日本財団 図書館


2 海難調査の主体
 海難調査がUSCGの業務のごく一部に過ぎないことは、上述の通りである。しかしながら、いうまでもなく海難は、USCGが調査対象としている法規違反、違法行為、過失及び無資格との関連を持つ場合が多い。USCGの海難調査は、歴史的な経緯でこれらを取り込んできている。そこで、初めに同調査がUSCGに取り入れられた経緯を少々詳しく述べてUSCGの海難調査体制の理解を深めることにしたい。そのうえで、USCG組織に関係する多くの法令及び組織機構のなかから海難調査に関わるものを選んで説明し、海難調査の主体の理解を得ることにする。
(1)海難調査関係略史
 1934年9月8日にニュージャジー沖で発生した米国ワードライン・モロキャッスル(Morro Castle)(11,520総トン)の火災において、旅客・乗組員562人中134人が死亡した。火災発生の前日に船長の死亡があり、代理船長の1等航海士が刑事裁判で過失により懲役2年の有罪を宣告されたが、火災発生の原因が解明されなかったとして上告審で破棄された。火災原因は不明となっている(乗組員の1人の放火らしいという。)。
 この事故に関連して第77連邦議会は、商務省が海難調査委員会を設置すること及びそれに関する規則を定めることとした法律を制定し、これによって、1936年5月27日に商務省所管の航行汽船検査局(U.S. Bureau of Navigation & Steamboat Inspection)(1932年新設「I 序説」参照)が海事検査航行局に改革されるとともに同局に重大事故調査のための海難調査委員会(Marine Casualty Investigation Board)が創設された。海難調査委員会は、委員長を司法省の関係官等並びに委員を海事検査航行局職員及びUSCG士官とし、商務省が重大海難と区分する海難を調査するものとした。この時点でUSCGの海難調査への関与が開始したといえる。なお、非重大海難は同局職員が調査すると規定された。
 USCGは、1942年3月1日に海事検査航行局を臨時併合し、1946年7月16日には正式に併合した。こうしてUSCGは、海事検査機関として海難調査を行なう主体となったのである。
 
(2)海難調査関係法規
 海難調査関係法規は、広範囲な職務権限を規定するUSCG関係法令のなかの調査関係法規の一部であるが、調査業務の対象事項に広く関わっているので、できるだけ網羅的に示すことにする。
[1] 合衆国法典第14巻−沿岸警備隊
 この法律は、USCGの基本法で、「沿岸警備隊法」というべき法律であって「U.S.C. Title 14-Coast Guard」と表示されており、次の2か編からなる。
第I 編 常備沿岸警備隊(Part I-Regular Coast Guard)
第II編 沿岸警備隊予備役及び協力隊(Part II-Coast Guard Reserve and Auxiliary)
 
 海難調査に関係があるといえるのは、第I編(第1,3,5,7,9,11,13,15及び19の章からなる。)のうちの第1章から第7章までの4か章であり、その表題は次の通りである。
 第1章 設立及び任務(Chapter1-Establishment and Duties)
 第3章 構成及び組織(Chapter3-Composition and Organization)
 第5章 機能及び権限(Chapter5-Functions and Powers)
 第7章 他官庁との協力(Chapter7-Cooperation with Other Agencies)
第II編は、海難調査には無関係である。
 
[2] 合衆国法典第46巻−海事
 この法律は、「U.S.C. Title 46-Shipping」と表示される。その「Subtitle II-Vessels and Seamen」(Subtitle Iは削除されている。)は、10か編に分かれ、A編総則(Part A-General provisions)、D編海難(Part D-Marine Casualties)及びE編商船船員免許証、証明書及び文書(Part E-Merchant Seaman Licenses, Certificates, and Documents)が海難調査に関係する。
 A編は2箇章(第21章及び第23章)、D編も2か章(第61章及び第63章)及びE編は4か章(第71章、第73章、第75章及び第77章)からなっている。各章の表題は次の通りである。
 第21章 総則(Chapter 21-General)
 第23章 船舶運用一般(Chapter 23-Operation of vessels generally)
 第61章 海難報告(Chapter 61-Reporting marine casualties)
 第63章 海難調査(Chapter 63-Investigating marine casualties)
 第71章 登録免許証及び証明書(Chapter 71-Licenses and certificates of registry)
 第73章 商船員の文書(Chapter 73-Merchant mariners' documents)
 第75章 免許証、証明書及び文書の交付に関する一般手続
 (Chapter 75-General procedures for licensing, certification, and documentation)
 第77章 停止及び取消(Chapter 77-Suspension and revocation)
 第21章は、15か条からなり、最初の条項(第2101条)は、Subtitle IIに関係する用語をアルファベット順に定義している。
 第63章は、海難調査に関する基本法であり、次の規定からなっている。
 第6301条 海難の調査(Sec.6301 Investigation of marine Casualties)
 第6302条 公開調査(Sec.6302 Public investigation)
 第6303条 当事者の権利(Sec.6303 Rights of parties in interest)
 第6304条 罰則付召喚令状発給官庁(Sec.6304 Subpena authority)
 第6305条 調査報告書(Sec.6305 Reports of investigations)
 第6306条 罰則(Sec.6306 Penalty)
 第6307条 議会への通知(Sec.6307 Notifications to Congress)
 第77章は、海難調査には直接は無関係であるが、調査から判明することの多い法規違反、違法行為、過失及び無資格の事実に関連して免許証、証明書又は文書を停止又は取消するための行政訴訟手続に関して基本的権限を示す次の規定をしている。
 第7701条 総則(Sec.7701 General)
 第7702条 行政手続(Sec.7702 Administrative procedure)
 第7703条 停止又は取消の基準(Sec.7703 Bases for suspension or revocation)
 第7704条 取消理由となる危険薬物(Sec.7704 Dangerous drugs as grounds for revocation)
 第7705条 罰則付召喚令状及び宣誓(Sec.7705 Subpoenas and oaths)
 
[3] 連邦規則集第46巻−海事 第1章 運輸省 沿岸警備隊
 「沿岸警備隊規則」というべきこの規則は、「C.F.R. Title 46-Shipping Chapter 1-Coast Guard, Department of Transportation」と表示され、次の4か節からなっている。
 A節 公共適用手続(Subchapter A-Procedures Applicable to the Public)
 B節 船舶士官及び部員(Subchapter B-Merchant Marine Officers and Seamen)
 C節 非検査船舶(Subchapter C-Uninspected Vessels)
 D節 タンク船(Subchapter D-Tank Vessels)
 この中で直接海難調査に関係するのは、第9款まであるA節の次の3つの款である。
 第1款 組織、一般系統及び安全機能管理方法(Part 1-Organization, General Course and Methods Governing Safety Functions)
 第4款 海難及び調査(Part 4-Marine Casualties and Investigation)
 第5款 海事調査規則−人的訴訟(Part 5-Marine Investigation Regulations-Personal Action)
 なお、参照条文の表示は、例えば「合衆国法典第46巻−海事 D編 海難 第6302条 公開調査」を「(46 U.S.C. 6302)」、「連邦規則集第46巻−海事 第1章 運輸省 沿岸警備隊 第1.01-10条」を「(46 CFR ch.1 §1.01-10)」とする。
 
(3)海難調査関係機関
USCGの組織(その1)及び(その2)を参照されたい。
a 本部の調査部門(46 CFR ch.1§1.01-10)
 長官から本部の調査部門に至る指揮命令系統及び調査関係業務は、次の通りである。
ア 長官から本部の調査部門に至る指揮命令系統
い 長官(G-C)の一般的指示により、海事安全環境保護局担当長官補(Assistant Commandant for Marine Safety & Environmental Protection)(G-M)が、実地活動部長(Field Activities Directorate)(G-MO)の活動を監督及び調整する。
ろ (G-MO)は、調査分析課(Office of Investigation & Analysis)(G-MOA)による海事安全環境保護計画の計画管理をする。
は (G-MOA)には、調査係(Investigations Division)(G-MOA-1)及び遵法分析係(Compliance Analysis Division)(G-MOA-2)を置く。
イ 調査分析課の行なう業務は、次の通りである。
い 海難調査の再検討
ろ 海難及び負傷調査に関連する国内及び国際の計画並びに作業過程のための政策の管理、開発立案及び評価
は 海難、海難データ、民事罰及びその他の救済計画(船員が所持する沿岸警備隊発行の免許証、文書及び証明書の停止及び取消手続を含む。)の分析
に 海事従業員の薬物及びアルコール検査計画の管理
 すなわち、海難調査における本部の役割は、総括及び国際関係の処理にあるといえる。
b 管区の調査部門(46 CFR ch.1§1.01-15)
ア 管区司令官は、管区事務所の海事安全課長(Chief, Marine Safety Division in the District Office)並びに海事検査事務所及び海事安全事務所の担当官(Officer in Charge, Marine Inspection Office and Marine Safety Office)に海難その他の調査等を行なわせる。
イ 別に指名される調査官(Investigating officer)によって調査が実施される。
なお、調査官が配置されているのは、44箇所の海事安全事務所、3か所の海事検査事務所及び20か所の分遣隊(Detachment)であるという。
 
[2] 調査官(46 CFR ch.1§4.03-30、4.07-5、4.07-55、4.09-1)
 調査官については、次の通り規定されている。
a 調査官は、USCGの士官又はその他の職員であって、長官、管区司令官又は海事検査担当官からの指名を受けた者及び海事検査担当官とする。
b 海難又は船員の管理に関連する事項を調査する。
c 調査をする海難は、「3海難調査の客体」、「(1)海難調査の対象」の「[3]報告」に記述する出来事である。
 宣誓、証人喚問、参考人に対する質問及び関係文書等の提出に関する権限並びに証人喚問及び関係文書の提出については連邦地方裁判所(United States District Court)におけると同様の手続で強制することができる。
d 長官が海事調査委員会(Marine Board of Investigation)を指名すれば、収集した全ての証拠を同委員会に提供し、調査官は調査を中止する。
 
[3] 海事調査委員会(46 CFR ch.1§4.09-1、4.09-5)
1936年創設の海難調査委員会に由来する制度であって、次のように規定されている。
a 長官は、次のいずれかが明らかである場合、海事調査委員会を指名する。
ア 海上における人命及び財産の安全を増進させることができる。
イ 公共の利益になる。
b 調査の権限は、ほぼ調査官と同一である。
 海事調査委員会は、詳細な正式調査(a detailed formal investigation)を行なう機関であり、及び2人又は3人の長官の選任するUSCG士官から構成されるという(構成についての規則は不明である。)。
 
(まとめ)
 前節を受けて、本論であるUSCGの海難調査に入り、先ずその主体に関する事項につき、現状に至る経緯、現状を規制する法令並びに組織系統及び実施調査機関を述べた。全ての報告された海難の調査が、後述するNTSBの調査を含め、USCGの調査官によって開始されること及び調査結果が長官に集約されることは、アメリカ海難調査の特徴といえよう。海事調査委員会の必要性は、その歴史的経緯にあるように思われる。
3 海難調査の客体
 海難調査は、連邦規則集第46巻第1編、A節第4款の「第4.07目 調査」及び「第4.09目海事調査委員会」の規定に従って行なわれる。その規定は極めて詳細にわたっており、この節では、その主要な点を述べることにする。
(1)海難調査の対象
 USCGは、アメリカ合衆国の管轄に関連して多くの調査をしており、そのなかの一つとして、特定の船舶について、報告された海難を調査するのである。
 海難調査の対象とする船舶、海難及び報告については、次の通り規定してある。
[1] 船舶
 報告の対象となる船舶(vessels)についての規定は、次の通りである(46 CFR ch.1§4.03-1a)。
「第4.03-1条海難
a 海難に関係する船舶は、次の通りである。
ア 合衆国の領土を含む国内又はその領海内で事故に関係した公用船以外の船舶
イ 公用船を除く合衆国の船舶」
 なお、公用船については、合衆国法典第46巻 Subtitle IIにおいて、次の通り定義している(46 U.S.C. 2101(24))。
 「第2101条 一般定義
 このSubtitleにおいて、
 (24)公用船とは、次の船舶をいう。
a 合衆国又は外国政府が所有又は裸用船して運航する船舶及び
b 商的業務に従事しない船舶」
 この規定に関連し、連邦規則集第46巻第1章の第4.03-40条では、「沿岸警備隊又はセントローレンスシーウエイ開発公団の運航船舶以外の運輸省若しくは同省の組織下又は管理下にある団体の所有又は運航する船舶を除く。」ことを加えている(46 CFR ch.1§4.03-40)。
[2] 海難
 調査の対象となる海難(marine casualty or accident)の規定は、次の通りである(46 CFR ch.1 §4.03-1b,c)。(このほか、重大海上インシデント及び重大海難の規定がある。それについては、関係事項に合わせて述べることにする。)
 「第4.03-1条 海難
b 海難とは、次に規定する出来事のいずれかである。
ア 偶発的乗揚
イ 船体、艤装、索具又は貨物に関係した損傷若しくは人の死傷の生じた船舶に関する出来事
ウ それ以外の衝突、乗揚、沈没、荒天損傷、火災、爆発、機器故障及び船舶の堪航性に影響するその他の損傷
c 船舶から潜水作業に従事して水中呼吸具を使用している者の死傷」
[3] 報告
 海難の報告については、次の2通りが規定されている。これらに基づいて海難調査が行なわれるのである。
a 海難の通知(Notice of Marine Casualty)の場合:
 次の各号のとき、船舶所有者、代理店、船長、運航者又は担当者(person in charge)は、直ちにもよりの海事安全事務所、海事検査事務所又は沿岸警備隊グループ事務所(Coast Guard Group Office)に通知しなければならない(46 CFR ch.1§4.05-1)。
ア 故意でない乗揚又は橋梁衝突の発生
イ 航行、環境又は船舶の安全に障害となる、若しくは次のウからキまでの何れかの基準に合致する故意の乗揚又は橋梁衝突の発生
ウ 主要推進機構、基本的操舵装置若しくは船舶の操縦性能を低下させる付属設備又は制御システムの機能低下
エ 船舶の堪航性若しくは運航又は航路の適合性に実質的な、及び有害な影響を与えることであって、火災、浸水若しくは固定式消火システム、救命装置、補助発電装置又はビルジ排出システムの故障又は損傷を含み、それに限定されない出来事の発生
オ 人の死亡
カ 乗組員又は船内で商売を営む使用人の応急治療を超える専門的医療を要する負傷であって、日常業務を行なうのに不自由を生じるもの
キ 救助費、洗浄費、ガスフリー代、入渠費又は滞船料を除き、財産を以前の状態に回復させるための労賃及び材料費を含めて2万5千ドルを超える財産的損害の発生
b 海難報告書(Written report of marine casualty)の場合:
 船舶所有者、代理店、船長、運航者又は担当者は、5日以内に一定の書式による海難報告書を海事安全事務所又は海事検査事務所に届けなければならない(46 CFR ch.1§4.05-10)。
 
(2)海難調査の目的
 USCGが海難調査をする目的は、「第4.07-1条調査を命じる長官又は管区司令官」b及びc項として規定してある。目的規定がこのような形式をとるのは、海難調査業務が(他の業務同様に)長官の指揮命令によって行なわれるということを端的に示すものであろう。
 「第4.07-1条 調査を命じる長官又は管区司令官
b 海難及びその最終的判断は、海上における人命及び財産の安全を増進するため、適切な措置をとることを目的として行ない、民事又は刑事の責任を確定することを意図するものではない。
c 調査は、できるかぎり次の事項を最終的に判断するものとする。
1 海難原因
2 材料(物理的又は設計上)の欠陥が海難を発生させ、又は寄与したかについて、若しくは、類似海難の再発を防止するために適切な勧告をすることができるかについて、証拠があるかどうか。
3 免許又は証明の取得者の側に違反行為、職務上の不注意、不法行為又は法律に対する故意違反が海難に寄与したかについて、若しくは、免許又は証明の取得者の免許又は証明に対する適切な手続が勧告され、及び合衆国法典第46巻第6301条(海難の調査)の規定の下にとられているかについて、証拠があるかどうか。
4 沿岸警備隊士官又はその他の官庁の代表者又は被用者若しくはその他の者が海難原因になるか、又は寄与したかについて、証拠があるかどうか。
5 この海難が第4.09款の規則による海事調査委員会の調査を将来受けるものとするかどうか。」(46 CFR ch.1§4.07-1b,c)
 第4.07-1条b項の規定は、「民事又は刑事の責任を確定することを意図するものではない。」となっているが、この規定が、海難調査の結果を制約するものでないことは、c項の規定から理解される。USCGの海難調査の目的は、具体的にいえば、海難原因の確定、再発防止のための法規の改廃を含む勧告の提示及び船員の不正行為暴露による船員の免許等に関する処分をするための証拠収集並びに海事調査委員会の調査へ移行するための判断資料の収集にあると理解することができる。(なお、後述の「(3)海難調査手帳」「[3]NTSBによる調査に関連する手続」及び「6 結語」を参照のこと。)
 
(3)海難調査手続
 海難調査手続については、調査官による調査及び海事調査委員会による調査の場合のほか、NTSBによる調査の場合が規定されている。
 調査の公開については、合衆国法典第46巻第6302条に定められている。その規定は、次の通りである。
 「第6302条 公開調査 この章及びこの章によって定められた規則による調査は、国の安全に影響のある証拠が示される場合を除き、公開されるものとする。」
 この章とは、「第63条 海難調査」(「2 海難調査の主体」「(2)海難調査関係法規」「[2] 合衆国法典第46条−海事」を参照)である。
[1] 調査官による調査手続
調査官による調査に関しては、次のことが規定されている
a 第4.05-1条及び第4.05-10条によって報告された海難を調査すること並びに調査における宣誓管理、証人喚問、専門家に対する質問及び関係文書の作成要求の権限を有すること(46 CFR ch.1§4.07-5)
b 調査を開始するにあたっては、初めに手続に関して法的権限があることを宣言し、証人尋問及び反対尋問(examine and cross-examine witnesses)並びに当事者のための証人喚問(call witnesses)について、弁護士(counsel)に代理させることができる旨を告げるものとすること(46 CFR ch.1§4.07-7)
c 全ての当事者(parties in interest)が、証人尋問、反対喚問及び当事者のための証人喚問に関して弁護士による代理が認められること並びにその他の弁護士による補助が受けられること(46 CFR ch.1§4.07-35)
d 管轄移転は、管区司令官が命じること(46 CFR ch.1§4.07-20)
[2] 海事調査委員会による調査手続
 海事調査委員会による調査に関しては、調査官による調査手続のbが適用される(46 CFR ch.1§4.07-7)ほか、次の規定がある。
a 海事調査委員会に宣誓管理、証人喚問、専門家に対する質問及び関係文書の作成要求の権限があること(46 CFR ch.1§4.09-5)
b 証人に対して旅費等の支給をすること(46 CFR ch.1§4.09-10)
c 関係者に対して調査日時及び場所の通知並びに証人等の弁護士に代理させる権利があること(46 CFR ch.1§4.09-15)
d 証拠を得るための会合は原則的公開であること(46 CFR ch.1§4.09-17)
e 記録官により海事調査委員会開催地区の連邦検察官(United States Attorney)に対して調査事故の種類並びに調査日時及び場所の通知をすること(46 CFR ch.1§4.09-25)
f 免許又は証明の停止又は取消のため本節第5部による訴訟提起をすること及びその場合において管区司令官に対する通告をすること(46 CFR ch.1§4.09-35)
[3] NTSBによる調査に関連する手続
 重大海難(Major marine casualty)は、NTSBが調査をすることができる(46 CFR ch.1§4.40-15)のであり、その場合、USCGは予備調査をする(46 CFR ch.1§4.40-10)のである。又、NTSBによる調査がその都合で行なわれないときは、USCGが調査をすることができる(46 CFR ch.1§4.40-25)のであって、USCGが海難調査をする責任は排除も削減もされない(46 CFR ch.1§4.40-3a)のである。
a 重大海難の定義
 重大海難とは、公用船を除く船舶に関わる災害であって次の結果が生じたものである(46 CFR ch.1§4.40-5d)
ア 6人以上の死亡
イ 総トン数100トン以上の推進機関装備船舶の喪失
ウ 初期評価価格500,000ドル以上の財産の損害
エ 長官の決定及び委員長の同意による危険物質からの生命、財産及び環境に対する重大脅威
b 予備調査の実施
 USCGが予備調査を行なう場合、長官は、調査報告書によって次の事項のいずれかに該当するかを明らかにし、それをNTSBに通知する(46 CFR ch.1§4.40-10b)のである。
ア 重大海難であるかどうか。
イ 公用船及び非公用船が関わり、少なくとも1人の死者又は75,000ドルの財産の損害が生じたかどうか。
ウ 沿岸警備隊の船舶及び非公用船が関わり、少なくとも1人の死者又は75,000ドルの財産の損害が生じたかどうか。
エ 沿岸警備隊の安全機能、例えば、捜索及び救難、航路標識等、船舶通航システム、商的船舶の安全等に関わる顕著な安全問題を含むかどうか。
c NTSBに替わるUSCGの調査
 NTSBによる調査がその都合で行なわれないときは、USCGが調査をすることができる(46 CFR ch.1§4.40-25)。その手続等については省略する。
 
(4)海難調査報告書
 調査官又は海事調査委員会は、海難調査の終了時に海難調査報告書を作成する。その内容等及び提出については、次の規定がある。
[1] 調査官の報告書
 調査官の報告書については、次の規定がある(46 CFR ch.1§4.07-10)。
a 認定事実並びに意見及び勧告を内容とする報告書を作成する。
b 船舶検査担当官及び管区司令官を介して長官に提出する。
c 船舶検査担当官及び管区司令官は、次のことを述べた裏書を添付する。
ア 内容承認の可否
イ 勧告に関連して提起された訴訟の有無
ウ 免許又は証明の停止又は取消のための本節第5款による訴訟提起の有無
エ 船舶の法令違反についての書式CG-2636(法令違反報告書)による報告の有無
[2] 海事調査委員会の報告書
 海事調査委員会の報告書については、次の規定がある(46 CFR ch.1§4.09-20,35)
a 認定事実並びに意見及び勧告を内容とする報告書を作成する。
b 長官に提出する。
[3] 国際海事機関(IMO)に対する報告
 USCGは、国際海事機関(IMO)のいわゆる窓口であり(「2 海難調査の主体」「(3) 海難調査関係機関」「[1] 組織系統」を参照)、同機関に対する事故調査報告について次のように行なわれているという。
 長官は、総トン数1,600トン以上の船舶における1隻以上の全損又は総トン数500トン以上の船舶における1人以上の死亡の出来事について完全な調査報告書の写をIMOに送付する。
[4] 調査報告書の公開
 調査報告書の公開については、合衆国法典第46巻第6305条b項に定められている。その規定は、次の通りである。
 「この章による調査報告書は、公開されるものとする。この規定は、合衆国法典第5巻第552条b項又は、その他の合衆国法律の定める開示から保護される情報について公開を求めるものではない。」
 
(まとめ)
 海難調査の客体については、幾つかの際立った特徴が見られる。以下にそれを摘示してみる。
 第1に公用船の海難を除外する点である。公用船が除外されることから公用船も調査対象にできる別個の調査機関が必要になるともいえよう。
 第2に調査目的が原因究明及び再発防止のための勧告に限定されない点である。商船員の免許等に関する処分のための証拠にすることが明記されている。
 第3に証人等の尋問に弁護士の関与を認める点及び公開を原則にする点である。海事調査委員会の尋問は公聴会の形式をとっているから当然といえるが、公聴会を開催しない調査官調査の場合もこれが認められている。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION