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被害者・遺族からのメッセージ
  今の私にできること
山形市 渡辺 理香
 当センターでは、昨年7月から「自助グループを開きたい被害者のための研修会」を開催しています。研修会には、全国各地から被害者やご遺族が集まり、実習を取り入れながら自助グループ運営の基本や事件後の精神的影響、心を落ち着かせる方法等を学んでいます。
 山形市の渡辺さんもそのお一人で、「苦しみは自分たちだけでたくさん、被害者支援体制の充実と被害者が出ない社会の実現をめざしたい。」と語っています。……
 
 「業務上過失致死罪」なんと便利な言葉でしょう。交通事故において、この言葉に泣かされた被害者遺族は、かなりの数に上ると思います。一口に交通事故と言っても、その事故状況は様々です。飲酒運転といった、事故が起こるべきにして発生した場合でも、加害者側はこの言葉によって守られていると私は思います。
 この度の道交法の改正により、ひき逃げの罰則が懲役三年から五年に、罰金が二〇万円から五〇万円に、また、飲酒運転の罰則が懲役二年から三年に、罰金が十万円から五〇万円に引き上げられはしたものの、あくまでも交通事故は過失として処理され、他の犯罪に比べると、その罪は軽く扱われています。またこの改正に伴い、運転免許の更新期間が、一部の人を除き延長されますが、私はこれに関して、恐ろしさを感じずにはいられません。
 私は今から五年ほど前、かけがえのない娘を交通事故により奪われました。事故は、一斉下校中の子供たちの列に車が突っ込み、当時小学校一年生だった娘を直撃して死亡させ、もう一人の小学生にも重傷を負わせるものでした。加害者は糖尿病の持病がある女性でした。娘は教えられた通学路を交通ルールをきちんと守り、家に帰るためにただ懸命に歩いていたにもかかわらず殺されたのです。救急車で、救命救急センターに運ばれたものの、一言も口をきけぬままベットの上でたった一人で旅立って逝ってしまいました。
 数か月後、新聞で加害者が書類送検されたことを知りました。当然きちんと罰せられるものとばかり思っていました。しかし、事故から一年半後、私共に何の連絡もないまま不起訴で終わっていたのです。「嫌疑不十分」、これがその時私共が知り得た理由でした。信じられませんでした。今まで自分たちの生活を守ってくれていると思っていた法律に、牙を向けられ、奈落の底に突き落とされた気がしました。なんとか不起訴の理由を知りたいと、担当検事に会ってくれるよう必死で頼みました。「会うつもりはない。」との返事でした。「なぜ娘を殺されてもその理由も教えてもらえないのか。」と、ある新聞に私共の思いを訴えました。そして、それがきっかけとなったのか、次席検事とようやく会うことができたのです。
 次席検事からは、「今回の事故は加害者に糖尿病の持病があったが、その後調べていくうちに他の病気も発見された。従ってこの事故は、そのどちらが原因となって起きたのかはっきりしない。嫌疑不十分ということで、この事件は不起訴になった。」確かそのような回答でした。「新たに判った別の病気については、加害者のプライバシー保護のために教えられない。」とのことでした。何も悪くない娘が殺されたことは事実なのに、納得がいくはずがありませんでした。私共は、検察審査会に申し立てを行い、微かな希望にかけたのです。私たちに残された道は、もうそれしかなかったのです。審査会の決定は、「不起訴不当」でした。そしてそれを受け、事故から約三年近くして、ようやく加害者は在宅起訴されたのです。裁判が始まりました、そしてその中で、私共の全く知らなかった事実が次々に明らかになっていったのです。
 裁判は、加害者が運転中に目がかすむなど、体調の異変に気がついた時点で事故を予見し、運転を中止できたかどうかで争われたのです。加害者側は事故の予測は不可能として、過失を否認し続けました。公判の中で、加害者はその日、病院でインシュリンの投与を受け帰宅する途中だったこと、目がかすむなど事故前にも仕事場等で十回ほど意識を失った経験があること、事故現場の一、九kmほど手前から、蛇行や急ブレーキを繰り返しながら運転を続けてきたこと、そして、その間の信号においてはきちんと停止し、縁石やガードレールに接触することは回避していたこと等が判明したのです。
 結局、事故から四年ほどたった平成十三年三月三日、被告の責任が認定され、禁固一年八か月、執行猶予三年の有罪判決が出たのです。判決の日は、ちょうど娘の十歳の誕生日でした。有罪になったことはほっとしましたが、やはりそれでも娘は返ってこないのです。犯した罪に対して軽すぎる判決だと思いました。せめてこの判決が、同じ様な病気の方々に考えてもらえるきっかけになればと思い、その後も新聞等に訴え続けてきました。しかし、地方で起きた事故のせいか、なかなか広く知っていただくことは叶いませんでした。
 新しい免許制度が、今回のような加害者を見過ごすことなく、きちんと機能してくれるための、もう一歩踏み込んだ改正を強く望んでいます。
 今の私が叶えたい一番の夢は、娘と肩を並べ、スーパーへ買い物に行くことです。しかしどうしても、どうしてもその夢が叶わないと言うのならば、どうか娘の死を無駄にすることのない方法を私に教えて下さい。
 
 〜突然の事故や事件で愛する人を失ったあなたへ〜
   「交通事故・不慮の事故遺族の会」
 都民センターの自助グループへ参加したこともある山形市の渡辺理香さんは、五年前に当時小学校一年生だった長女の祥子ちゃん(六歳)を交通事故で亡くしたことから、最愛の家族を亡くした遺族でつくる「めんどりの会」・(小野寺南波子会長)へ加入し、現在、同会のグループの一つでもある「交通事故・不慮の事故遺族の会」の代表として、遺族の精神的なサポート等を行っています。
 渡辺さんは、同会への参加の呼び掛けと活動等を紹介するための一つとして、山形県警・犯罪被害者対策室の協力を得て、「突然の事故や事件で愛する人を失ったあなたへ」と題するメッセージを載せたカードを作成し、県内の各警察署を通じて配布しています。
 このカードは、同じような被害で悩み苦しんでいる遺族の方々と語り合うことで、心の重荷が少しでも軽くなればと願って作成したとのことですが、渡辺さん自身も「事故直後は、悲しみで何も話す気になれなかったが、ある程度時間がたつと「話したい」と思った。しかし、どこにも話せる場がなく孤独に苦しんだ経験がある。もし苦しんでいて話す場がないのなら、電話で連絡してほしい」と話しています。
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● 渡辺さんの連絡先は、(電話023−624−2789・FAX兼用)まで。








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