6. まとめ
(1) 播磨灘におけるダイオキシン類の水平分布
・播磨灘において実施した底質ダイオキシン類に関する本調査は、灘中央部における分布をはじめて把握し、沿岸に偏在していた既往調査を補完して、播磨灘全域のダイオキシン類の水平分布を明らかにすることができた。
・本調査結果及び既往調査結果による播磨灘のダイオキシン類の分布特性として、灘北部の沿岸域と灘の中央部において比較的高い値を示す傾向が見られた。この分布傾向は、PCB等他の物質についても同様であった。
・分布特性の要因としては、高砂市にあったPCB製造工場及び使用工場、陸域からの負荷源に近い灘北部と播磨灘中央部への時計回りの流れが要因として考えられた。
・本調査結果及び既往調査結果による播磨灘の表層泥のダイオキシン類は、表−6.1に示すとおりであった。本調査結果は、播磨灘における既往調査結果の濃度範囲と同程度であった。
表−6.1 ダイオキシン類(表層泥)に関する本調査と既往調査との比較
(単位:pg-TEQ/g-dry)
調査結果の種類 |
調査対象 |
ダイオキシン類 |
本調査 |
播磨灘 |
2.8〜9.0 |
既往調査※ |
H12 |
播磨灘 |
0.36〜20 |
H11 |
播磨灘 |
0.084〜13 |
H10 |
播磨灘 |
19 |
出典:
「平成12年度 ダイオキシン類に係る環境調査」環境省
「平成11年度 公共用水域等のダイオキシン類調査」環境省
「平成10年度 ダイオキシン類緊急全国一斉調査」環境省
・本調査結果による播磨灘における底質ダイオキシン類の知見は、灘中央部における分布をはじめて把握し、沿岸に偏在していた既往調査を補完して、播磨灘全域のダイオキシン類水平分布が明らかになった。
・播磨灘におけるダイオキシン類の分布特性は、灘北部の沿岸域と灘の中央部においてダイオキシン類濃度が比較的高くなる傾向がみられた。
・分布特性の要因としては、灘北部では負荷源に関わるものが、播磨灘中央部では時計回りの流れがそれぞれ要因として考えられた。
・本調査結果は、播磨灘におけるダイオキシン類の既往調査の値と同程度であった
(2) 播磨灘のダイオキシン類の鉛直分布と年代測定
・播磨灘における柱状泥のダイオキシン類の本調査結果は、表−6.2に示すとおりであった。
・沿岸域のSt.1、St.3、St.4、St.5(一宮町沖、相生市沖、邑久町沖、志度町沖)については、1層から3層または4層にかけて深くなるほどダイオキシン類が増加し、3層または4層から6層にかけて減少していた。
・ダイオキシン類における最大値を示す年代は、St.1、St.3、St.4、St.5(一宮町沖、相生市沖、邑久町沖、志度町沖)で1970年代〜1980年代であった。
・St.2(高砂市沖)では、ダイオキシン類の値としては低いものの、1997年に最大値を示した。
表−6.2ダイオキシン類(柱状泥)と年代測定に関する結果
(単位=上段:pg−TEQ/g−dry,下段:年)
分割層
(表層からの深さ) |
結果の種別 |
ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs) |
St.1 |
St.2 |
St.3 |
St.4 |
St.5 |
一宮町沖 |
高砂市沖 |
相生市沖 |
邑久町沖 |
志度町沖 |
1層
(0-2cm) |
ダイオキシン類 |
8.8 |
3.4* |
8.0 |
6.1 |
5.8 |
得られた年代 |
1999 |
1997* |
1999 |
1998 |
1998 |
2層
(8-10cm) |
ダイオキシン類 |
11 |
3.0 |
9.1 |
8.8* |
6.9* |
得られた年代 |
1990 |
1977 |
1994 |
1985* |
1981* |
3層
(18-20cm) |
ダイオキシン類 |
12* |
2.4 |
12* |
7.3 |
6.8 |
得られた年代 |
1977* |
1942 |
1985* |
1966 |
1964 |
4層
(28-30cm) |
ダイオキシン類 |
12 |
1.8 |
10 |
4.1 |
4.1 |
得られた年代 |
1962 |
1909 |
1976 |
1945 |
1942 |
5層
(38-40cm) |
ダイオキシン類 |
5.4 |
1.4 |
9.7 |
3.4 |
3.2 |
得られた年代 |
1946 |
- |
1967 |
1922 |
1920 |
6層
(48-50cm) |
ダイオキシン類 |
5.1 |
0.97 |
9.4 |
2.6 |
2.8 |
得られた年代 |
1929 |
- |
1959 |
1898 |
1898 |
注. *はダイオキシン類濃度がピークである層を示す。
・St.1、St.3、St.4、St.5(一宮町沖、相生市沖、邑久町沖、志度町沖)では、1970年代〜1980年代にピークがみられた。
・St.2(高砂市沖)では、ダイオキシン類の値としては低いものの、1997年に最大値を示した。
(3) ダイオキシン類の粒径別の挙動
・St.3(相生市沖)及びSt.7(西淡町沖)の表層泥において粒径別のダイオキシン類濃度を調査した結果を、表−6,3に示す。
・粒径が細かくなるに従い、含有しているダイオキシン類も多くなる傾向にあり、最も多く含有しているのはシルト・粘土分であった。
・昨年実施した東京湾の粒径別に含まれるダイオキシン類も同様の傾向にあった。
表−6.3 底質1g中の粒径別に含まれるダイオキシン類の量
(拡大画面: 54 KB)
注)※印は、砂、シルト・粘土分、粘土分の計算値として表示。
・播磨灘において実施した粒径別に含まれるダイオキシン類の量は、シルト・粘土分に最も多く含有していた。
・播磨灘で行った粒径別に含まれるダイオキシン類の結果は、昨年実施した東京湾の結果と同様であり、底泥のダイオキシン類は、粒径の小さな浮遊物に吸着していることが示唆された。
(4) 播磨灘のダイオキシン類における組成の特性
・ダイオキシン(PCDDs+PCDFs)の異性体プロファイルと主要な起源物質の代表的な異性体プロファイルとを比較することによって主要な起源の推定を行った。その結果を表−6.4に示す。
表−6.4 播磨灘のダイオキシン類における組成の特性のまとめ
鉛直別 |
ダイオキシン類 |
主要な起源 |
該当する地域・調査地点 |
表層 |
PCDDs+PCDFs |
農薬(PCP) |
・播磨灘東部(St.1を除く)
St.2、St.6、St.7、St.8 |
農薬
(PCP+CNP) |
・播磨灘西部
St.3、St.4、St.5、St.9、St.10
・播磨灘東部
St.1 |
焼却(2,3,4,7,8-PeCDFを指標と仮定し、用いた) |
・全ての地点で焼却由来の因子が含まれていた。
・以下の地点での比率が高かった。
St.2、St.5、St.6、St.7、St.8、St.9、St.10 |
Co-PCBs |
PCB製品 |
・全地点
毒性等量に占める割合 : 5〜10%
PCB製品としては、KC300、KC400又はその混合物が主要な起源として推定 |
1970〜1980年代 |
PCDDs+PCDFs |
農薬(PCP) |
・播磨灘東部
St.1(3層)
・播磨灘北部
St.2(2層)、St.3(3層) |
農薬
(PCP+CNP) |
・播磨灘西部
St.4(2層)、St.5(2層) |
焼却(2,3,4,7,8-PeCDFを指標と仮定し、用いた) |
・全ての地点で焼却由来の因子が含まれていた。
・以下の地点での比率が高かった。
St.1、St.2 |
Co-PCBs |
PCB製品 |
・全地点
毒性等量に占める割合 : 5〜10%
PCB製品としては、KC300、KC400又はその混合物が主要な起源として推定 |
・播磨灘におけるダイオキシン類の主要な起源を存在量で推定したところ、農薬(PCP)、農薬(CNP)が主要な起源と推定された。
・農薬(PCP)は、播磨灘北部から東部(St.1を除く)に多く、農薬(PCP)+農薬(CNP)は播磨灘西部において、多い傾向が見られた。
・同様に播磨灘におけるダイオキシン類の主要な起源を毒性等量で推定したところ、焼却由来の地点が示唆された。
・PCBについては、毒性等量で見ると全体の5〜10%を占めていた。その起源としては、PCB製品のKC300及びKC400又はその混合物であると考えられた。