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結びにかえて……「大人」たちの責任
 さて、本日の最大のテーマは、「スポーツ好きの子どもを増やす」「そのための諸策とは」ということだったと思います。
 考えるに、やはり子ども時代に、どんなかたちでスポーツと出会うのか、というのがスポーツ好きになるか、ならないかの分岐点ではないかと思います。年齢・体力・技術レベルに合ったプログラムが整っているか、あるいは、夢とロマンを語り続けてくれる良き指導者が揃っているか、といった要素が重要なのです。そして、「励まし」という要素も重要です。大八木さんや、パネリストの方のお話を聞いていて、やはりスポーツ好きの子どもを増やすには、周囲にいる「大人」ではないかという気がしてきました。
 環境づくりの具体策に関しても、多くのアイデアやヒントをいただきました。一つは、シーズン制スポーツの導入。もう一つはリーグ制の導入です。
 そして、サポート体制の確立というのも、中塚さん、倉俣さんのお話から感じた点です。専門職やトレーナーによる指導の機会を持つ、ひるがえって言えばそういう「大人」たちを多く輩出しなければならないということです。さらにいえば、スポーツによる国際交流を子どもの頃から実施していくということ。そのためには、ジュニアの英会話教育も必要でしょう。ここでも「大人」の役割は重要です。
 もう一つ、異年齢・異文化とのスポーツ交流。これはみなさんのお話には出なかったのですが、たとえば神戸などでは、中華同文学院とかカナディアンスクール、朝鮮人学校などがあります。普段からスポーツを通して交流していくと、友人同士としてのつながりが生まれてきます。そういう機会を子どもたちに少しでも多くつくってあげたい。そして、指導者としての「大人」は、もっと柔軟な発想を持つということ。子どもたちの声に耳を傾けるという姿勢が、われわれ大人には必要かと思います。
 さて、最後の締めくくりとして、お一人ずつコメントをいただきたいと思います。まず、大八木さんからお願いします。
大八木 私自身も含めて、大人たち一人ひとりが自信を持って、一人ひとりの子どもたちに接することです。すなわち、語りかけるというのが大事やと思います。たとえ、それが結果として間違っていても、子どもらとおんなじ目線で現在を見て、ちょっと違う大人の目線で将来を見たアドバイスやったら、その子の将来に関して、決してマイナスにはならんやろうと思います。難しく考えれば難しくなるのですが、野球をやりたい子がある指導者と出会ったという、その出会いのタイミングというか、美しさのほうが、その子の長い人生にとったら素晴らしい出会いに変わっていくと思います。どうかみなさん、自信を持って子どもたちの指導にあたってください。心から祈念しておりますので、よろしくお願いします。
山口 木村さんからも、ひと言。
木村 私も学生時代、実はスピードスケートをやっておりまして、大八木さんと一緒で、続けられたというのは指導者のおかげだったのです。やはり、大人たちが、子どものスポーツ環境を整えるという意味では、非常に大きな役割を担っているのではないかと思います。あらためて昔を思い出しまして、指導者の重要性を再認識したしだいです。
山口 ありがとうございました。それでは倉俣さんお願いします。
倉俣 本当は4つあるのですが、一言ということでひとつ。今日は行政の方がたくさん来られているので、お願いしたいことがあります。それは私たちが一番苦労している点が、練習場所の確保なのです。小学生でありながら高校のグラウンドを借りています。

 実は、教育委員会に行くと、「小学校、中学校のグラウンド、体育館は全部学校開放しています。胸張って、学校へ行って借りてください」と言われます。しかし実際に行くと、門前払い。「うちではやっていません」、「うちではもう、既存の団体が入っています」。私の立場を説明しない場合、ものすごくつっけんどんなのです。ただ、いったん「高崎キッズ」の説明をすると、ネームバリューが多少ありますので、手のひらを返したようにスムーズに事が運ばれていきます。今後は、シーズン制という素晴らしいスキームがありますので、行政の方の今後の理解、実際の行動が不可欠かと感じています。というより、請願です(笑)。
山口 中塚さんからも一言。
中塚 今回のメインテーマである「子どものスポーツライフを考える」ということから、私は、やはり大人がきちんと意識を変えて、いい仕組みを用意してあげなければという思いに駆られます。ただ、理念だけ振りかざしても仕方がなくて、これまでの習慣を変えていくという決意が必要です。そのための仕組み作りなのです。もちろん1人ではできないので、その理念とか志に賛同してくれる仲間を集めていく。ただし、面白がらないとダメです(笑)。これからのスポーツ環境をつくる。大人たちが率先して、それを楽しまないと継続する活力は生まれません。自分自身、やっていてそう思います。
山口 心にしみるコメントをいただきました。私は、実はビール党で、特にスポーツをした後のビールが大好きなのです。今飲んでいるのがアサヒのスーパードライなのですが、それには理由があります。アサヒビールの社長だった樋口広太郎さんの本を読んで、スーパードライ好きになったのです。アサヒビールは、かつてシェア・ワーストワン、一番最下位だったのです。そのテコ入れに樋口さんがメインバンクから派遣されてきた。
 その当時のアサヒビールの社内では、若手の社員が「こんなビールをつくったらどうか」と提案すると、「そんなの売れっこない」、「そんなものは前例がない」と言われて却下されていました。スーパードライは度数4.5%を5%にするという、前例のないことをやって大ヒットしました。この英断を下したのが樋口さんだったのです。現在、アサヒビールはシェア・ナンバーワンになっています。以来、アサヒビールでは、「前例がないからやってみる」というのが、一つの尺度になったといいます。
 子どものスポーツに関しても、いろいろな問題状況があります。それらを打破するには、とにかく大人が何かをやってみよう、できるものから仕組みを変えてみよう、つまり、前例がなくても自分を信じてやってみる。もし失敗したらまたチャレンジすればいい、というくらいの発想が求められているということです。私たちの親の世代は、そうやって高度成長時代を実現しました。今度は私たちが、未来を担う子どもたちに、豊かなスポーツライフを贈ろうではありませんか。みなさんの奮闘に期待します。









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