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3.2.4 上甲板温度計測および腐食モニタリング結果
 実船の上甲板の温度およびCOT内の温度計測結果の一例を図8に示す。本図は、日本から中近東にバラスト状態で出航し、原油を満載後、再び日本に帰港するまでの計測結果である。上甲板の最低温度は5〜25℃、最高温度は35〜60℃であり、昼夜間での温度差が大きいことが分った。このことは、上甲板裏面で、COT内上部の空隙に存在する気体が鋼材表面で結露する可能性を示唆している。
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図8 上甲板鋼板温度計測結果
 実船(D/H)の上甲板に取り付けた腐食モニタリング装置でも、甲板の温度は大幅に変化するが鋼材表面は完全に乾燥することなくウェットな状態にあり、腐食速度は温度の上昇と共に増加することが明らかとなった。その装置を用いた計測結果を図9に示す。
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図9 上甲板での腐食モニタリング装置による計測結果
3.2.5 実験室実験による確証
 タンク内のガス組成分析結果を基に試験の標準ガス成分を5%O2−0.01%SO2−13%CO2と設定し、更に、原油から放出されるH2Sをこれに加えて実験室試験を行なった。H2S濃度を変化させた場合の腐食速度への影響を図10に示す。
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図10 腐食に与えるH2Sの影響(A,B,C,Dは試験機関を示す)
 H2Sの存在は、いずれの実験でも腐食を増大させ、1000ppmを超えると腐食速度が大幅に増加する傾向がある。また、H2Sは錆を触媒として、O2との反応で単体Sを生じることが、実験室実験でも確認された。
 実験室実験ではTMCP鋼とMSの間に腐食形態、腐食速度等の差異は認められず、上甲板裏面での腐食に両者の差は無いと結論付けられた。また、歪や錆剥離の影響を調査した結果、0.05%までの歪であれば影響はほとんど無いこと、また、腐食生成物の剥離については、腐食生成物に腐食に対する保護性が無いので、剥離現象が腐食速度に大きな影響を及ぼすことはないことを確認した。
3.2.6 上甲板の腐食発生メカニズム
 COT内の上甲板裏面の腐食に関する各種要因をまとめて図11に示す。また上甲板裏面で生じる腐食反応および剥離現象のメカニズムの模式図を図12に示す。
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図11 上甲板裏面の腐食発生の各種要因図
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図12 上甲板裏面の腐食反応(含む単体Sの析出-錆剥離機構)
 H2S、H2O、CO2やH2O、O2、CO2の共存状態は一般的に見られるが、COT内は、H2S、H2O、O2、CO2が共存するという自然界では存在し難い非常に厳しい環境下にある。この環境は従来からCOT内では存在していたが、腐食化学分野では今回の研究で見出された新事象である。また、昼夜の温度差によって、COT内の上部に滞留するガス成分が上甲板裏面で結露現象を引き起こし、常にウェットな状態となっている。
 このようなH2SとO2が共存するガス環境条件下では、酸化鉄表面の触媒作用により鉄表面上に固体Sが析出するため、単体Sと鉄錆が層状に配列する腐食生成物を形成する。この固体Sの析出反応は鉄の腐食とは無関係であり、腐食生成物の量は腐食速度と関係しない。また、単体Sの層でこの腐食生成物は剥離、離脱を繰り返すが、この剥離現象が腐食速度の加速要因とはならない。
 腐食速度に関して、鋼材(MS,TMCP鋼)の種類および船型(S/H,D/H)の差は影響を及ぼさないことが、実船計測、室内実験、過去の計測データ等によって確認された。言換えると、TMCP鋼で建造されたD/Hの腐食速度は、MSによるS/Hタンカーと同一の腐食速度であるといえる。








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