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(4) 個々の海難について(図6.2.3)
1) 船体構造・エンジン・漁労設備・救命設備に関する不安:
プレジャーボートは20%程度は不安を感じているが、練習船(学校)と並んで不安感の率は他の船舶より小さい。商船が最大で、半数が不安を感じている。具体的な内容は次の通りである。
a) 商船・客船では、新造船のタンクの亀裂や新型主機の初期故障、さらに、ライフボートや救命消化設備の検定品に対する不安や不具合が指摘されている。
b) 漁船・プレジャーボートでは、船体やエンジンの老朽化、整備不良などによるエンジン不調、転落などの海難時に適切な対処方がないことなどが指摘されている。
2) 海難防止・海難時の対策訓練
練習船は100%訓練を受けているが、客船・商船では70〜90%、プレジャーポートは60%、漁船は最も少なく、約1/3が訓練を受けていない。
a) プレジャーボートと漁船に対する訓練・講習会などの強化が必要である。
b) 企業組織の客船・商船でも訓練を受けていない割合は10〜30%もあり、これが実体であれば、法的な取り組みが必要である。
3) 救命胴衣などの着用(漁船・プレジャーボート・練習船)
練習船は全て臨機応変で、漁船とプレジャーボートは、常時着用している者と着用していない者がそれぞれ20%程度以下である。常時着用を徹底する必要がある。
4) 無理をしない操業
練習船、客船、商船は100%が無理をしないと回答しているが、漁船とプレジャーボートでは約10%が「あまり注意していない」と回答している。漁船とプレジャーボートに海難が多い原因を示唆していると思われる。
5) 気象海象情報入手と運航への利用
「無理な操業をしない」と同様の傾向で、漁船とプレジャーボートでは20〜10%が「経験と勘」で運航している。
6) 船体構造・エンジン・漁労設備・救命設備の手入れ
練習船、客船、商船は、定期検査或いはそれ以上のことをしているが、漁船とプレジャーボートは約1/3が気づいたときのみ手入れをしており、安全対策意識の欠如が窺える。
7) 見張り(プレジャーボート)
常時つけているが60%で、半数近くは見張りのない状態がある。
図6.2.3 アンケート集計結果:操業時の海難防止対策について
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6.2.3 記述回答の分析
 記述回答は次の6項目ある。
1) 設問(1)5): 海難防止に必要な研究は何か
2) 設問(2)2): 海難の主要な原因は何か(「その他」の場合、具体的に記入)
3) 設問(2)3): 海難防止のための独自の工夫
4) 設問(2)4): 海難防止の決め手は何か(「その他」の場合、具体的に記入)
5) 設問(2)5): 海難防止に関するコメントや意見
6) 設問(3)1): 船体構造や主機、漁労設備や救命設備への不安の原因は何か
 設問(3)1)の回答は、前節(4)1)に記した。
 その他の項目の設問は相互に異なるが、異なった設問に対して回答者は同じような回答をしており、即ち、回答者が強調したいことが述べられていると理解できる。従って、船種ごとに記述回答を集計し、海難防止に対する要望がどのような範囲にあるか検討する。
 各記述の( )数値は、回答数を示す。
 
(1) 漁船
1) 啓蒙(救命胴衣の着用励行、見張りなど)(8)
2) 漁業者の求める救命胴衣の開発(2)
3) 転落時の対応策(自動救難信号発信、船にあがる足場)(2)
4) 航法の徹底(操業中漁船に対する大型船の避航義務、プレジャーボート規制)(2)
5) 整備・点検強化(1)
6) その他(2)
 
(2) プレジャーボート
1) 啓蒙・講習会開催(技術や意識の向上)(25)
2) 海象情報の周知と各人の注意による無理な出航回避(15)
3) 点検整備の励行(14)
4) 危険水域・暗礁の表示と海域設定(7)
5) 免許制度の改善(6)
6) 航行安全のチェツク・パトロール(3)
7) 海域管理(海域設定、漁業との共存、定置網目印)(3)
8) その他(6)
 
(3) 学校
1) 教育(8)
2) ハード(船舶の諸設備)とソフト(陸上支援)の整備と安全管理システム(3)
3) その他(2)
 
(4) 商船
1) 教育(人的ミス防止)(14)
2) 運航管理(水先案内、陸上との連絡、ブリッジ管理)(7)
3) 基準などの強化(船体強度、機関信頼性、航法遵守)(4)
4) 国策(船員の地位、適正運賃、人材確保)(3)
5) 船舶整備の強化(2)
6) その他(3)
 
(5) 客船
1) 教育(情報解析力、研修、ミーティング)(11)
2) 国策(船員確保、安全への資金投入)(4)
3) 運航管理(見張り、海象チェック)(2)
4) 海難審判の改善(責任の明確化とそれに基づく対策)(1)
5) その他(4)
 
 以上の回答分析から次のような結論が得られる。
1) 海難防止に必要な6大項目は次の通りである。
a) 啓蒙・教育・講習会開催
b) 運航の管理
c) 点検整備の強化
d) 海域管理
e) 国策(基準、人材、運賃)
f) プレジャーボートの免許制度改善
2) 研究開発が望まれている分野は次のとおりである。
a) 漁業者に使いやすい救命胴衣
b) 信頼性の高い通信装置及び機関
3) 研究成果を活用するためには、漁船とプレジャーボートの運航に携わる人々に、成果の説明をする必要がある。








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