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そうしますと、往生という言葉の中に、あの世へ行ってしまう、仏の世界に入るという発想と同時に、現在の世をいかに生きるかということも、往生という意味として考えられるわけでございます。

それから第三はどうにもしようがなくなって困ってしまうといいますか。あるいは、無理に押しつけられて困ってしまって、いやいや承知するといいますか。それから、すっかり諦めてしまってもう行動をやめてしまう。それも往生って言うんですね。それから、これは隠語ですけれども、泥棒が使うものですと警察へ捕まって自白すること。これも往生なのですね。私も今、内輪話を自白しましたけれども、これも往生なのですね。

そうしますと、往生という言葉には3つの意味がある、第1は、あの世へ行って往生すること。第2は、この世で信心を持って非常に充実して生きて、不退転の決意を持って生活すること。第3は、この世で非常に困ったのだけれども、何とか乗り越えていこうとすることです。このあとの第2、第3のような意味で、私は往生を考えてみたいのです。ごく常識的には、死んであの世に行くことが往生だと思われますが、それが古い往生だとしますと、このタイトルで「新往生考」と新しい往生と書いたのは、むしろ私たちが生きていくときに、不退転の決意、信心を持ってこの世をどう生きていくのかと。そういう意味で往生という言葉を使いたいと思います。

学者というのは因果なもので、こういう固いことを最初に申し上げますので皆さん方も退屈されたと思いますが、先ほど一番初めの財団の方からのごあいさつにもありましたように、ニューヨークの貿易センタービルで大きなテロ事件がありました。そのあとで、新聞に出ましたからご存じの方も多いと思いますが、イスラム原理主義のあのグループが、テロの指示書を出しておりました。そのテロの指示書にもとづいて、旅客機を乗っ取って、自分も旅客機ともども貿易センタービルにつっ込んでいく。そういう形での強いられた死を命令されて、非常に動揺しているのを鎮めるために、イスラム教の原理主義は一体どういうことを教えたのかということを、ちょっと皆さん方と一緒に検討してみたいと思います。

これは、朝日新聞のワシントンポストからの要約ですが、こういうことを言っているのですね。「今夜様々な困難に直面することを思い起こせ」と。これはご承知のように、飛行機を乗っ取る前の夜のことですね。おそらくいろいろなことを悩み苦しむでしょう。それをさしているのですね。その次に、「神とその使徒に従え。弱気になって自分と闘おうとするな。立ち上がれ。だれもが死を嫌う」、その次ですが、「だが、死後の生活や死後の応報を知る者なら、進んで死を求めるだろう。祈りなさい。コーランを朗読せよ。戯れと無駄なときは去った。審判のときは来た。残された時は神に赦しを求めるためにある。そこから先は幸福な人生、無限の楽園が始まる」。そのあと非常に実践的なことを言っているのですね。「持ち物を全部点検すること。カバン、服、ナイフ、遺言書、身分証、パスポート、全書類。くれぐれも尾行されないように気をつけて」。最後に、「心は広く持ち、直面する物事には気持ちを閉ざしなさい。これからは至上の暮らし、永遠の暮らしに入る」と。お気づきのように、彼らにとりましては、現在生きている世界よりも、アフガニスタンは非常に貧困な世界ですから、現在生きている世界よりも、死後の神の世界のほうが大事なのでして、現世の生活は来世の神の国のためにあるわけですね。

 

 

 

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