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3. 研究の内容
3.1 全体システム
(1) PDCAサイクルの検討
(a) 新しい船陸の役割分担の提案
<業務計画全般の策定>
 陸上にてサービスの達成目標を立てる。
 業務計画全般を策定し、これに従って船上・陸上でこれを実施する。
 陸上で策定される業務計画は、COMPANY‘SSTANDARDとなる。
 フリート全体としての均質性を得ることができる。
<モニタリング>
 陸上にて業務計画全般の履行状況を確認する。
 船上の業務計画の履行状況についてモニタリングする。
 各管理船を現場状況のセンサーとし、数百隻からのサンプリングを集約する。
 各管理船が遭遇する航行環境を類推することが可能となる。
 集約したデータでもって、与えた業務計画の妥当性を検証する。
 輸送品質の目標達成に向けて陸上は船上に積極的に働きかけを行う。
<実績分析確認>
 目標の達成状況を確認する。
 目標が達成されない場合、業務計画が履行されない場合について、その時の状況を陸上にて再現し、検証する。
 問題点を特定して、手当てを実施する。
 目標の評価方法の不備、実績確認方法の不備などが存在することも考慮する。
(b) 現SMS業務との比較
 FSSは、PLANとして数値的な品質目標と業務計画、実績評価の方法の規定を求め、DO(陸上、船上それぞれでの業務計画の実施)のCHECKとPLAN自身の見直し(ACT)を行うものとしている。
 FSSは、現SMS業務に対して、より確実な品質管理のフレームワークを提供するものと考える。
 表3.1に現SMS業務とFSSにて提案する船陸の役割分担との比較を示す。
表3.1(1) 現SMS業務とFSSにて提案する船陸の役割分担
  現SMS業務 FSSでの業務分類
  陸上 船上 陸上 船上
SMS管理 SMS運用管理
SMS改善活動
SMS文書管理
認証機関審査・監査対応
陸上員の教育
SMSの実行
乗組員周知・徹底
文書管理









プランニング手順
運航モニタ手順
実績確認・分析手順
 
船員管理 船員配乗管理
船員教育管理
船員労務管理
船員派遣契約管理
船員評価管理
乗組員管理
教育・訓練
   
技術管理 技術データの収集・分析
技術資料の作成・通知
技術データ、資料の管理
技術的問題の原因解明
技術的問題の対策策定
技術データの提出
技術提案
+実績確認・分析
(航海系・機関系)
 
保全管理 保全整備方針の策定
工事・部品の発注手配
入渠手配、入渠工事仕様決定
造船所、メーカ窓口
技術情報の収集・分析・周知
法律等の収集・分析・周知
保全整備計画立案
保全整備の実施
保全整備技術の管理
保全記録の作成・報告
注文書の作成・提出
受領品の確認・報告
外注工事の確認・報告
受検書類の作成・管理
機関保全指針、
機関信頼性目標の設定

 
表3.1(2)現SMS業務の分類とFMSが前提とする業務分類
  現SMS業務 FSSでの業務分類
  陸上 船上 陸上 船上
運航管理 管理船対応窓口
船用品等発注手配
技術情報の収集・分析・周知
法律等の収集・分析・周知
書類・刊行物等の送付
乗組員の監督・指導・評価
航海計画の策定
甲板部航海当直の実施
機関部航海当直の実施
入出港業務の実施
停泊当直の実施
守錨当直の実施
日誌の作成・管理
重要機器の操作運転
FO、LO、水の品質管理
保安業務の実施
荷役当直の実施
荷役日誌の作成・管理
環境保護業務の実施
作業安全管理業務
船内衛生管理業務





パッセージプランプランニング

機関運転指針の設定
















運航モニタリング、
パッセージプラン検証、修正
内部監査 内部監査の実施
監査記録の管理
不具合・不適合の是正勧告
     
緊急対応 海難対応・処理総指揮
損傷対応の手配、技術支援
船員乗下船手配、家族連絡




保険内容の確認
操練の実施
緊急対応

火災監視
(2) 情報処理技術・通信技術の調査
 分散処理技術としてCORBA、 DCOMを調査した。
 情報伝達様式としてXMLを調査した。
 衛星通信技術の現状を調査した。
 WG2ならびにWG3は運航管理業務(航海系)の現状問題点に着目して、新しいPDCAサイクルの検討を進めた。そこでWG1として、前段にて検討した新しい船陸間の役割分担を反映させ、かつ、WG2とWG3との連携を図る共通のパッセージプラン運用スタイルを提案し、もって組織的な船舶運航管理の例を示すこととした。
パッセージプランの構成要素
[1] Navigation Schedule
[2] ワッチレベル(※)の切替え計画
[3] 航行補助情報
[4] 各種安全基準値(※※)
表3.2 パッセージプラン運用と船陸で求められる機能
パッセージプランの運用 陸上 船上
策定 標準コースの管理
海図情報の管理
各安全基準(※)の管理
気象海象情報の入手・管理
航行補助情報の管理
コース修正・設定
航行補助情報の設定
ワッチレベルの設定
パッセージプランの検証
パッセージプランの通知
パッセージプランの受領・管理
各監視システムへの配信
航海
モニタリング
現況データの取得
パッセージプランの検証・修正
修正パッセージプランの通知
安全基準を用いた監視
現況データの通知
修正パッセージプランの受領
実績確認 実績データの取得
実績データの解析
実績データの通知
 ※
 ワッチレベル
 船橋における人員のフォーメーションで、航行環境の厳しさに応じて人員の数と役割分担を予め定めたものである。ここではある船社を例に三段階のレベルを想定した。
<ワッチレベル1>
 航行環境が緩やかで、必要最小限の航海当直の能力で対処する場合。
<ワッチレベル2>
 ワッチレベル1より厳しい航行環境にあり、船長による操船判断が求められる場合。
<ワッチレベル3>
 ワッチレベル2より厳しい航行環境にあり、船長、当直航海士の他、増員航海士の支援が求められる場合。
 ※※
 安全基準値は、船舶が当該航海時に遵守すべき状態を表す値である。
 安全基準は運航管理会社の品質目標に基づいて定められる。
<位置針路速力保全基準>
 計画されたルートを計画された時間で航行することを確認するための基準であり、コースラインからの横偏位量、目標WPのETAに対する遅延量で規定される。
<輻輳状況判断基準>
 自船周囲の船舶交通の混み具合を判断するための基準であり、将来的に接近することが予想される他船の隻数で規定される。
<衝突危険判定基準>
 他船との衝突の危険性を判断するための基準であり、他船の航過距離を基に規定される。
<自然環境監視基準>
 自船周囲の自然環境を監視するための基準であり、視程、波浪、風に各々の限界値で以って規定される。
<耐航性基準>
 船体の耐航性が阻害されないことを監視するための基準であり、ここでは船体縦強度に基づく縦揺れ量の限界値で以って規定される。
図3.1に本研究におけるシステムハード構成を示す。
 
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図3.1 本研究におけるシステム構成
  パッセージプランの運用スタイルは以下の通りである。
[1] 陸上の運航管理システム(FMS)から「航海計画管理システム」に送信される。
[2] 「航海計画管理システム」は「航行保全システム−1」、「航行保全システム−2」および「耐航性監視システム」に新規パッセージプランの通知を出し、各システムは、「航海計画管理システム」から新規パッセージプランを受領する。
[3] 航行保全システム−1」、「航行保全システム−2」および「耐航性監視システム」はパッセージプランの内、所掌の安全基準を参照して監視業務を実施する。
[4] 監視にあたる各システムから、「航海実績管理システム」に監視結果が送信される。「航海実績管理システム」は、監視結果を集計するとともに、陸上のFMSに実績データとして送信する。
  これらのパッセージプラン運用を分散処理技術CORBAを用いるいて実現した。
(4) 陸上システム構築
 
  図3.2にパッセージプラン運用に関わる陸上システムの構成を示す。
 
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図3.2 パッセージプラン運用に関わる陸上システムの構成
  図3.3にFMSプランニング時の画面例を示す。
 
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図3.3 プランニング時の画面例
  この例では水深値、標準コースライン、水路情報が表示されている。
(5) 評価試験の実施
 
実施場所: 東京商船大学 第一実験棟221号室
実施日時: 平成13年12月21日
参加者: 第240部会部会長以下部会委員、各WG委員、事務局
試験内容: 全体システム(WG1)、航海関係システム(WG2)および船体関係システム(WG3)にて各々開発したシステムについて、ネットワーク接続し、航海計画(パッセージプラン)を中核にした運用デモンストレーションを実施した。
  運航実務経験を持つ参加委員を中心にコメント・評価を得た。
  機関関係システム(WG4)については、開発システムの機能紹介があった。
  船装関係システム(WG5)については、開発したシステム単体でのデモンストレーションが行われた。
 
 試験は全体システムによるパッセージプランの運用を基調とし、航海関係システム、船体関係システムにて開発したシステムの試験は、その一部として実施された。図3.4に全体システムの試験シナリオの流れを示す。
 
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図3.4 評価シナリオのステージ
  試験結果の概要を以下に示す。
[1] プランニング策定作業の効率化
複数の管理船のパッセージプランを策定する際に非効率になりやすい。
システム側でのある程度自動的な処理が望まれる。
作業支援の方策としてコンピュータエージェントの利用が考えられる。
[2] 天気図データの入手
天気図もコースライン重畳表示させたい。
表示に必要なデータ(天気図描画データ)だけを提供してもらう方法を期待したい。
[3] ETA計算時の考慮事項
実運用時には、各船ごとに実績データから波高・減速量の対応関係を継続的に見直ししてゆく機能が必要である。
ETA試算と併せて、燃料消費量の推定ができる機能の追加が必要である。
[4] モニタリング機能について
海潮流データの入手
日本周辺の海潮流データは数値データでの配信を期待したい。
[5] パッセージプラン検証の自動化
陸上において複数船の耐航性評価を自動的に行う機能が必要である。
[6] 実績分析確認時の監視ロジックの検証
管理船に搭載している各監視機能と同じ機能を用いて、状況を確認する。
プログラムの改造を伴わずに監視機能の切替えが可能となるよう、監視機能と表示・操作機能を切り分ける設計が必要である。
[7] 実績確認の分散処理
陸上での実績確認分析の手法が確立すれば、これに準じて各船にて前処理を行うことで通信費を抑えることができる。








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