日本財団 図書館


多様な人たちとの出会い

母親に付き添われてきた純さんは終始暗い表情で、話の間もずっと下を向き、目を合わせようともしない。ひと言も語らないので、こちらの言うことを聞いているのかどうかさえわからない。いきおい、こちらの独壇場となり「学校だけがすべてじゃない。いろんな道があっていいし、学校に行かないことがプラスの経験にもなる」と、うちの基本理念をストレートに語ったが、正直いって「この子は、この話を理解できているのか、本当にうちでやっていけるのか」と半信半疑だった。

ところが、純さんは勉強会に通ってくるようになった。初めの何回かは不安だからと、犬を連れてやってきた。本人にしてみれば、相当な勇気をふりしぼってのことだったと思う。しかしサポート役の同年代のスタッフに話しかけられ、なんとか受け答えするうちに、初めは聞かれたことに答えるだけで精いっぱいだったのが、少しずつ思ったことを口にすることができるようになってきた。

若いスタッフの働きかけで、勉強会だけでなく、毎週1回、若者が共同生活をする「若衆宿」で開く「鍋の会」にも顔を出すようになった。そこには、いろいろな人間が集まる。引きこもりと闘っている若者、引きこもりを脱してニュースタートのスタッフになっている者、悩み多き会社人間、そして巷にいるただのおっちゃん、おばちゃん。それぞれが、勝手なことを話しながら、1つの鍋をつつきあう。話してもいいし、その場の雰囲気を楽しんでいるだけでもいい。でもたいてい皆が、新しく来た若者をひそかに気遣い、いろいろ話しかける。そんな多様な人間との出会いや周りのスタッフとのやりとりの中で、純さんは人とかかわることの楽しさを実感し始め、外に向かって自分を開くようになってきた。

 

ホームヘルパーの資格を取得

ちょうどその頃、ニュースタートでは引きこもっていた若者たちの社会復帰への支援策として、ホームヘルパー養成講座を始め、彼らの実際の活躍の場として介護と託児を行う地域センターの設立準備を進めていた。外の世界とのかかわりが楽しくなってきた純さんも、本人の希望でヘルパー養成講座へ参加することになった。何か資格をとってみようという気持ちと、彼女の中に潜在的にあった「福祉と子どものことがしたい」という思いが具体化することになった。

その頃の純さんは、見違えるようにいきいきとした表情で、学校とは違っていろんな世代が交じり合う講座にのぞんでいた。3カ月におよぶ講座をほぼ休まずに受講、無事ホームヘルパー2級の資格を取得した。

そして純さんは、昨年11月に開設したニュースタート行徳センターで、介護と託児のスタッフとして働き始めた。お年寄りに話しかけ、子どもと思いきり遊ぶ。そんな時を「充実している」と純さんは感じている。

 

109-1.jpg

ミニ・デイ「福祉コンビニ」。ヘルパーは元引きこもり経験のある若者たち。

 

109-2.jpg

託児所のスタッフとして、ケアする側にまわる、元引きこもり経験者。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION