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来塾する時間、お昼を食べる時間、帰る時間などが全くコントロールできない。表情が変わらず、喜怒哀楽や五感の反応がほとんど見られない。簡単なことを聞いても、返事がないか、ものすごく時間をかけて答えるかである。

 

自然体験活動への参加

両親ともそんな姿を知っているため、勉強よりも社会性や協調性を身につけることを考えており、ことに意志疎通に関しては不安を持っていたようだ。

彼が、家では通常の社会生活を送れるのに、外界ことに学校に行くと心を閉ざし、自閉の状態と変わらぬ態度をとり続けることを、どのようにして回復・改善させるか。この問題を解決するには、原因の追及と犯人探しをするよりも、環境の変化と信頼関係の構築に力を注げば良い結果が得られるのではないかと、経験上類推・推察した。

方法としては、五感作用の回復および人間関係の修復に最も効果的な、劇的な環境の変化を伴う、国内および海外での自然体験活動を改善の契機として提案する。

初めて参加したのは国内の自然体験活動であったが、帰ってから一部のスタッフと言葉を交わすことができるようになる。家では以前に増して話をするようになり、うるさいと思うほど話しかけてくるとのこと。しかし、自分をコントロールすることができなくて、食事などもものすごくむらがあり、相変わらず黙ってゲームをしていることが多かった。

再度の国内の自然体験活動に参加後は、私を含めて同行ボランティアとひとりのスタッフとは、普通の会話ができるようになる。

 

フロリダのエコ・キャンプへ

母親と父親もその変化に気づき、ぜひ海外の自然体験活動に参加させたい旨の連絡を受け、中学3年の6月に仲の良いスタッフと参加。フロリダの野生のイルカと泳ぐ「エコ・キャンプ」、9泊11日のプログラムで渡米する。行きの飛行機の中では、事前説明会とセミナーで話したとおりに、スチュワーデスに英語で答えることができ、顔つきに表情が出てくる。2日目、3日目は無難に過ごしたが、4日目に大きな変化が現れる。

食事の支度を手伝ってくれたのだ。船の上では、スノーケリングの時手を出して水中から引き上げてくれたり、錨を下ろしたり上げたりするのを手伝ったり、みんなの荷物を持ってあげたり、声を掛け合ったりするようになる。朝も、英語や日本語で元気良くあいさつをするようになった。スーパーに買い物に行くと、ひとりで欲しいものを買ったり、ハンバーガーやジュースを注文したりすることもできた。表情が非常に明るくなり、楽しそうに話したりして、ひとりでいることが少なくなる。スーパーで買った服などの色彩感覚も全く変わり、明るい色になった。

 

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フロリダにて。

 

 

 

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