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7. まとめ
 平成12年度と13年度の2ヵ年に渡り、海難事故と海難防止研究を調査するとともに、実際に船を運航している組織に依頼して、海難と海難防止研究に関するアンケート調査を行った。その主要な結果は以下のとおりである。
(1) 海難事故
 海難事故(要救助船舶隻数)はこの25年(1975→99年)の間に概ね2/3に減少した(図7.1.1)。また、35年程度の期間を通しても、乗り揚げ、機関故障、浸水、舵故障、行方不明などは海難数が1/2〜1/3に減少した(図7.1.1、図7.1.2)。この改善は船体や機関の安全性の向上と通信機能の向上によるものと推察される。
 このように減少したものがある反面、衝突、転覆、推進器故障、その他などほとんど一定か或いは増加したものもある(図7.1.1、図7.1.2)。減少していない理由は、主にプレジザーボートの見張り不十分などの運航の過誤と設備の整備不良によるものと推察される。
 洞爺丸海難のような旅客船の海水侵入による事故はその後発生していない。原因究明と適切な対策がとられた成果と認められる船種がある反面、積み荷過剰による漁船の海難は時期を経て繰り返されている。積み荷制限に関する指針の現場への徹底、操業時の復原性を考慮する基準の追加が必要である。
図7.1.1 海難事故(要救助船舶隻数)の推移
 
図7.1.2 海難事故の改善状況
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(2) 海難事故の原因究明
 大きな海難事故では、適切な事故原因究明と早急な対策実施が必要であるが、国、船級協会、建造者、運航者、海員組合、第三者機関など立場の異なる関係者が概ね納得する原因究明が行われた場合とそうでない場合がある。適切な原因究明が行われた例を参考として、これを担保する制度を構築する必要がある。
(3) 海難防止研究(図7.1.3)
 日本造船研究協会は、研究開発型の調査研究(SR)と基準対応の調査研究(RR)の2種類の調査研究をしてきた。SRの成果は主として基礎研究データ或いは設計資料としてまとめられ、企業などに利用されてきた。RRの成果は規則の制定などに利用されてきた。
 日本海難防止協会は、海難を予防する立場から調査研究を行い、設計資料やルールの制定資料を作成してきた。
 日本小型船舶検査機構は、プレジャーボートなど小型船舶の海難に対処するために、基礎的な研究とルール制定のための資料作成を行ってきた。その成果は規則に反映され、或いは公式な意見書としてまとめられている。
図7.1.3 研究の背景・目的・成果の利用
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(4) アンケート調査(表7.1.1)
 合計246の組織にアンケートを依頼し、ほぼ6割の回答を得た。その主要な結論は次のとおりである。
1) 海難防止に必要な6大項目は次のとおりである。
a) 啓蒙・教育・講習会開催
b) 運航の管理
c) 点検整備の強化
d) 海域管理
e) 国策(基準、人材、運賃)
f) プレジャーボートの免許制度改善
2) 研究開発が望まれている分野は次のとおりである。
a) 漁業者に使いやすい救命胴衣
b) 信頼性の高い通信装置及び機関
3) 研究成果を活用するためには、漁船とプレジャーボートの運航に携わる人々に、成果の説明をする必要がある。
表7.1.1 アンケート結果と結論
アンケートの主要結果
設問 回答 回答率 分析
1) 海難事故防止研究成果が公表されていることを知っているか 知っている 漁船30%、プレジャーボート50% 周知の重要性
2) 海難事故防止研究成果は海難防止に役立っていると思うか 役立っている 漁船40%、プレジャーボート50% (同上)
3) 海難の危険性の経験 感じた 全船種90% 海難防止の重要性
4) 海難の主原因は何か   (全船種)操船ミス50%、複合原因50% 実休(運航の過誤56%)を適切に認識
5) 海難防止の決め手は何か   (全船種)船員の教育80%、船主経営努力40%、国の経営支援30%、基準強化30% 教育の重要性、国策の重要性
6) 海難防止の訓練を受けたことがあるか ある 漁船35%、プレジャーボート60%、商船70% 訓練の制度化
7) 救命胴衣を着用しているか いる 漁船60%、プレジャーボート60% 教育の重要性
8) 船体・設備の整備を十分しているか している プレジャーボート35%、漁船40% 教育の重要性
9) 見張りを常時つけているか つけている プレジャーボート60% 教育の重要性
アンケートの結論
1) 海難防止に必要な6大項目
  a) 啓蒙・教育・講習会開催
  b) 運行の管理
  c) 点検整備の強化
  d) 海域管理
  e) 国策(基準、人材、運賃)
  f) プレジャーボートの免許制度改善
2) 研究開発が望まれている分野
  a) 漁業者に使いやすい救命胴衣
  b) 信頼性の高い通信装置及び機関
3) 研究成果の活用
  漁船とプレジャーボートの運航に携わる人々への成果説明
(5) 結論
1) この25年程度の間に、海難がかなり減少している船種・海難種類・原因がある反面、ほとんど変わらない或いは増加しているタイプもある。
2) 改善すべき重要なポイントをキーワードで示せば、プレジャーボート、整備、見張り、油断、船員の資質、経済状況である。
3) そのための対策は、教育、基準と制度の改善、国の安全確保の政策である。
4) 海難防止研究のうち、強度・復原性・安全性など設計やルールに反映しやすいハード面の研究調査成果は、船舶の建造を通じて海難の減少に寄与してきたものと推察されるが、操船技術、運航管理、漁労、レジャーなどソフト面の調査研究成果は、忘れられやすいため、海難防止に寄与する機会が失われているようである。
特に、漁業とレジャーの現場では、研究成果を知り評価している割合は1/3〜1/2程度であり、成果普及と啓蒙には、インターネットによる成果の公開、免許更新時の啓蒙、訓練等への国や関連財団などの助成、漁船の操業時復原性規則の追加など改善の余地は多い。
5) 海難事故は異なる立場の人や機関に関係するため、事故原因究明では統一した見解が得られるうな制度を構築する必要がある。








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