み重ねていくこととなる。
 他方、分野で考えると、新たな産業分野の振興策だけでは雇用吸収が量的にも質的にも極めて困難であるという状況認識に立たざるを得ず、“攻め”と“守り”の両面を睨んだ意識的な戦略を展開し、将来的には両者が合流し、あるいは互いに支えあう経済構造とすることを意識化することとなる。つまり、今後とも成長が期待される分野の知識創造集約・技術開発型企業を振興することによる関連サービス業種への効果波及策と、市民の生活を豊かにする新たな市場に対応した企業等の振興策を図っていくこととなる。
 また、起業や業種分野の拡大を目標に掲げる際には、限られた小さなパイをいかに効果的に分配するかという視点に止まることなく、そのパイを大きくし、拡大した分を民業に移転するという、明治期における北海道開拓使の官営工場払下げにも似た構図の可能性をも視野に入れておく必要がある。例えば、都市整備にあたってのユニバーサルデザインの視点の導入や環境低負荷型開発技術の都市施設への導入など、まちづくりの領域における公共需要創出も通じた域内市場への浸透・技術力向上や、電子調達・電子入札導入とセットとなった地元企業の情報化投資や情報分析力向上への支援など、公共需要を通じた市場形成面からのアプローチを個人需要の拡大策と並行して選択することとなる。
このとき、市行政等の公共セクターは産業振興施策サービスの供給者としての立場に止まることなく、地域経済における一プレイヤーとしての役割をも認識しなければならない。
 成長期待分野の知識創造集約・技術開発型企業活動や、住民の生活を豊かにする分野の活動についても、経営資源を獲得し、主要な対象マーケットとするのは、ともに都市集積あるいは装置としての都市機能であり、大都市におけるこの意識的な経済活性化の戦略展開を別の視点から照射すると、結果的に“都市型新産業振興”という視界が広がることとなる。 








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