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高校1年・1月から3月まで

冬休みの補習にはがんばって出席できたものの、休み明けは調子が悪いため教室に入れず、保健室で休んだり勉強したり、再び教室に戻って授業を受けたりするA男。しかし彼は、保健室・相談室・教室を自分の調子に応じてうまく使い、時々の欠席を含めた、自分なりの学校生活のペースをつかんでいきます。担任の勧めで出品したA男の絵が、冬休みにコンクールで入賞したことも彼の自信になったのでしょう。

2月に入って相談室では、「休んでいた時、しかられる夢をよく見た。実際、お父さんやお母さんは、休んでいても文句やいやみを言わなくなってきているんだけど。見守ろうと努力してくれているのはよくわかる」と話してくれています。

さらにその後、不安・落ち込み・強い緊張の背後にある、自分を追いつめるゆがんだ考え方にも少しずつ変化が現れてきます。「学校を休んだからといってダメな人間というわけではない」「クラスメートによく思われるにこしたことはない。しかしそうでないからといっておしまいというわけではない。他人に気に入られるために生きているのではないので、自分のペースを大切にしよう」と、自分のものの見方を変化させようという、前向きな姿が相談室で見られるようになっていきます。「進級できなかったらどうしよう」という不安や焦りと闘いながらも、A男は無事に進級を果たします。

 

高校2年・4月から7月まで、そしてその後

進級できたことの喜びは、A男にとっても家族にとっても大きなものでした。2年次も1年次の時と同じ教員がクラス担任となり、仲の良いひとりの友人とも同じクラスになったことも心強かったのでしょう。教室では自分からクラスメートに話しかけることが見られるようになっていきます。またA男の母親も、この時期にはA男が欠席をしても、それを受けとめられる心境になっています。

担任・副担任は、A男の人間関係を広げてクラス内での居場所を作ることを目的として、朝や放課後のホームルームや学活の時間に、エンカウンター(ゲーム形式のエクササイズを通して、他人とのホンネでの交流を促進していくグループ・カウンセリング)を継続して実施していたのです。もちろんA男にとって負担にならない、自由度の低いエクササイズが選定されたので、A男も緊張は感じたものの楽しみながらクラスメートと交流できたようです。

「何人かの気の合う友人ができたので、学校に来るのが楽しくなってきた」、「まだまだひとに合わせようとしたり、いろいろと気にして疲れちゃうところもあるけど、気軽に話せることもある」。6月、7月の相談室でのA男の発言です。その後A男は自分なりの登校ペースを確保し、安定を見せていきます。

高3の2学期には卒業していくことに大きな不安を抱き、揺れを見せましたが、乗り越えます。高校卒業後の現在、A男は専門学校に通っています。イラストレーターになるためです。

 

 

 

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