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私など間もなく90歳ですからだいぶお釣りがくるのですが、それはどうなるのかということになります。しかし、それには今度は平均余命という数値で考えることになります。つまり、いま75歳の男の方は、その齢まで生きてきたという非常にいい条件があるのですから、それは0歳を基点とした平均寿命よりももっと長くて、統計上はあと10.28年は生きられるということになっています。ですから、その方は特別に不摂生をしたり交通事故に遭ったりしなければ、これから先10年間の計画を立ててもよいということになります。また、現在75歳の女子は13.71年間ですから、89歳までの計画を立ててもいいということになります。私の場合には90歳ですから、あと無理をしなければ3.76年、93歳になると、あと3年は生きられるというようになって、運がよければ100を超えるかもしれません。

 日本には現在、100歳以上の人が1万5千人います。アメリカの人口は日本のちょうど2倍ですから、では3万人いるのかというと、そうではなく、アメリカでは100歳以上の人口は5万人もいます。そして10年先には10万人になると予測されています。21世紀にはこのように高齢者が増えるのは確実ですから、老人問題はこれますます大きくなるでしょう。ことに医療費についてはいまでも30.9兆円もかかっていて、全医療費5割を超えており、国民所得の8%を占めています。このような状態がつづいていきますと、健康保険制度はおそらく崩壊をせざるを得ないだろうと思います。

 

いのちはめぐる

人間というのは生まれて、その間に病気をし、だんだんと齢をとって、そして死ぬわけです。お釈迦さまが言われた「生病老死」は、皆さんのどなたにも訪れます。それはもう決まりきっていることです。

私は去年『葉っぱのフレディ』という童話を脚色して、それをミュージカルとして上演しました。たいへん好評でしたから、今年も東京と大阪とで合計6回上演することになりました。この『葉っぱのフレディ』が主題としていることは、「すべてのものが変化する」ということです。樹の梢の葉っぱも春から夏に、夏から秋へと姿を変え、そして冬になると枯れて、そして散っていく。この自然の変化は私たちの人生そのものをいっていることでもあります。

葉っぱのフレディがその兄貴分のダニエルと交わす会話は、私たち人間の会話に等しいわけであります。、死とはどういうものなのか、そして死ぬのが怖いというフレディに、兄貴役のダニエルは「だれでも、経験したことがないことは怖いと思うものだよ。でも、世界にあるすべての生きものは、樹も動物も人間も、すべてが変化しつづけているのだよ。それが宇宙の理じゃあないか」と教えるのです。そして時がきて、お迎えがくれば、いつでも自分の役が終わったという気持ちでただ去ればいいと諭すのです。葉っぱは地に落ちて、その水分は栄養素となり、再び大地から根に吸い上げられて、春になると若葉がそこで生まれるという命の循環、そういうようなことが葉っぱ同士の会話で表現されているのです。

私たちのいのちもそのとおりで、私たちも時がくれば葉っぱのように散らなくてはならないのです。けれどもそのときに「ああ、私は自分なりに最高のことができた。

 

 

 

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