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彼は担任や副担任の教員の援助によって、友達づくりに成功し毎日登校していたのですが、2カ月後疲労と不安から欠席をするようになり、再び相談室を訪れます。

「仲良くなった友達が、他のグループの男子や女子と休み時間に話をすることが多くなり、そこには自分は入っていけない。すごく疲れているが、眠れないことがあり、登校しては数日休むという繰り返しになっちゃう」と、落ち込んでいる気持ちを話してくれました。また疲れているにもかかわらず、「親から学校に行きなさいと言われると、どうしていいかわからなくなる」とも言うのです。

この時期、A男への援助チームの会議ではA男へのカウンセリングを定期的に継続し、A男に登校を強制してしまう母親のカウンセリングを平行して行うこと、教室内でのA男の人間関係を調整すること等を確認し合っています。

教室の中では、あるひとりの仲の良い友達と話す以外は、ひとりで本を読んだり、絵を描いていることの多いA男でした。夏休み中は欠時を補うために補習によく出席し、クラスレクでは大好きな遊園地に出かけ、クラスメートとも交流を持つことができました。

 

高校1年・9月より12月まで

夏休みが明けてしばらくはよかったのですが、保健室で休んでいる姿が見られるようになり、10月に入ると再び調子を崩すA男。相談室では、彼は「お母さんは学校に行くことが当たり前と思っており、その期待を裏切れない」「クラスメートが持ってくれた自分への良いイメージをこわしたくない」「同年代の人とうまくコミュニケーションをとらないといけない」等の気持ちから無理をしたり、教室でも神経を使っていることを話してくれるようになっています。

学校を欠席することへの罪悪感はかなり強く、「きちんと登校できないのはいけないこと」「他人によく思われないといけない」という受け取り方が、A男の不登校の背景にあることがわかってきます。相談室では、それをいっしょに検討し、午後からの教室への登校や、疲れた時の保健室利用を含めた無理のない学校生活を自分で少しずつ送れるように促しています。

教室内でのA男は緊張が強く、授業中に教科の先生から質問されることに、とても不安を感じていました。また休み時間も、クラスメートが楽しく雑談しているところへ入っていきたいのですが、気を使って疲れてしまうので、ポツンとひとりでいることも多かったようです。そして家族の中でも自分の気持ちが素直に話せず、父親や母親だけでなく弟にも気を使っている状況でした。A男は自分がきちんと登校できていないということに、肩身の狭い思いをしていたのでしょう。

「A男が登校せず自宅で休んでいると、また以前のように長引いてしまうのではないかと不安になるんです。それで、つい口やかましく言ってしまうのです。主人が厳しく言ってくれれば…」。A男の母親も、とてもつらいのです。母親との面接は、カウンセラーである筆者がA男の了解をとって行うこともありましたが、主に担任が定期的に行っていました。母親とは「A男が不登校をしていることの意味・テーマ」についていっしょに検討して、A男についての理解を深めてもらい、肯定的な対応を家族の中でしてもらえるように母親のサポートを継続していきました。また援助チームは、「A男については、授業中に配慮して欲しい」と、職員会議で教科担任に要請をしています。

 

 

 

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