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7. 総括及び今後の課題
・本調査のダイオキシン類の分析は、「検出下限値の確認」、「二重測定による精度管理」、によって精度よく測定が行われた。
・本調査の鉛210法を用いた年代測定は、精度よく行われ堆積年代の特定ができた。
1) 総括
・本調査による播磨灘の表層のダイオキシン類は、灘全域のダイオキシン類水平分布が明らかになった。
・本調査による播磨灘の鉛直のダイオキシン類は、表層よりも底泥中に高い濃度のダイオキシン類が堆積していることが判明した。鉛直方向のピーク時の年代は、St.1、St.3、St.4、St.5(一宮町沖、相生市沖、邑久町沖、志度町沖)で1970〜1980年代であり、St.2(高砂市沖)では1990年代であった。
・ダイオキシン類の粒径別の挙動は、粒径が細かくなるに従い、含有しているダイオキシン類も多くなる傾向にあり、最も多く含有しているのはシルト・粘土分であった。
2) 播磨灘と東京湾の比較
・水平分布の特性としては、東京湾では湾奥部が高く、播磨灘では灘北部の沿岸域と灘の中央部で比較的高い値を示した。
・本調査による両水域の濃度を比較すると、東京湾が高い値を示した。しかし、1930年代以前では同等の値となった。
・鉛直方向のダイオキシン類の最大値を示す年代は、東京湾では1960年代から1980年代、播磨灘が1970年代から1980年代であった。両水域において、ダイオキシン類の値は低いものの表層が最大値を示す地点が湾口、流れの速い地点で見られた。
・鉛直方向のダイオキシン類の最小値を示す年代は、東京湾、播磨灘ともに1930年代以前であった。
・主要な起源としては、東京湾、播磨灘ともに農薬が挙げられた。
・粒径別のダイオキシン類の特性としては、東京湾、播磨灘ともにシルト・粘土分に多く吸着されていた。
表−7.1 播磨灘と東京湾の比較
  播磨灘 東京湾
水平分布の特性 沿岸域と灘の中央部において比較的高い値を示す。 湾奥部において高い値を示す。
表層ダイオキシン類濃度(本調査) 2.8〜9.0pg-TEQ/g-dry 3.2〜52pg-TEQ/g-dry
鉛直方向の最大値を示す年代とダイオキシン類濃度 ・St.2(高砂市沖)を除く沿岸域で1970〜1980年代(ダイオキシン類濃度 : 6.9〜12pg-TEQ/g-dry)
・St.2(高砂市沖)は表層(ダイオキシン類濃度 : 3.4pg-TEQ/g-dry)
・湾奥部は1960〜1980年代(ダイオキシン類濃度:55〜110pg-TEQ/g-dry)
・湾口部(St.4,5)は表層(ダイオキシン類濃度:15pg-TEQ/g-dry)
鉛直方向の最小値を示
す年代
1930年代以前で5.1pg-TEQ/g-dry以下 1930年代以前で6.5pg-TEQ/g-dry以下
主要な起源 ・全地点で農薬
・他に焼却由来が示唆された。
・湾奥部は農薬
・湾口部は大気・降下ばいじん
粒径別の特性 75μm以下のシルト・粘土分に多く吸着されていた。 75μm以下のシルト・粘土分に多く吸着されていた。
3) 今後の課題
・生態系の食物連鎖で考えた場合、底質中にダイオキシン類が大量に含まれていても、生物(底生生物、底魚等)に取り込まれなければ、ダイオキシン類の挙動は、一般的には問題が少ないと考えられている。人間を含めた生物圏の関係を検討するためには、生物と底質との関係を調査する必要が認められた。
・ダイオキシン類に係る水質の環境基準は、1pg-TEQ/Lと定められている。底泥が、波浪、浚渫等工事、底引き網等で巻き上げられた場合、水質の環境基準を守れなくなる恐れがある。このため、水質及び底質の環境を保全するためには、水質・底質間のダイオキシン類の挙動に関わる検討が課題として認められた。
引用文献等
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3.「平成11年度公共用水域等のダイオキシン類調査」(環境省)
4.「平成10年度ダイオキシン類緊急全国一斉調査」(環境省)
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6.「HEDORO」(底質浄化協会、1998.1 NO.71)
7.平成八年度瀬戸内海環境管理基本調査(底質重金属解析編)(社団法人瀬戸内海環境保全協会)
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9.Shigeki Masunagaら,Organohalogen compounds,Vol.41,1999
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13.益永ら,環境化学会発表,
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15.佐藤博,資源環境対策,Vol.37,No.2,2001
16.益永ら,横浜国大環境研紀要,Vol.24.1998
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