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21世紀初頭における物流戦略 3e物流の構築をめざして(要旨)
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神奈川大学経済学部教授
中田 信哉
その1
 神奈川大学の中田でございます。
 実は今、私の大学の大学院に、「うらはし」という男が修士の1年生におります。彼は北九州の出身ですが、大学では体育会の野球部におりまして、大学3年の時に私のゼミに入ってまいりました。先輩がゼミにおりましたので入ってきたのだろうと、私は見ていたのですが、途中で心境の変化が起こりまして大学院へ行くと言い始めました。非常におもしろい理由で、我々も期待をしたのですが何かといいますと、日本のスーパーマーケットの誕生、これ、流通革命のスタートだと思うのですが、第1号は何なのかという議論。日本のスーパーマーケットの第1号は、よくマスコミなんかでいわれるのは、青山にあります紀伊国屋であるという説があります、これは食料品店です。
 スーパーマーケットというのは、本質的にいいますとディスカウンターですので、ディスカウンターでないと、スーパーマーケットとはいえないだろう。紀伊国屋の場合はセルフサービスでカートをもって自分で買う形をとっていますから、形態的にはアメリカのスーパーマーケットと同じですが、ディスカウンターではないというところで、これは話としては面白いけれど、違うだろう。
 もうひとつの説は「主婦の店」というのがございます。これは昭和20年代の終わりから30年代に全国的に大発展いたしました。ダイエーの中内さんも主婦の店運動に入って、自分の店を「主婦の店、ダイエー」という形にされた。この主婦の店といわれるものがスーパーの最初である。
 ところが、実は「主婦の店運動」を主導した人がいるわけです。それが北九州にあります「丸和」というスーパーの創業者ですね。そういうようなことをいろいろ資料で読んで、勉強している内にその「うらはし」というのは自分のおじいさんが「丸和」の創業者だということに気がついたというわけです。気がついてこれは非常におもしろいテーマであるということで、大学院に行ってそれをもっと調べてみようと来まして、ウロウロしております。その研究成果については私も非常に興味をもって、期待をしているわけです。もしそれが正しいとしたら、日本の流通革命というのは北九州からおこっているわけですね。
 それからやはり、ディスカウンターなんかも、「カメラのドイ」等を含めまして、九州から生まれたそういう新しい革新型小売業というのは随分ある。商業における発祥というか、革新というのは九州からきているというところが非常に多いです。九州というのはやはり商業的にみていく必要もあるという気がいたしております。
 なぜこういう話をいたしましたかというと、物流というのはどうも昔から、例えば港湾がどうだとか、大量一括輸送がどうだとか、荷物としては重厚あるいは原材料、太宗貨物といいますけれども、バルク貨物というのが中心になって物流が語られるケースが多いわけです。今でもやはり、一般的に我々が考えている消費財、完成品というのはゼネラルカーゴ、雑貨というふうに処理されてしまうところがありまして、非常に不満を持っているのです。そういうような大きな荷物を大きな輸送機関で運ぶという物流を、一般的に頭に置いているのですが、現在の我が国の物流というのは非常に小さな商業貨物で成り立っているし、問題を起こしているとしたら、そういう所にあるということに我々は気がつかなければいけない。
 こういう事を考えていくと、やはり商業をどういうふうに見ていくのか、第三次産業がどういう形に動いているのかなということを、重点的に考えていく必要があるのではないかなと思っておりますので、流通問題からちょっとお話を申し上げたわけです。
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会場風景
 今日お話いたしますところの「3e物流」なんですが、こういう物流の用語は物流の辞書を見ても出ておりません。皆様のお手元にあります「21世紀初頭における物流政策の基本的方向について」がございます。これは昨年の11月に運輸省(現国土交通省)が出した運輸政策審議会の答申です。
これからの21世紀初頭、多分、10年位を念頭に、これからの物流はどうなるのだろうか、こういうような方向に行くべきだということをまとめた答申の要旨です。私は実は、この答申をまとめるときの小委員会の取りまとめ役をやっておりました。その答申の中に、何か目玉になるような言葉を入れようじゃないか、この答申が非常に特徴をもっているよということを、世の中にアピールするような何かキャッチフレーズを作りましょうという提案を致しましたところ、事務局がこの「3つのe」という言葉を出してこられました。「3つのeが重要でありますよ」ということをこの中に大きく取り上げたわけです。それを「3e物流」というふうに多分言っただろうと思います。ですから、「3e物流」という言葉があるというよりは、むしろ「3e物流」はこの答申を示す言葉であるというふうにお考えいただきたいと思います。
 で、ひとつこういう事が言えると思うのです。「3e」というのは「3つのe」ですから、先ほどご紹介がありましたように、効率と環境と情報と、この3つが重要である。あたりまえじゃないかと言われるかもしれませんが、この言葉の裏にはこういう意味がございます。今まで我々は、物流は経済的な面からシステムを組んできました。これはマクロでもそうですし、企業の場合もそうです。物流効率をどう考えるか、物流の能力をどう考えるか、物流の販売戦略、マーケティング戦略に対応する貢献度はどういう形で考えたらいいだろう。つまり経済的、経営的な意味で物流を考えてきたんですね。そして、そこから起こる新しい社会的な問題、例えば環境の問題であるとか、国際化の問題であるとか、都市交通の問題であるとか、労働力の問題であるとか、周りの環境問題に対して、経済的・経営的に考えた効率化物流というものをどう適合させていくのか、あるいはそういう環境条件の変化に対してどのようにこの物流システムは対応したらいいかというふうに考えてきたのです。
 ところが、この考え方はもう駄目だろうというのが背景にあります。というのは、システムが新しい環境にどう対応するかという考え方をしていたら、もうとても追いついていけないのです。これからの物流というのは、物流システムの中に重要な環境条件に関するものを最初から取り組んでしまってシステムを組んでいかなければいけない。かといって、いろんなものをたくさん取り組んでいくというのも実際難しい。じゃあ一体取り組むべき重要なテーマは何なのか。それが環境問題、もうひとつがITを中心にしました情報問題。これらの問題は最初からシステムの中に組み込んで、物流が出来上がっていかなきゃいけない。後から考えてどうこうする問題ではないのです。
 こういうような意味で「3e」というのは、もともとあった効率に対する物流の追求に、情報それから環境、これらを組み込んだ物流システムを考えていきましょうというのが、この新しい物流に対する我々の姿勢であろうということを強く打ち出したわけです。
 そこでそういうことを前提にした上で考えていただくと、まず我々の物流における環境問題を、どういうふうに認識するかというのが「はじめに」「I 我が国の経済社会の変化と物流」の中で書いてあります。ここで、それぞれについてご説明したいと思うんですが。それは小委員会の中でどういう議論が行われたのか、どういうふうな考え方をとっていって、ここまで話をまとめたのかということで、お話をしたいと思います。
 まず、「安定成長時代の中での経済のグローバル化の進展」というのがあります。経済のグローバル化というのは今非常に大変な問題ですよね。例えば、生鮮食料品のセーフガードの問題というような、非常に政策的に大きな国際問題になりうるようなことがあるかと思うと、国内ではユニクロが猛威を振るっている、ユニクロの価格破壊はすばらしい、ユニクロの商品というのはすべて中国で作られているということである。
 非常に国際的な意味での問題が大きいわけです。トイザラスという小売業が北九州市内にありますね。私は東京の町田というところに住んでいますが、私の家のすぐ近くにカルフールが巨大店舗を作りました。こういうふうに、外国の巨大な小売業が日本へ進出してきているというような問題もある。国際化というのは我々が今から考えていかなければならない大きな問題ですが、はたして物流の中で国際化というのはどういうふうな問題があるだろうか。これを背景に考えていきますと、どうも3つ問題がありそうな気がする。
 ひとつは何かというと産業立地、物流立地の問題。現在の多くの企業が持っているグローバルサプライチェーン、またはグローバルロジスティクス。グローバルなサプライチェーンを作った場合は生産拠点、物流拠点、それから市場というのが、ひとつの国の中で完成するのではなくて、生産拠点を外国に置きますよ、調達拠点も外国にあります、それの集約拠点もやはり外国にあります、市場は日本にありますという形の、グローバルネットワークを組んでいく。これが普通に行われているわけです。ですからハブ港がどうだ、ハブ空港がどうだという問題が起こってくる。
 どうも、こういうような問題を考えると、産業立地あるいは物流立地を、日本国内に限定して考えていくという考え方がもう使い物にならない、使えないではないかと、もっと世界的な規模で考えていく必要があると思います。
 3月に韓国へちょっと行ってきました。ちょうど行ったときに、「さよならキンポ(金浦)空港」というのをやっていました。ソウルにありますキンポ空港が、私たちが行った1週間後に、新しくインチョン(仁川)(昔のジンセン)に大型の国際空港を造って、そっちに移る。
 見ていて面白かったなと思ったのは、キンポ国際空港と言われているものがこれからは韓国の国内空港になるんですね。インチョンが国際空港になる。2つの空港の間は約60キロ位離れています。高速道路が1本あるだけです。へたをすると混んでいる時には2時間くらいかかるかなと思います。これはちょうど東京における羽田空港と成田空港とまったく同じことになってしまう。こんなことをやって意味があるのかどうかというふうに考える。日本の場合は国内航空輸送と国際航空輸送は結びつかなければいけないですね。そうでないと、ハブ空港にならない。ところがどうも韓国のインチョンの場合は、国内の貨物であるとか、国内の旅客をインチョンへ持ってきて、インチョンで国際的に動かすということよりは、日本の人が国際輸送で韓国のインチョンまで行って、インチョンからヨーロッパ、アメリカへ行くという形をとるのであれば、別にキンポ空港とインチョン空港がくっつく必要はない。そういう発想で、インチョン国際空港を考えているとしたら、それはやはりグローバルな視点から造っているというふうに考えていいと思います。それに対応する日本の成田と羽田の関係もグローバルな問題として考えていかなければならないという事がわかってくるはずですね。そういうことを比較しながら、我々は見ていたのです。
 その立地、産業立地、物流立地、交通立地、拠点立地ですね。そういうものが国際化の中で、世界的に再編成される時代になっていきます。今までのように国内を基本に置いた物流システムというのは、これで崩れてくるにちがいないというのが、ひとつです。








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