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資料1.砂浜環境調査マニュアル(素案)
砂浜海岸環境調査マニュアル(案)目次
 ■このマニュアルの目的
 ■マニュアルの利用対象者
 ■このマニュアルの視点
 ■マニュアルの構成
 ■主なマニュアルの項目
 ●砂浜の気象
 ●砂浜の地形
 ●河川・水路
 ●人工構造物
 ●砂浜の底質
 ●漂着物
 ●植生
 ●動物相
 ●利用
 ■調査票
 ■参考文献ほか
砂浜環境調査マニュアルの策定
■このマニュアルの目的
 「砂浜環境調査マニュアル(案)」は、地元の各種市民団体、地元小中学校・高校などが実際に砂浜海岸の自然環境やアメニティー性を簡便に調査するためのガイドブック(マニュアル)として作成することを目的としています。
■マニュアルの利用対象者
 砂浜海岸を調査する団体は小学校低学年から専門家を含む任意団体全てを対象としていますが、調査者の動植物の同定能力あるいは観察能力レベルは、概ね「一般市民」から「大学生(専門学部)」を想定しています。
 レベルの差は、「動植物の同定能力」によって規定されるものだと考えていますが、それぞれのレベルでの表現方法で記載していただければ結構です。例えば以下のようなものです。
 
同定能力のあまりない団体
 「水生指標生物による水質判定」等で用いられている「(指標生物)チャート」を作成し、分類群(目または科レベル)によって砂浜に生息・生育する動植物を判定する。
 例えば:サギ類、カモメ類、紅藻類、ハマトビムシ類などと表現
 
同定能力の比較的高い団体
 鳥類や哺乳類、両生類・爬虫類などについては、現地で種の判定を行い、砂中に生息する小動物などについては、現場より採取(定量・任意)した検体を持ち帰り、顕微鏡を用いて種までの同定を想定するものである。
 例えば:コサギ、セグロカモメ、イギス、ヒメハマトビムシなどと具体的な種名で表現。
■このマニュアルの視点
 まず始めに、干潟については埋立地問題などからその役割(水質浄化や生物の生産性など)や豊かな生態系については一般に知られていますが、砂浜海岸の状態についてはほとんど知られていないのが現状であることから「砂浜のもっている役割・機能、自然環境の保全と言う視点からみた砂浜海岸の重要性」について、地形学的、生物学的な視点からその概要を観察し記録します。
■マニュアルの構成
 マニュアルは[1]「砂浜の地理・地形][2]「砂浜の底質・構成」[3]「砂浜の生物資源」[4]「砂浜の利用」の4項目を大分類として構成することとしました。
 とくに[3]の「砂浜の生物資源」については、本マニュアルの構成および自然環境の保全に関して中心的な事項となるため、現地調査・観察の前に十分な情報の収集および整理を行う必要があります。最低限の生物情報をどのような場所、書籍・資料で閲覧するか、その手法を記述し、結果の表現方法(フォーム)を示すこととしました。
【砂浜海岸における各種情報の収集及び整理】
 既往の生物情報を収集する必要があります。国や県からの情報については可能な限りマニュアルに貼付するものとします。とくに環境省(レッドリスト・絶滅のおそれのある野生動植物)・水産庁(日本の希少な野生水生生物の関するデータブック)などの選定種についてはそのカテゴリーと共に生息情報を記載することとしました。
 さらに市町村などの自治体の生息情報については、所管部署、収集項目を記し、記載方法のフォームを貼付するようにします。
●おもな国の情報
 ・環境省 自然環境保全基礎調査 植生調査
 特定植物群楽調査
 植物目録
 動物分布調査(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・昆虫類・淡水魚
 類一周縁魚類)
 海岸調査
 干潟・藻場・サンゴ礁調査
 海域環境調査
 海域生物調査
 など
日本の絶滅のある野生生物 レッドデータブック(レッドリスト)
 ・農林水産省 各海区水産研究所報
 ・建設省
■主なマニュアルの項目
●砂浜の気象
 砂浜の気候は生物の生息条件として非常に重要な環境因子です。各気象台や水産試験場などの経年的なデータを用いて記載します。
波の状況については、個別の砂浜海岸についての情報がない可能性があるので、地域住民や市民団体などからのヒアリング、地形的な特性などから判断し、記載することを基本とします。
●砂浜の地形
 生物の生息環境、「器」としての砂浜の状況を把握する必要があります。とくに「砂浜の位置」によって、生息する動植物の概略の構成種が連想され、更に水質の汚染度、底質の状況なども推測することができます。「砂浜の位置」「方位」「長さ」に関しては1/25,000地形図を用い計測し、現地踏査によって確認します。「傾斜・勾配」「幅」に関しては現地でメジャー、簡易レベル、ポールなどを用いて簡易計測ができるように図示しました。
●河川・水路
 河川の有無によって、砂浜に生息する動植物相は大きく異なります。また河川水の水質も砂浜環境に大きく影響します。よって、砂浜海岸に流入している河川の状況を地形図上で調べ、現地踏査によってその規模(川幅や概略の水深)や水質を目視により観察します。水質は臭い、水色、透視度など外観を見ます。
●人工構造物
 人工構造物の有無には砂浜海岸に対して三つの影響を及ぼす。ひとつには離岸堤などによって波の営力、砂浜の形成・形状に影響を及ぼし、生息する動植物相を規定します。二つ目は防波堤などによって砂浜の背後の植生環境に及ぼす影響です。
 三つ目は視界に入る構造物の量、すなわち風景上の影響です。これらは砂浜の生物資源・自然環境に大きく影響するものであることから、構造物の規模や配置、砂浜に占める割合などを調査観察することとしました。なお、構造物の種類や形状については専門的な知識もいることから、現状の施設の設置状況から構造物の種類・形状を抽出し、「絵チャート」にして示しています。
●砂浜の底質
 砂浜の底質(粒径)は生息する動植物の生息環境として重要な要素です。とくに砂礫質海岸とシルト分、泥分を含んだ海岸では大きく異なります。粒径に関しては、通常ふるいわけによって粒径加積曲線と言うグラフを作成して、構成される底質の状況を表現しますが、一般には費用が掛かりまたその結果の表現にも専門的な知識が必要です。
 さらに、底質の有機汚染の状況などを図る目安としてはCOD、強熱(灼熱)減量あるいは酸化還元電位などがあげられますが、いずれの項目も高価な計器を用いるか室内分析によって得られるデータです。
 生物の生息環境としては、生息基盤となる粒径がどの程度のものなのか。泥分が多くかつ有機汚染(腐食臭)が進んでいるか。また還元状態(硫黄臭)で無酸素に近く、生物の生息に適していない状態か否かを把握することがまず必要な要件となります。
 そこで、底質の粒径や形については目視によって判断できる「粒径チャート」(東海大学制作)で簡易的に判断することとしました。また、色とにおいによって底質の状況(有機分が多いか、汚染が進んでいるかどうかなど)を観察することとしました。
 このほか、底質中の温度も生物の生息環境として重要で、さらに有機汚染を増進する要因にもなることから、市販の温度計で計測することとしました。
●漂着物
 漂着物は周辺海域あるいは、波浪、海流の影響などを視覚的に誰でも知ることができる重要な要素です。そこで、漂着物の種類、量を詳しく調査・観察することとしました。
 とくに海草藻類、甲殻類、巻き貝類、二枚貝類などの漂着物は重要な生息情報になります。動植物の漂着物はサンプリングし標本として保存する方法も示すことにしました。
 このほか、船舶などから流出した油は廃油ボールなどとなり砂浜海岸に漂着し、砂浜の生物の生息環境を悪化させるばかりではなく、景観・アメニティー性、人の健康にも大きく影響を及ぼします。そこで、廃油の漂着状況についても質や量を記録することとしました。
 このほか、海流によって他地域から漂流したもの(ビンやビニール・プラスチック製品など)のリストも作成して、海流の影響についても記録することとしました。
●植生
 植生は砂浜に生息する鳥類や哺乳類、爬虫類、昆虫類にとって、ねぐら、隠れ家、繁殖空間など、生息、環境として重要な役割を持っています。さらに背後林は飛砂や海水飛沫を抑止し、砂中に生息する小動物の生息環境にも影響します。
 一方、陸からの飛砂は、浅海に形成された藻場の存在にも影響を及ぼすこともあります(襟裳岬などの例)。そこで、砂浜の背後林(植生)の有無及びその規模、構成する樹種の状況について調査・観察します。
 このほか、砂浜に形成される草本類を中心としたパッチ状の植物群落、植物種についても観察し、分布域とともに図中に記録することにしました。
 浅海に形成された藻場、海草藻類群落は鳥類、海産哺乳類のエサ場として重要な役割を持っています。分布状況、規模を陸上からの目視観察、あるいは漂着物などから判断して記録します。必要によっては引き縄を投げ採取するなどの手法も検討中です。
●動物相
 陸上の動物(哺乳類・鳥類など)については、双眼鏡などを使った目視観察、フンや足跡、食痕など「フィールドサイン」の確認によって生息状況を確認します。
 哺乳類の足跡については、「足跡チャート」等を作成して表記する方法を検討中です(一部貼付)です。昆虫類については種類が多く、一般の観察者には判別が不明な種が数多くあると思われます。一方、昆虫類の種構成が砂浜海岸の環境を特徴づける場面は少ないものと予測されます。そこで、このマニュアルでは、環境の指標となるような種のみを抽出することを検討中です。
 潮間帯に生息する動物については、砂浜海岸の場合、コドラート(方形枠)を用いた定量的な採取方法と、無作為に砂を採取し、ふるいにかける定性(任意)的な採取方法があります。定量的な手法により生産量、現存量の推定を行うかどうかは今後検討することにします。
 また、採取した個体の分析に関しては冒頭でも記したように、専門家を含む団体には種の同定・検索までを、小中学生には「科」あるいは「属」レベルでの分類にするように考えていますが、「科」「属」をどのように表現するか、あるいはどのような分類群を「仲間」とするかについては現在検討中です。
 浅海の魚類については、釣りや投網などによる調査も考えられますが、基本的には地元住民や漁業協同組合、釣り人からのヒアリング、あるいは観光地引き網などが実施されている浜では捕獲物の情報提供などにより判断することにしました。
●利用
 これまで示した動植物の生息状況のほかに、砂浜海岸での利用の状況についても調査・観察します。
 砂浜の利用には動植物との関連が強く、生物の多様性が砂浜利用を満足させるものと、砂浜をオープンスペース、オープンウォーターなどスポーツ・レクリェーションフィールドとして利用するものに分類されます。
 前者は釣りやバードウォッチング、植物観察のほか漁獲・漁労などが含まれます。このため、豊かな自然環境によって支えられる利用です。一方後者は、アメニティー性の面からは重要な利用空間とはなりますが、生物資源の保全の観点からは避けるべき利用方法となります。
 この様な観点から、砂浜の自然環境の保全、生活利用、アメニティー性との関連など様々な砂浜環境を考える材料として重要な要素となるものを引きだし、記録するようにしました。








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