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最近、純さんは「レンタルおねえさん」としての活動も始めた。かつて狭い世界に引きこもっていた彼女が、今度は引きこもっている若者を外へ出す役にまわっている。心を閉ざして語ろうとしない相手に、根気強く働きかけるのである。いまは、その難しさを痛感している様子だが、そのうち外へ出た時の喜びも分かち合えるようになるだろうと思う。

「すごく楽しいですね。今しかできないことをやりたい」。そう語る純さんは、当初の目標だった「トリマー」を、いったん白紙に戻した。ニュースタートの活動が今はとても楽しいので、しばらく続けるつもりだという。

私も「20代のうちは仕事をひとつに決めず、いろいろやったほうがいい」と、常々語ってきた。若い頃の体験の豊かさが、その後どんな道に進もうとも、大きな土台になると考えているからだ。

トリマーの資格をとるためと、ニュースタートへ来るきっかけとなった大検の勉強会のほうは週2回参加し続け、今に至っている。この夏にもすべての単位をとり終える予定だ。

 

―所感―

このことについて私は、もしうちが大検の勉強会だけやっていたのでは、彼女はおそらく続かなかったのではないかと考えている。いろいろな仕事を体験し、いろいろな人の人生に触れる機会があったからこそ、「なぜ自分は大検をとるのか」を絶えず問い返し、自分なりの学ぶ目的をつかむことができたのだと思う。大検をとらなくても生きていける。多くの選択肢に出会うことによって、逆に彼女は大検の勉強を続ける意欲を持ち続けることができたのだ。

「この学歴社会で、とりあえず先に進むのに必要なもの」と、純さんは大検をとらえ、勉強に励んでいる。こうした一人ひとりの若者の学ぶ意欲、目的を持続させるためにも私は、勉強だけではなく同時にさまざまな体験のできる場が、学びの場として必要なのだろうと考えている。

先日純さんに、ニュースタートに来て何がいちばん良かったかと聞いてみた。答えは、「いろいろな体験ができたこと」であった。それこそ「わが意を得たり」である。

若者たちが学ぶ場が、「学校」である必要はないのだ。不登校になったからと「学校もどき」に通わせるのは、もうやめたほうがいい。働きながら、あるいはいろいろな体験をする中で学ぶなど、もう少し学びの場のイメージを広げて考えたほうがいいのではないか。生活実感を伴う場で学んだほうが、学びへの意欲もわき、学力も身につくのではないだろうか。

ニュースタートは、「フリースクール」といわれる「学校のような所」ではない。介護や託児といった、さまざまな体験を通しての学びの場である。

こういう学びの場、学ぶ方法もあるということに、親の世代の大人たちが幅広い理解をもってくれれば、「学ぶ意欲を失くしている」といわれる最近の子どもたちも、新しい学び方を、新たな学びへの意欲を発見できると思っている。

 

 

 

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