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その2
 2つめは、これは委員会の中で強く出てきた話ですけれども、企業の行動が変わってくるはずです。今までの企業の行動というのは、国際、国内に分かれていたのだろう、国内は国内でのひとつの物流というやり方があったんだろう。ところが今はもう、国際的な意味での企業行動、ひとつの基準の中での企業行動をしなければいけないでしょうし、しかも外国から入ってきた企業が日本にきた場合には、日本のルールというより自分達が持ってきた国際的なルールというのをそこに適合させようとする。例えばプロクター&ギャンブルが日本にきた時、あるいはトイザラスが日本に入ってきた時、メーカーと小売業の直取引というのを謳ってたわけですね。今度のカルフールもそうです。これは本国でそうしているわけですから、日本でもそうしたい。日本では、メーカーと小売業が直取引するという形は存在しませんから、それを日本のシステムの中に組み込むのは難しいということをいろいろ言うわけです。実際にそういうのが入ってくると、話は非常にゴタゴタ、ゴタゴタし始めるわけです。そこで初めて、グローバルスタンダードというディ・ファクト・スタンダード(de facto standard)が、ここにはいってくる。企業行動がこのグローバル化によって変わってくるに違いない。これが2つめです。
 3つめは何かというと、国際化によって国民の意識が変わってきているということですね。現在のように年間1400万人、1500万人の人が外国へ出ていく状態になりますと、ものの価格、ものの価値についての感覚というのが、日本国内だけの感覚ではないですね。外国へ行った場合の外国の値段、あるいは外国の小売のやり方、または外国の商品供給のやり方を知っている人が非常に多い。
 私が非常に興味を持ったのが、通産省(現経済産業省)が、外国で経営活動、販売活動、生産活動をやっている日本企業の社員の人に対して、日本の運賃は外国、特にアメリカ、ヨーロッパの先進工業国に比べて、どれくらいだと思うかという意識調査をやった。そうしたら、1.7倍から1.8倍という答えが多かったんですね。で、実際に運賃を為替レートで換算しますと、大体現在日本は、アメリカ、ヨーロッパとは、ものの量によって違う、距離によって違うというのがありまずけれども、平均してならしてみると、1.3倍位だろうというのですね。
 ところが、外国を見てこられた方たち、外国を知っている方たちが感覚的に言うと1.7倍から1.8倍だという。運賃の中に何が組み込まれているか、運賃というのはどこからどこまでをいうのか、物流費というのはどこからどこまでをいうのかが日本と外国では違うので、それを調整しますと1.3倍位になるけれど、感覚的に見てみると1.7〜1.8倍になってしまう。
日本の荷主企業は、日本の運賃というのは欧米の先進国に比べて1.7〜1.8倍じゃないかと思ってしまいます。そういう意識が今だんだん、だんだん出来てきている。
 我々の回りを見ても、若い人たちは、学生もそうですけれど、年に何回か外国へ行ったりしているわけですね。多分私は今日本で、消費が非常に沈滞している、金はあるのにものを買わない、ユニクロだけがなぜ売れるといったような話がおこってくるというのは、多くの人たちが、ものに対する購入意欲、またはどういうものを買うかということに対して非常に見る目が広くなり、深くなっているからだと思います。ですから、今までのようなやり方でやっていっても売れるわけがない。これ、物流も同じです。どうもそういう目で見ていくと、国民の意識がグローバル化しているんではないのかな、それに対応する物流を考えなければいけないというのが、この国際化の問題であろうというふうに思うわけです。
 それから「(2)ITと経済社会」ですが、ITが非常に大きな問題であろうというわけです。例えば我々は単にeコマース、またはインターネットだけを見ていくんですけれど、どうもそうではない、そういうものではないと。むしろ市場だけを考えて、BtoB、BtoCというふうに市場を取り上げて、その中でどういうふうにITが入ってくるかを見るのです。
 物流を見ていますと例えば、企業が行う物流管理、運輸業が行うところの運行管理、それから消費者の購買行動あるいはコミュニケーション・インフラ、こういうようなものを全部ひっくるめますと、IT化の進展によって全体の底上げがかなり行われるだろう。そして物流というのはそういうものを構成するものが組み合わさってシステムを作っているわけですから、それぞれの構成要素のやり方が変わる、レベルが上がってくると、物流全体が変わるわけです。
 ただですね、運輸政策審議会の中の、この委員会でこれについて、事務局の方からはっきり物流拠点の集約が起こるということを入れようという提案があった。ところが、委員会の中で、意見が一致しませんで、ここには入れませんでした。委員会の委員は物流拠点はIT化の進展の結果、集約化されると言う人と、分散化されていくと言う人がはっきり分かれたのです。
 例えばそれはなぜかというと、集約化されるというのはアマゾンのような、非常に大きなeコマースの会社が物流拠点を自分で作り始めていますから、作り始めれば、そこに物資が集約されるだろう。ところが、一方では、例えば現在、佐川急便さんであるとか、ヤマト運輸さんのようにeコマースをやるマーケットを対象にしたロジスティクス事業を始めているわけですね。そうするとロジスティクス全体をまとめて引き受けるという形になると、それに対する形の物流拠点、自分たちの物流拠点は分散して、かなり細かく、市場の先端に置いておかなければいけないということになるとしたら、これは分散になるじゃないか。こういう意見が両方出まして、どちらが正しいかわからない、両方に意見が分かれましたので、ここに入れなかった。
 それだけ、このIT化が進展いたしますと世の中、大きく変わるだろうし、物流自体もやはり情報システムが変わることによって、大きく変わってくるに違いないということだろうと思います。
 そしてもうひとつ巨大な問題というのが、「(4)社会的制約の拡大」の中の環境問題であるわけですね。この環境問題というのは非常に大きなテーマでして、規制要因としての大気汚染です。それからもうひとつあるのが、今のリサイクル法、つまり循環型物流というのをこの中に組み込んでいかなければいけないというのも当然あるわけです。
 だから、多分、私は環境といえば大気汚染の問題、それからこのリサイクルの問題、もうひとつが都市交通の問題。この3つをどうやって、物流をやる人達は、後で解決する問題ではなくて、中に組み込んでいくのかということが非常に重要なんじゃないのかなというふうに考えています。
 そういう事を入れた上で、「II 21世紀初頭における物流政策のあり方」という所をごらんになっていただきますと、ここにいくつか出てきます。
 まず、第一が市場原理というのをかなり取り入れていかなければいけないのではないか。これは皆様方からみると、国の政策としてどういう方向になっていくか。今考えられているのは、例えばトラック輸送であれば、運賃についていえば届出制も廃止になるのか、または今のところいわれているのが、事後届出という形が出されていますよね。そういうような形が出てきて、最終的にはもしかしたら最低台数のカット、それも無条件という方向にいくかもしれません。あらゆる場合にこの市場原理を導入していく。
多分、これは市場原理を導入しないと、解決できないと考えているだろうと思います。だから、政策として規制緩和の方向は一層進むということになるだろうということがひとつです。
 それからもうひとつはですね、物流ビジョンというのがあるのです。今見直しがおこなわれている「総合物流施策大綱」というのがございます。これが日本における国全体の物流ビジョンになりますが、前のような形ではなくて、かなり具体的な内容で出てくるのだというように話を聞いております。
 多分これをこういう形にもっていきたいという、次の見直しの時のために、かなりはっきりした目標値が出てくるであろうというふうに考えていいと思います。
 それから、もうひとつ物流政策の問題として出てきそうなのが、地域の問題。運輸省で行われました「地域物流マネジメント研究会」、この地域物流マネジメントというのは、どういう発想かというと、従来、国の場合は国が物流というひとつのビジョンを持つ、過去のサテライト型物流拠点のようなものもそうでしょうし、物流ネットワークシティもそうでしょう。それに対して、各地域が対応するという形があったのだろうと思います。
 ところが実際にやってみますと、各地域と国との間の連携の問題、これはまあ、国にいわせると、国は物流というテーマにまとめているけれども、国の物流と地域の地方行政体であるとか、それぞれの地域の物流というものがうまく結びつかない。それはひとつには地域に物流という、ひとつの括られた担当部署であるとか、そういうような政策というものがない。地域には港湾をどうするか、道路をどうするかというのはあったとしても、それを物流というふうに考えて、うまく国の政策と合致できるような部分というのがない。だから、地域物流マネジメント研究会では国の政策と地域の政策を一緒にした上で、地域独自の方向性を持った物流というものを明確に出していかなければいけない。そういう意味でこれからは多分、地方自治体と物流の関係というのが非常にはっきり出てくる。そういうことだろうと思います。
 そこで、次に生まれてくるのが、産業構造が、じゃあその中でどういうふうに変わってくるのか、ということであるわけです。産業構造の中で一番大きくこれから変わるだろうと思われるのは、もちろん流通構造でもあります。流通構造は今の商業統計表をみれば、ものすごい勢いで、大きく変わりつつあります。小売業では上位集中化がすすむ、そして全体の数は減っている。卸売業界では全体の数も、全体の売上も減っている。中抜き状態だといいますけれど、そういうふうに変わっています。
 それに対して、じゃあ、運輸業界はどうなのか。特に運輸の中で大きく変わりそうなのは、中小企業が中心の内航海運と陸運、トラックです。トラックなんか特に今、はっきりと明確に方向が出てきています。トラック輸送を例えば域間輸送と域内輸送に分ける。大量一括輸送と小口多品種輸送というふうに分けていきますと、域間の大量一括輸送というのは、現在急速に減少をしております。全体の中での割合が下がってきています。域間の小口少量輸送というのは横ばいである。域内の大量一括輸送も若干減るであろう。それに対して域内の小口少量輸送だけは急速に伸びている。これについて、もしこの中に運輸業界の方、特にトラック業界の方がいらっしゃったら、気がつかれると思いますが、運輸統計、運輸白書で国内の貨物流動量というのが毎年出ますよね。この頃、トンでみても、トンキロでみても、横ばいからわずか減少という方向が出ています。これは将来に伸ばしていきますと、貨物流動量は減るというふうに考えてしまうかもしれない。けれども、じゃあ、本当にそうかといいますと、違うのではないか。確かにトンとトンキロでみると、ほとんど増えないか、減っています。ところが、これを荷物の個数でみていくと、確実に増えていると考えて間違いない。そうしますと、1個、2個という単位で荷物を集めて混載している業者だけが、内容が良いのです。佐川急便であり、ヤマト運輸。それ以外があまりよくない。トラックの台数で、重量で商売しているところというのはもう、売上が増えないけれど、個建てで混載をやっているところというのは伸びる。しかも現在のような高速道路が非常な勢いで整備されて、交通条件が良くなってくると域内の範囲というのが広がってきます。多分、九州なんかはそうだと思います。もうすでに、北九州と福岡をひっくるめた所がどうも域内圏になりつつあるだろう。
 東京でいいますと、昔であれば23区内だけが域内であって、それから出ると今度は域間になったはずが、現在では大体100キロ圏までが域内に入ってきている。東京でいうならば、東京から100キロといったら宇都宮であるとか、前橋であるとか、熱海であるとか、山梨、甲府であるとかいう所です。








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