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自立回復に向けて

帰国してからも、あまりの変化にだれもが驚く。ひとりゲームをしている時間が減り、周りのだれかれにかかわらずあいさつをし、話しかけ、おしゃべりを楽しむようになる。積極的に片づけものをしたり、年下の子どもたちのめんどうをみたりするようにもなる。

彼は現在も、不登校状態が続いているが、今まで全く興味を示さなかった学習に関しては、高校進学の意志をはっきり見せ始めている。それよりも、周囲の人たちへの気遣い・心遣いなどができるようになったのは、うれしいかぎりである。本人も、自然体験をすることで自分が変わったことを、自信を持って話せるし、これからもいろいろな所に行きたいという意欲もわきあがり、目が生き生きと輝くようになった。自分自身が己を変えたという自信に満ちている。

 

―所感・考察―

この自然体験活動が、どんな不登校生や、人間関係が不得手な若者にも適しているとは考えていない。

とはいえ、自然体験を通じて五感や感性が磨かれ、生きる活力、生き甲斐、自然との調和、人に対する思いやり、愛情や友情などが回復するという効果を期待する。ことに、引きこもりや閉じこもりの若者たちが、外界に出て社会性を育む契機づくりに役立てようというのが、われわれの実践の目的である。

対象は、引きこもりや閉じこもり、いじめなどによる不登校生、人間関係の不得手な子どもたち・若者、LDやADHDなどの障害を持つ子どもたち、目・耳の障害、人格・精神障害の子どもたち、うつ的症状・自律神経系・睡眠障害・摂取障害、生きる目的を失った子どもたち、喜怒哀楽や五感を閉ざしている子どもたち、無気力・自殺願望・人間不信・自傷行為・他害行為・家庭内暴力をしてしまう子どもたち、親から虐待を受け心に傷を持った子どもたちなどであり、この彼も対象に含まれると判断した。

その効果を箇条書きにすると、以下のようになる。

1] 水に触れる場所

水辺に近い場所では、心を開くことが多い。特に体温に近くなるほど、母親の胎内あるいは羊水の中で無償の愛を感じ取ることに似ている。

2] 自然環境保護の学習も織り交ぜる

自然との調和、環境保護を学び、自然に触れることによって、自然の中に自分とその存在や価値を認め、自分を愛し自然を愛し、人や自然を大切にする気持ちを育み、意欲を持てるようになる。自然世界の中で調和し、守ることの大切さを五感で感じ取ること、動物から学ぶ(まねぶ)こと。

3] 心の傷を癒す

いじめや人間関係で疲弊した心を、自然体験により癒すヒーリング効果を期待することができる。ただし、ケアおよびアフターフォローも含めて、セラピストやカウンセラー、自分を支えてくれる存在を認識する必要もある。

4] 短期共同生活をする(7日以上)

人間関係が苦手であり、人間不信などに陥っている若者にとって、社会性などを修復するのに7日以上の共同生活をすることが、かなり効果的であることが経験上わかっている。

 

 

 

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