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III 介護保険導入前後での変化
 平成12年4月に介護保険制度が導入されてから1年半を経過したが、老人介護の現場では従来の措置制度から保険制度へと変わったことにより、労働条件等を始めとして様々な変化がみられてきたのではないだろうか。実際にその間に勤務していた方々にはどのように感じられたのか、「利用者・家族との関係」、「ケア計画」、「賃金」、「職員数」、「労働時間」、「介護の専門性への影響」の6項目について尋ねてみた。
1. 利用者・家族との関係〔第20表参照〕
 特別養護老人ホームにとって介護保険制度が導入されたことによる最も大きな変化は、それまで行政によって利用する施設を決定されていた「措置」から、利用者がサービス内容などを比較検討して利用施設を選択できるという「利用者選択」への変化ではないだろうか。このことによって、施設におけるサービスの質や内容の差が施設運営を大きく左右するといっても過言ではなく、利用者やその家族の施設に対する立場は、施設の選択権を有した事で優位なものになったのではないだろうか。介護保険導入後の利用者・家族との関係の変化を介護に当たっている職員がどのように感じているのか尋ねたところ、「変わらない」と感じている者が362人(76.5%)と最も多く、「良くなった」、「悪くなった」はともに1割程度であった。介護保険の導入から1年半が経過したが、それ以前からの利用者がまだ多いのがこのような結果につながっているのであろうか。
 施設の設置形態別にみると、「良くなった」と回答した者の割合が最も高いのは「民設民営」の施設に勤務する者の16.5%で、「公設公営」の施設に勤務する者の8.5%と比べてほぼ倍の割合であった。「民設民営」の施設ほど施設全体での努力が感じられる結果であった。
 次に施設の入所者定員別にみると、規模が小さい施設ほど「変わらない」と回答した者の割合が高く、規模が大きい施設ほど「良くなった」と回答した者の割合が高くなっており、「101人以上200人以下」の施設では「良くなった」と回答した者の割合が2割近くになっている。
 規模の小さな施設では介護保険が導入されても、利用者やその家族との関係にはさして影響がなかったのであろうか。
 職種別、男女別等では特に目立った点は見受けられなかった。
第20表 介護保険導入前後での変化(利用者・家族との関係)
回答者数:473人
  良くなった 悪くなった 変わらない
回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 60人 12.7% 51人 10.8% 362人 76.5%
設 置
形態別
公設公営 10 8.5 12 10.2 96 81.4
公設民営 14 11.1 19 15.1 93 73.8
民設民営 32 16.5 17 8.8 145 74.7
入所者
定員別
50人以下 6 5.6 7 6.5 94 87.9
51人以上100人以下 40 14.4 33 11.9 205 73.7
101人以上200人以下 14 18.2 8 10.4 55 71.4
201人以上 - - 2 25.0 6 75.0
職種別 生活相談員 16 12.8 16 12.8 93 74.4
介護職員 44 12.6 35 10.1 269 77.3
男女別 女性 45 13.2 33 9.7 262 77.1
男性 15 11.3 18 13.5 100 75.2
年 齢 別 20歳未満 - - 1 100.0 - -
20歳代 16 11.7 13 9.5 108 78.8
30歳代 10 8.8 14 12.3 90 78.9
40歳代 18 15.5 10 8.6 88 75.9
50歳代 15 15.5 11 11.3 71 73.2
60歳以上 1 20.0 1 20.0 3 60.0
2. ケア計画〔第21表参照〕
 前記1.でも触れたように、介護保険制度の導入によって、良好な施設運営のためには、サービス内容を充実させていくことは、重要なファクターとなっているのではないだろうか。そこで実際にケア計画は充実したと感じているのか尋ねたところ、「充実した」と感じている者が196人(42.1%)と最も多いが、「変わらない」と感じている者も182人(39.1%)と均衡していた。
 なお、「充実しない」と感じている者が88人(18.9%)と、2割近くいた。これは、例えばお花見会やクリスマス会などの行事が、利用者本人の負担になったなどの理由で減っている等見聞するが、このような実際の介護ではないものの、利用者がゆとりをもった豊かな生活を送るのに必要な機会が減っているという意識がこの回答数に反映されているのであろうか。
 次に施設の入所者定員別にみると、概ね規模が大きくなるほど「充実した」と回答した者の割合が高くなっており、「50人以下」の施設では「変わらない」と回答した者の割合が46.2%と、半数近い数字となっていた。これも、規模が大きいほどサービスの充実等が施設運営に与える影響が大きいということであろう。
第21表 介護保険導入前後での変化(ケア計画)
回答者数:466人
  充実した 充実しない 変わらない
回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 196人 42.1% 88人 18.9% 182人 39.1%
設 置
形態別
公設公営 48 41.4 21 18.1 47 40.5
公設民営 56 45.9 20 16.4 46 37.7
民設民営 74 38.5 38 19.8 80 41.7
入所者
定員別
50人以下 38 36.5 18 17.3 48 46.2
51人以上100人以下 116 42.3 56 20.4 102 37.2
101人以上200人以下 38 48.7 10 12.8 30 38.5
201人以上 3 42.9 2 28.6 2 28.6
職種別 生活相談員 52 41.6 20 16.0 53 42.4
介護職員 144 42.2 68 19.9 129 37.8
男女別 女性 142 42.6 64 19.2 127 38.1
男性 54 40.6 24 18.0 55 41.4
年 齢 別 20歳未満 - - - - 1 100.0
20歳代 58 43.6 25 18.8 50 37.6
30歳代 49 42.6 17 14.8 49 42.6
40歳代 41 35.7 25 21.7 49 42.6
50歳代 42 44.7 20 21.3 32 34.0
60歳以上 4 80.0 - - 1 20.0
3. 賃金〔第22表参照〕
 労働条件を考えるに当たって、真っ先に考えられる項目であるが、介護保険の導入後に賃金が「減った」と感じている者の割合が31.4%と約三分の一を占めていた。どのような項目で減ったと感じたのかまでは調査していないので、俄かに判断はつかないものの、本給自体のベースダウンということは考えにくいことから、諸手当の見直しや、人員配置の改善等により、結果的に時間外勤務や夜勤回数などが縮減したことなどにより、実績ベースで減ったと感じているということであろう。「増えた」と感じている者の割合は3.8%と5%に満たない結果であった。
 設置形態別にみると、「公設公営」の施設では「変わらない」と回答した者の割合が79.8%と8割に近かったのに対し、「公設民営」や「民設民営」の施設では「減った」と回答した者の割合がそれぞれ33.9%、37.6%と3割を超えており、民営の施設を中心にその運営に際して人件費の点検や見直しが行われたということであろうか。
第22表 介護保険導入前後での変化(賃金)
回答者数:475人
  増えた 減った 変わらない
回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 18人 3.8% 149人 31.4% 308人 64.8%
設 置
形態別
公設公営 2 1.7 22 18.5 95 79.8
公設民営 7 5.5 43 33.9 77 60.6
民設民営 7 3.6 73 37.6 114 58.8
入所者定員別 50人以下 4 3.7 32 29.9 71 66.4
51人以上100人以下 11 3.9 90 32.3 178 63.8
101人以上200人以下 3 3.8 23 29.5 52 66.7
201人以上 - - 3 37.5 5 62.5
職種別 生活相談員 2 1.6 41 32.8 82 65.6
介護職員 16 4.6 108 30.9 226 64.6
男女別 女性 15 4.4 108 31.6 219 64.0
男性 3 2.3 41 30.8 89 66.9
年 齢 別 20歳未満 - - - - 1 100.0
20歳代 7 5.2 34 25.2 94 69.6
30歳代 1 0.9 38 33.0 76 66.1
40歳代 4 3.4 39 33.1 75 63.6
50歳代 5 5.1 38 38.8 55 56.1
60歳以上 1 20.0 - - 4 80.0
4. 職員数〔第23表参照〕
 介護保険の導入により、介護職員及び看護職員を合わせた人数は入所者数に対して、常勤換算で4.1:1から3:1と改められており、パート職員も含めて、介護職員の数は増えているものと考えられる。実際に介護に当たっている職員はどのように感じているのか尋ねたところ、「変わらない」と回答した者の割合が最も高く44.7%で、「増えた」と回答した者の割合は33.8%であった。
 なお、「減った」と回答した者の割合が21.5%と、2割を超えていた。
 なぜ2割を超える者が「減った」と感じたのかは俄かには判断できないが、現実に職員数が減っているということは考えにくく、例えば、ショートステイの利用者が増え、そちらに職員が割かれた結果、入所者の介護に当たる人数が一時的に減ったと感じていることなどが考えられる。
 職員配置基準上は、職員一人当たりの利用者数は少なくなるのであろうが、これはあくまで総数での基準であり、かつ、パート職員も含めた常勤換算での基準であるため、介護業務の大部分が集中する日中の介護職員の数は限られており、そのような状況の中でサービスの向上を図るということはかなりの苦労なのではないだろうか。
 施設の入所者定員別にみると、小規模の施設では「変わらない」と回答した者の割合は高く、規模が大きいほど、「増えた」と回答した者の割合は高くなっている。
第23表 介護保険導入前後での変化(職員数)
回答者数:474人
  増 え た 減 っ た 変わらない
回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 160人 33.8% 102人 21.5% 212人 44.7%
形態別設置 公設公営 41 34.5 24 20.2 54 45.4
公設民営 44 34.9 23 18.3 59 46.8
民設民営 64 33.0 47 24.2 83 42.8
入所者定員別 50人以下 31 29.0 18 16.8 58 54.2
51人以上100人以下 88 31.4 65 23.2 127 45.4
101人以上200人以下 38 50.0 14 18.4 24 31.6
201人以上 2 25.0 5 62.5 1 12.5
職種別 生活相談員 46 36.8 25 20.0 54 43.2
介護職員 114 32.7 77 22.1 158 45.3
男女別 女性 108 31.8 71 20.9 161 47.4
男性 52 38.8 31 23.1 51 38.1
年齢別 20歳未満 1 100.0
20歳代 36 26.7 28 20.7 71 52.6
30歳代 39 34.2 28 24.6 47 41.2
40歳代 44 37.6 20 17.1 53 45.3
50歳代 36 36.4 25 25.3 38 38.4
60歳以上 3 60.0 1 20.0 1 20.0
5. 労働時間〔第24表参照〕
 介護保険制度という新たな制度が導入されたことで、日々の仕事のやり方や、サービス内容等も変わってきたものと考えられる。そこで、労働時間に変化があったか尋ねたところ、「増えた」と感じている者が47.2%、「変わらない」と感じている者が52.6%とほぼ半数に分かれた。週所定労働時間を増やすということは考えにくく、介護保険の導入に伴い新たな書類の作成等の事務作業が増えたため、その処理のために時間外勤務が増えるなどしたためであろうか。
 職種別にみると、「生活相談員」で「増えた」と回答した者の割合が57.3%と、6割近くに達しており、事務処理方法の改善等何らかの対策を検討する必要があるのではないだろうか。
第24表 介護保険導入前後での変化(労働時間)
回答者数:477人
  増 え た 減 っ た 変わらない
回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 225人 47.2% 1人 0.2% 251人 52.6%
形態別設置 公設公営 52 43.7 - - 67 56.3
公設民営 61 48.4 1 0.8 64 50.8
民設民営 95 48.5 - - 101 51.5
入所者定員別 50人以下 42 40.0 - 0.4 63 60.0
51人以上100人以下 136 48.2 1   145 51.4
101人以上200人以下 39 49.4 - - 40 50.6
201人以上 6 75.0 - 0.8 2 25.0
職種別 生活相談員 71 57.3 1   52 41.9
介護職員 154 43.6 - 0.3 199 56.4
男女別 女性 156 45.5 1 - 186 54.2
男性 69 51.5 - - 65 48.5
年齢別 20歳未満 - - - - 1 100.0
20歳代 64 46.4 - - 74 53.6
30歳代 68 59.1 1 0.9 46 40.0
40歳代 50 42.7 - - 67 57.3
50歳代 39 39.8 - - 59 60.2
60歳以上 2 40.0 - - 3 60.0
6. 介護の専門性〔第25表-1・2参照〕
 介護保険の導入後は、施設の収入源が利用者に応じた介護報酬に変わり、施設を運営していくためにも、安定した収入が必要となる。そのためには、まず安定した利用者の確保が必要であり、介護サービスの質や設備の向上も考えなくてはならないものである。そこで、施設の管理者としては、人件費やそれ以外の支出を極力押さえるため、例えば、時間外勤務の縮減やパート職員の活用、業務の合理化などの施策を図られているものと思われる。
 しかし、一方では時間内に様々な内容の介護を行うために、ややもすると画一的な介護に陥ってしまい、介護の専門性が薄れてしまうといったことが危倶される。そこで、介護保険導入後に介護の専門性に影響があったと感じるか、あったとすればそれはどのようなことなのかを尋ねてみた。
 影響が「あった」と感じた者の割合は、64.5%と過半数に達していた。その内容を複数回答でみると、「経営状態を常に意識して介護するようになった」と回答した者の割合が57.2%で最も高く、以下「事業評価、サービス評価が実施された」が44.4%、「人権や権利擁護について研修や啓蒙活動が行われるようになった」が38.7%と続き、「資格が賃金に反映されるようになった」は7.7%であった。
 なお、「その他」が10.4%あったが、その中の例をいくつか掲げると、「画一的なサービスしか提供できなくなった」、「(介護度の差はあってもサービスに差はつけられないので)本当に必要な人へのサービスが低下し、要介護度の低い人はサービス計画以上のサービスが受けられている」など、介護の内容に関するもののほか、「家族の方が施設を選ぶ際に資格者の多い施設を選択するようになった」、「資格の取得を問われるようになった」といったものがあった。
 人権等についての研修会などは、介護保険導入前にも行われていたことではあろうが、新たな保険制度導入を機に、これらの問題について再確認を充分に行ったということであろう。
 施設の設置形態別にみると、「公設公営」の施設では、「資格が賃金に反映されるようになった」と回答した者の割合は1.4%(1人)しかなかった。また、「決められた範囲内の介護だけになった」と回答した者の割合が「公設公営」の施設では17.8%と、「民設民営」の10.5%を7.3ポイント上回っていたのが注目される。
 施設の入所者定員別にみると、「決められた範囲内の介護だけになった」と回答した者の割合が規模の大きい施設ほど高くなっている。
 全体をとおしてみると、入所者定員の少ない施設では、介護保険の導入による影響は小さかったことがうかがえる。
第25表‐1 介護保険導入前後での変化(介護の専門性への影響)
回答者数:465人
  あ っ た な い
回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 300人 64.5% 165人 35.5%
形態別設置 公設公営 75 65.8 39 34.2
公設民営 81 65.3 43 34.7
民設民営 124 63.3 72 36.7
定員別入所者 50人以下 64 62.7 38 37.3
51人以上100人以下 178 64.5 98 35.5
101人以上200人以下 51 67.1 25 32.9
201人以上 6 75.0 2 25.0
職種別 生活相談員 87 70.7 36 29.3
介護職員 213 62.3 129 37.7
男女別 女性 208 62.7 124 37.3
男性 92 69.2 41 30.8
年齢別 20歳未満 - - 1 100.0
20歳代 78 57.8 57 42.2
30歳代 76 67.9 36 32.1
40歳代 78 69.6 34 30.4
50歳代 62 63.9 35 36.1
60歳以上 4 80.0 1 20.0
第25表‐2 影響があったと感じるところ(複数回答)
回答者数:297人
  決められた範囲内の介護だけになった 資格が賃金に反映されるようになった 人権や権利擁護について研修や啓蒙活動が行われるようになった 経営状態を常に意識しようになった 事業評価、サービス評価が実施された その他
回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比 回答者数 構成比
合 計 39人 13.1% 23人 7.7% 115人 38.7%$ 170人 57.2% 132人 44.4% 31人 10.4%
設置形態別 公設公営 13 17.8 1 1.4 24 32.9 38 52.1 32 43.8 10 13.7
公設民営 11 13.8 8 10.0 34 42.5 42 52.5 44 55.0 8 10.0
民設民営 13 10.5 12 9.7 53 42.7 79 63.7 47 37.9 11 8.9
入所者定員別 50人以下 6 9.5 1 1.6 24 38.1 37 58.7 33 52.4 - -
51人以上100人以下 24 13.6 14 7.9 70 39.5 103 58.2 73 41.2 25 14.1
101人以上200人以下 7 14.0 8 16.0 19 38.0 25 50.0 23 46.0 6 12.0
201人以上 2 33.3 - - 2 33.3 4 66.7 3 50.0 - -
職種別 生活相談員 9 10.3 8 9.2 46 52.9 58 66.7 33 37.9 6 6.9
介護職員 30 14.3 15 7.1 69 32.9 112 53.3 99 47.1 25 11.9
男女別 女性 22 10.7 16 7.8 75 36.6 114 55.6 97 47.3 25 12.2
男性 17 18.5 7 7.6 40 43.5 56 60.9 35 38.0 6 6.5
年齢別 20歳未満 - - - - - - - - - - - -
20歳代 7 9.1 6 7.8 22 28.6 46 59.7 34 44.2 3 3.9
30歳代 9 11.8 4 5.3 30 39.5 39 51.3 28 36.8 16 21.1
40歳代 15 19.2 6 7.7 33 42.3 46 59.0 35 44.9 7 9.0
50歳代 8 13.3 6 10.0 26 43.3 34 56.7 32 53.3 5 8.3
60歳以上 - - 1 25.0 3 75.0 3 75.0 3 75.0 - -








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