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第1章 海南市の地域特性と若者定着の動向
 ここでは、既存の統計資料分析及び行政担当者などへのインタビュー調査などをもとに、本市の地域特性(広域的な位置関係及び土地利用の状況、経済状況など)を明らかにする。また、国勢調査結果及び既定の関連調査・計画などから、本市の若者定着の動向及び若者定着施策の実施状況を把握し、その傾向や特徴の整理を行う。
 
1 海南市の地域特性
 広域的な位置関係及び土地利用の状況、経済状況について既存の統計資料分析及び行政担当者などへのインタビュー調査などを行い、本市の地域特性を明らかにした。
(1) 広域的位置
 海南市(以下「本市」という)は、和歌山県の北西部に位置し、県都和歌山市に北接する。市内にはJR紀勢本線の駅が3つ(「黒江」、「海南」、「冷水浦」)と、阪和高速道路のICが2つ(「海南」、「海南東」)あり、関西国際空港へは約30分、大阪都市圏へは約1時間で結ばれるなど、公共交通機関の利便性は非常に高いといえ、世界に開かれた国際都市として大きな発展の可能性を有している。
 また、本市は、熊野古道や高野街道の要衝の地として栄えた歴史をもち、多くの歴史的文化的資源にも恵まれていることから、近年の歴史観光ブームやウォーキングブームなどの健康志向の高まりを背景に、来訪者は年々増加している状況にある。
 さらに、本市及びその周辺には、年間約200万人の集客力を誇る国際的都市近郊型海洋リゾート基地「和歌山マリーナシティ」をはじめ、ゴルフ場、牧場、海、山、川など、さまざまなレクリエーション資源があり、関西都市圏から日帰りで楽しめる“一日観光・交流の受け皿”としても大きな可能性を秘めている。
 
図表1-1 本市の位置と交通アクセス
(拡大画面: 95 KB)
 
(2) 土地利用状況
 本市では、これまで市街化を優先的・計画的に促進すべき市街化区域と、市街化を抑制すべき市街化調整区域とに区域区分(いわゆる線引き;昭和46(1971)年に都市計画決定)を行い、それぞれの利用目的に応じた土地利用を計画的に進めてきた。
 西部では、商業・サービス業などの都市機能が集積するJR海南駅周辺地域を中心に市街地が広がっており、多くの歴史・史跡などが残る熊野古道や紀州漆器の生産地として有名な黒江地区などの風情ある歴史街道地域、電力・鉄鋼・石油などの基幹産業が立地する臨海工業地域などが形成されている。
 中央部では、先端技術産業や研究機関などが集積する海南インテリジェントパーク、重根土地区画整理地域(現在事業実施中)や北赤坂台などの優良な宅地地域、わんぱく公園や亀池遊園などのレクリエーション施設などが立地し、また、東部・山間部地域では、緑豊かな自然や田園風景が多く残されている。
 このように、地域ごとに多様な顔を有する本市であるが、少子高齢化の進行や近年の厳しい経済状況などによる社会情勢の変化の中、若い世代を中心に相対的に地価の安い近隣の周辺町村への人口流出が続き、とくに中心市街地では、大規模小売店舗の撤退や工場跡地、JR海南駅前の臨時駐車場用地の未利用地のほか、空き地や空き家、空き店舗などが目立ち始めており、都市の空洞化が深刻化している。
 しかし一方では、宅地開発事業者などへのインタビューによると、利便性の高いJR海南駅周辺地域での土地購入に対する潜在的需要は高く、大手開発事業者や周辺地域からの引き合いも多い。
 このことから、それぞれの地域の特性を活かしながら、道路整備や低・未利用地の有効活用、再開発、線引きの見直しなども含め、さまざまなニーズに応じた宅地の供給を図るなど、効果的な土地利用を推進していく必要がある。
 
図表1-2 地目別土地利用面積 (単位:ha)
  総数 宅地 山林 原野 雑種地 その他
平成
11年
44,654 7,281
(16.3)
4,348
(9.7)
7,079
(15.9)
19,985
(44.8)
742
(1.7)
5,219
(11.7)
平成
12年
44,664 7,203
(16.1)
4,317
(9.7)
7,140
(16.0)
19,996
(44.8)
745
(1.7)
5,263
(11.8)
平成
13年
44,666 7,158
(16.0)
4,305
(9.6)
7,181
(16.1)
20,002
(44.8)
730
(1.6)
5,290
(11.8)
資料:海南市固定資産税概要調査
(3) 経済状況
ア 産業構造
 平成7(1995)年と平成12(2000)年に行われた国勢調査の結果(図表1-3)をもとに、本市における産業構成比率をみると、第1次産業4.0%(県平均10.6%)、第2次産業33.2%(同26.4%)、第3次産業62.9%(同62.1%)となっており、第2次産業(とくに製造業)の占める割合が県平均と比べ、相対的に大きくなっているのが本市の特徴といえる。
 これは、本市が臨海工業地域に立地する電力・鉄鋼・石油などの重厚長大型基幹産業や、漆器・日用家庭用品・木製品・縫製などの地場産業に代表される“工業都市”であることを示している。
 一方、就業者数の推移をみると、市全体では7.0%減少している(県全体マイナス4.3%)。その内訳を詳しくみると、一般に雇用吸収力が大きいといわれる第3次産業では、前回調査に比べて2.8%と若干増加しているものの、本市の製造業や農林業においては、それぞれ20%を超える減少率となるなど大幅に減少しており、本市を取り巻く経済状況は非常に厳しいものであることがうかがえる。
 
図表1-3 海南市の産業別就業人口 (単位:人、%)
産業区分 海南市 和歌山県
平成7年 平成12年 増減率(%) 平成7年 平成12年 増減率(%)
就業者数 構成比(%) 就業者数 構成比(%) 就業者数 構成比(%) 就業者数 構成比(%)
総数 22,523 100.0 20,950 100.0 △ 7.0 521,584 100.0 499,157 100.0 △ 4.3
第1次産業 計 1,078 4.8 833 4.0 △ 22.7 60,823 11.7 52,712 10.6 △ 13.3
  農業 1,042 4.6 799 3.8 △ 23.3 53,426 10.2 47,043 9.4 △ 11.9
林業 5 0.0 3 0.0 △ 40.0 2,078 0.4 1,393 0.3 △ 33.0
漁業 31 0.1 31 0.1 0.0 5,319 1.0 4,276 0.9 △ 19.6
第2次産業 計 8,603 38.2 6,947 33.2 △ 19.2 146,920 28.2 132,006 26.4 △ 10.2
  鉱業 0 0.0 2 0.0 137 0.0 175 0.0 27.7
建設業 2,091 9.3 1,844 8.8 △ 11.8 50,642 9.7 48,940 9.8 △ 3.4
製造業 6,512 28.9 5,101 24.3 △ 21.7 96,141 18.4 82,891 16.6 △ 13.8
第3次産業 計 12,808 56.9 13,081 62.4 2.1 310,469 59.5 310,576 62.2 0.0
  電気・ガス・熱供給・水道業 137 0.6 152 0.7 10.9 3,982 0.8 3,964 0.8 △ 0.5
運輸・通信業 1,082 4.8 1,089 5.2 0.6 30,000 5.8 28,534 5.7 △ 4.9
卸売・小売・飲食店 4,627 20.5 4,983 23.8 7.7 111,016 21.3 108,689 21.8 △ 2.1
金融・保険業 692 3.1 543 2.6 △ 21.5 15,324 2.9 12,551 2.5 △ 18.1
不動産業 108 0.5 124 0.6 14.8 3,753 0.7 3,636 0.7 △ 3.1
サービス業 5,332 23.7 5,420 25.9 1.7 125,910 24.1 132,016 26.4 4.8
公務 830 3.7 770 3.7 △ 7.2 20,484 3.9 21,186 4.2 3.4
分類不能の産業 34 0.2 89 0.4 161.8 3,372 0.6 3,863 0.8 14.6
資料:総務省統計局「国勢調査」(平成7・12年)
イ 工 業
 「ア 産業構造」(11頁)のところでみたとおり、本市において工業は、“リーディング産業”ともいえる存在であるが、年々、事業所数、従業者数ともに減少傾向にあり、製造品出荷額などにおいても平成10(1998)年の1,902億円をピークに減少に転じている(図表1-4)。臨海部に立地する電力・鉄鋼・石油などの重厚長大型基幹産業は、長引く景気の低迷や国内産業のソフト化など、産業構造の転換などの影響を受け、年々、事業規模は縮小傾向にあり、雇用の受け皿にはなり得なくなってきている。
 また、室町時代が起源とされる紀州漆器(黒江塗、昭和53(1978)年に国の伝統的工芸品に指定)やこの漆器から派生した木工家具などの木製品、全国で圧倒的なシェアを占める日用家庭用品など、独創的で歴史的・文化的価値も高いとの評価を受けている、本市の地場産業界においても、その取り巻く経済状況は、非常に厳しいものがあり、各業界とも従業者数は減少傾向にある(図表1-5)。
 とくに、日用家庭用品業界では、製造品出荷額等が平成9(1997)年のピーク時には400億円を超すなどの勢いがあったものの、近年、漆器と同様に中国などからの安価な輸入品の影響などを受け、従業者数、製造品出荷額等ともに減少傾向にある(図表1-5)。
 以上、みてきたとおり、これまで臨海工業地帯の重厚長大型基幹産業と伝統ある地場産業を中心に、“工業都市”として発展してきた本市の産業構造は、大きな転換期を迎えていることを示している。
 
図表1-4 工業の推移
資料:海南市「統計かいなん2000−工業統計調査」(各年12月31日現在)より作成
 
図表:1-5 主要な地場産業の従業者数、製造品出荷額などの推移 (単位:人、万円)
  漆器 日用家庭用品 木製品 縫  製
従業者数 製造品出荷額等 従業者数 製造品出荷額等 従業者数 製造品出荷額等 従業者数 製造品出荷額等
平成6年 481 492,718 1,552 3,564,460 276 406,562 355 254,315
平成7年 474 467,699 1,514 3,406,058 273 369,820 354 267,428
平成8年 406 394,382 1,620 3,974,417 261 331,615 287 239,973
平成9年 408 424,035 1,562 4,006,449 275 426,442 240 187,905
平成10年 394 397,281 1,614 3,840,259 202 340,368 195 136,831
平成11年 360 337,447 1,346 3,672,156 202 357,235 134 99,669
平成12年 347 350,719 1,413 3,762,798 176 323,640 133 110,455
資料:海南市「統計かいなん2000−工業統計調査」(各年12月31日現在)
 
ウ 商 業
 昭和60(1985)年からの商業統計調査(図表1-6)をみると、本市における商店数及び従業者数は、年々減少傾向を示しているが、一方では販売金額は増加しており、小売店舗の大規模化が進んでいる様子がうかがえる。
 また、市民(若者層)へのインタビュー調査結果(第2章)によれば、「買物の多くを海南市内ではなく、車で便利な近隣他市町の大規模小売店舗などで済ますパターンがほとんど」という声が多く聴かれ、本市中心市街地が住民の生活行動圏の拡大や消費ニーズ・志向の多様化などに、まだ十分に対応しきれていない状況にあることがうかがえる。
 さらに、平成13年2月には、これまでの本市における中心市街地の中核的役割を担ってきた大規模小売店舗が撤退し、これに伴う集客力の低下により新たな閉店も目立ち始めてきており、いまのところ、撤退による影響は統計的な数値としては表れていないものの、撤退による中心市街地のさらなる空洞化、ひいてはまち全体の活力の低下が最も懸念されている。
 このような状況をふまえ、海南商工会議所では、平成12年度に海南市商業タウン・マネージメント計画の策定を行い、また、本市においても、平成13年度事業として中心市街地活性化基本計画の策定に取り組むなど、消費者ニーズに対応した活力ある新しい商店街づくりに向けて取組を進めている。
図表:1-6 商業の商店数、従業者数、年間販売額の推移
  商店数 (件) 従業者数 (人) 販売金額 (百万円)
昭和60年 平成3年 平成9年 昭和60年 平成3年 平成9年 昭和60年 平成3年 平成9年
小売業 981
(100)
956
(97)
823
(84)
3,075
(100)
3,026
(98)
2,971
(97)
34,646
(100)
44,174
(128)
45,065
(130)
注) ( )内数値は昭和60年数値を100とした指数
資料:海南市「統計かいなん2000−商業統計調査」(各年6月1日現在)
 
エ 農林水産業
 本市の農家数は、昭和60年の1,879戸から平成7年の1,379戸へと減少傾向が続いており、後継者不足が深刻な問題となっている。また、農家一戸当たり生産農業所得も、県全体の175万6千円と比べて79万7千円と少なく、高齢化対策及び生産性向上・規模拡大などによる農家経営の安定、耕作放棄地の有効活用、観光農業の導入などが大きな課題となっている。
 このような状況の中、本市の温暖な気候を活かし、山間部の傾斜地を中心に栽培されている果樹は、みかん・柿・桃・梅・びわ・キウィなど種類が多く、品質も市場から高い評価を受けており、本市の農業粗生産額の半数以上(54.1%平成7年)を占めている(図表1-7)。
 水産業は、冷水浦地区のシラス、ワカメなどが中心であるが、直売所の設置や釣り筏、刺網、底引網体験など、観光化に向けた取組についての検討を行っていく必要がある。
 
図表1-7: 農業人口、粗生産額、生産農業所得の推移
  総農家
数(戸)
部門別農業粗生産額(百万円) 農家一戸当たり生産
農業所得 (千円)
合計 果実 野菜 花卉 畜産 その他 海南市 県全体
昭和
60年
1,879 2,587
(100)
639
(24.7)
1,235
(47.7)
264
(10.2)
16
(1.0)
221
(8.5)
212
(8.2)
506 859
平成
02年
1,598 2,477
(100)
505
(20.4)
1,307
(52.8)
335
(13.5)
62
(2.5)
125
(5.0)
143
(5.8)
700 1,436
平成
07年
1,379 2,192
(100)
552
(25.1)
1,187
(54.1)
226
(10.3)
62
(2.8)
89
(4.1)
76
(3.6)
797 1,756
注) ( )内数値は構成比率
資料:海南市 「海南市の農業−農林業センサス」(平成9年11月)
 
オ 雇用状況
 海南・海草地域(本市及び海草郡3町)における有効求人倍率の推移をみると、平成6年度から平成10年度までは、ほぼ全国及び県平均よりも高い水準であったが、平成12年度においては、当地域の水準(0.48)が全国(0.62)、県(0.49)より下回っている。
 これは、本市の産業構造が長引く不況や経済のソフト化などの影響を受け、非常に厳しい雇用状況となっていることを示している。
 
図表1-8 有効求人倍率の推移
注1) 海南・海草地域:海南市および海草郡(野上町、美里町、下津町)の1市3町の平均値
注2) 学卒を除き、パートタイムを含む
資料: 海南公共職業安定所








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